JD-153.「身代わりの闇」
謎の動く土偶に案内を受け、階段を上がった先にあったのは研究所のような、あるいは保管庫のようにも見える場所だった。むしろ、なんでも詰め込んだようなちぐはぐな感じが一番近いだろうか?
外とは技術が違う感じに加えて、動く土偶……これはもしかして。
『まずは挨拶を。ようこそ未来研究所へ』
「なんだか名前からして胡散臭いわね」
正面からのルビーのつっこみに、土偶の表情は変わらないけれど苦笑したような気配が伝わってくる。器用というか、これを作った人がすごいというか……うん、間違いなくあの都にあった建物やセバスに近い物を感じる。
だけど、技術は外に出さなかったのと、伝える人間がいなくなったであろう状況で何故ここに?
それに、ニーナが頑張って見つけれくれたように元々は見つからないように隠れていたはず。それが今になって出てきたということは何か問題が出ているのだろうか。
『長らく交代要員も、こちらからの報告を受ける人間も来なくてね。段々と塔の機能は低下していくし……隠ぺいの障壁もだいぶガタが来てしまったからね。緊急手段として、立ち入って来た現地人に協力してもらってる状態なのさ』
「それが下で寝ていた人たちか……目を覚ますのか?」
覚まさないというのなら、それはやりすぎだろうとも思う。それに、舵が効かなくなるという謎の光も問題だ。村が立ち行かなくなってしまうわけだからね。じわりと、俺の土偶を見る目が険しいものになったことに気が付いたのだろうか、土偶は両腕上に上げて降参のようなポーズをとった。というか腕は動くんだな……。
『もちろん。必要なマナを確保したら解放できるよ。本人達はちょっと夢を見たぐらいじゃないかな。欲に負けて怪物に襲われてる夢かもしれないけど。不法侵入なんだ、そのぐらいはいいよね?』
「私達には何も言えませんわね。どちらもどちらかと……」
なんとも返事に困る答えだったが、怪しいからと勝手に入って来た村人も村人だし、それを捕まえるような形で協力してもらっている土偶も土偶だもんな……。どっちが悪いとは断言しにくい状態なのは確かだった。
『それで、君たちは? 今さらだけど、研究者という感じじゃないよね。君以外子供だし……』
「ああ。落ち着いて聞いてほしい。実は……」
そうして俺達は、土偶へと恐らくは衝撃であろう事実を告げる。土偶とこの塔があの時代の物ならば、既にその時代はかなり過去の物で、本来の管理者、研究者たちは子孫すらどこまでいるか怪しい事や、今の世の中がどういった状況であるかを。
『なんてこった……ずっとやってた研究や観察も無駄骨かい』
じっと、表情を変えずに聞いていた土偶は、話が終わると崩れるように床に倒れ込み、何やら嘆くように震えている。ゴーレムとして扱うには随分と高性能というか、もう1つの生命体のように思える姿だね。
どう声をかけたものかと思いながらも話を進めないわけにもいかない。
「この塔はどうしてこんな場所に? 言ってはなんだけど、だいぶ離れたへき地だと思うんだけど」
『ああ、そうだね。この場所はまさに言われたように僻地の研究所兼保管庫だったのさ。いざという時の予備かもしれないね。観察と情報収集、この土地が移住するのにどこまで適しているか、維持が出来そうかと言ったこのとね』
土偶の言葉に嘘はないように思える。その必要もないしね……守秘義務みたいなのも、守るべき相手の人間がもういないわけだから。でもそうするとちょっとばかり謎が増えた。話が本当ならば、かつての都の人間はあの都以外の場所に移住することを検討していたことになる。残ったものの通りなら、繁栄を続けていたあの都を捨てて……。
あの場所での発展に行き詰まりを感じていたのか、それとも……モンスターの反撃を予期していたのか。
もし後者だとすると間に合わなかったわけだからそれはそれで少々悲しい事態だ。
「お人形さん、お人形さん。ここに貴石は無い? ジルたち、探し物があるの」
若干の沈黙。そんな中、ジルちゃんがある意味俺達の本題を切り出した。
そうだった。塔の秘密を暴くのも目的だけど旅自体の目的はそっちだったね。
「あるはずなのです。その気配を感じたからここに来れたのです」
「ニーナ?」
いつもと比べ、妙に強い口調で問いただすニーナ。俺はその必死さを感じる声に思わずニーナを見てしまう。
戦いの時のような真剣な顔。だけど、ちょっと違うような……。
『てっぺんにぶつかって来た奴かな? 私に害がないから放っておいたけど……取ってこよう。ちょっと待っててくれないか』
そういって、土偶はまた隅の階段から音を立てながら登っていく。その先に貴石があるのだろうか。
上の方にあるということは謎の光は元々の物じゃなく、その貴石が光ってるのかな?
