JD-152.「アップダウン」
消えては現れるという謎の塔の目撃情報をもとにそこまでやってきた俺たち。塔の出るという場所のそばにあった村は、謎の光を放つその塔の存在により存続の危機にあった。中に入った者は戻ってこず、謎の光によってまともに漁ができない状況なのだという。
何もないように見えた崖の上。そこにニーナが隠れたその存在を暴き出した。一見するとただの土の柱にも見える謎の塔、暴き出されたその中へ、俺達は進んだ。
「明らかな階段……誰かが作ったのかな?」
「誰かのお家?」
ジルちゃんらしいと言えばジルちゃんらしいつぶやきに笑みを浮かべながらも、俺が両手を広げて2人並べるか、ぐらいの幅はある階段を見る。
ここはまだ入り口から入ってすぐ。まさにエントランスとでも言えそうな場所だ。上に吹きぬけは……特にないな。中央に大黒柱であるかのように何もない柱が……んん?
「ニーナ、これ」
「はいなのです。こんなに滑らかに円柱状に作るなんて自然じゃあり得ないのです。誰かが……作ったはずなのです」
階段自体はらせんを描いているのか、斜めに伸びており先が見えない。危険だけど、これを進むしかなさそうだ。それにしても、先に入った人たちはこんな状況でも前に進んだことになる。俺達はそれなりに目的があるからいいけど、普通の人がこんな場所を進んでいくだろうか?
その答えは、登り始めてすぐに見つかった。
「何か光ってる……嘘でしょ」
「金、に見えますわね」
大豆ほどの大きさの、輝く物が床に無造作に落ちていた。登り始めて少し、入り口からでもよく見ると見えそうな位置にあったそれは皆が見る限り、間違いなく金だそうだ。
俺が手にとっても、確かにメッキとは違う物を感じる。
「なんだか餌で誘う罠みたいだねー。ボク、ドキドキして来たよ」
「金銀財宝ざっくざくー……からぱくってされちゃう?」
恐らくは、ジルちゃんのいうあたりが正解に近いんじゃなかろうか。誰がどういった理由でこの塔を作ったのかはわからないけれど、中に入った一般人が恐怖に逃げ出す前にこれを見つけたらどうだろうか?
1つぐらいなら……すぐに戻れば、とか思うんじゃないだろうか?
それを証明するように、登っていく先々で金の大豆は無造作に落ちている。一応1つ1つを拾いながら周囲にも警戒しつつ階段を登る。確認しながらなので時間の割には登れていないと思う。だとしてもだ。
「変ね、そこそこ登ってると思うんだけどそんな気が全然しないわね」
「ええ、外から見た感じだとそろそろ上に出てもおかしくは……あらあら?」
たどり着いたのは広間。入り口にあった柱がここまで貫通してるのか、中央にはその柱が1本。周囲には何もない、平らな床。調度品1つもない……窓も、そして階段も。
登って来た階段以外何もなく、ここで行き止まりだった。
「え?」
思わず俺がそんな言葉を漏らしてしまうのも無理は無いだろうと思うんだ。ドキドキしながら登って来たのに、何もないのだ。
お宝はもちろんのこと、モンスターだっていない。何より、先に入って行方不明になった人たちも痕跡自体が無い。
一瞬、怪談話のような物が頭をよぎるけど首を振ってそれを振り払う。今の俺なら本当に幽霊がいても貴石術がきっと通じる、そんなよくわからない事を考えつつ足を前に進める。
「何もないな……」
壁にぶつかるでもなく、見えない何かに遮られるでもなく……普通だ。普通すぎて逆に怖い。