話によると、暗いのに黒いとわかる不思議な光だったということだけど……。
「ニーナ、貴女どうしたの? いえ、別に私も自分のが見つかりそうなら必死になるだろうなとは思うけど」
「? 大丈夫ですよ? 全然問題ないのです」
困惑の表情のルビーに答えるニーナはいつも通りに元気な姿。特にはおかしいところはない。やっぱり貴石が見つかるからと必死になっただけかな? 短い時間の後、再びの足音。土偶が降りてきた時にはその手の先には小さな黒い塊……うん、俺にも感じる……たぶん貴石だ。
『これでよかったかな? 上でビカビカ光ってたからね。あれだと外の現地人の感覚は狂うんじゃないかな』
「それなのです! ありがとうなのです!」
小さな手の中に、そっと貴石、オニキスを握りこむニーナ。その姿は普通に女の子が欲しい物を手に入れた時のようなまばゆいばかりの笑顔が輝いている。今のところ、ラピスやジルちゃんの時のようにエンゲージを試すような戦いの場ではないので特に何も起きていないようだった。後で魔法陣から投入してあげればいいのかな?
「おめでとう、ニーナ。後でマスターに入れていただきましょうね」
「あー! そういえばボク、自分でいれちゃったんだ。もったいないことしたなあ……」
言われてみれば、ジルちゃんの時は結構特殊な感じだったし、ラピスは魔法陣から、フローラは自分で魔法陣に入れたもんな……落ち着いた状態でやれるのは初めてなんじゃないだろうか。
土偶もいる中でするのはちょっと気になるので後で、という予定で次の本題だ。
謎の光はこのオニキスが光ってたらしいからこれで解決だとして、ね。
「ねぇねぇ、下の人達は早めにおはようってできない?」
「うんうん。マナだったらボクたちでも手伝えるよー」
この場所が隠れているべきものだというのなら、早めにそうした方が良いと思うし、村人も早く帰れた方が良いとは思う。その条件にマナの供給があるというのなら俺達が協力するぐらいはいいんじゃないだろうか?
人よりみんなマナの量は多いだろうし、石英とかですぐに補給できるしね。
『こちらとしては確保できれば問題ないけど……たぶん、君たちなら1人でいいんじゃないかな。詳しく測ったわけじゃないけれど、規格外すぎる……』
どうやら俺達のマナ量は土偶からしても結構な量らしかった。1人でいいということは俺でいいかな? 危険も少なそうだしね。そう思って一歩前に出ようとした時、それよりも早く前に出た子がいた。
「自分がやるのです!」
他でもない、ニーナだった。今回は最初からずっと活躍していたニーナ。最後も自分の手でってことかな?
特に反対するほどでもないので、そばで見守ることにして俺達は階下の村人が寝ている場所に向かった。
『この場所は管理者たちが寝てる間に塔にマナを供給するための場所でもあってね。その空いてる場所に寝るだけでいいよ』
「わかったのです。トール様……手を握ってもらってもいいです?」
「うん、いいよ。じゃあよろしくね」
ちょっと寝てすぐ終わり。その時の俺、そしてみんなもそう思っていた。きっと……ニーナ本人さえも。
でも……ニーナがマナを供給し始めてすぐ、闇のような光があふれ出てきた。
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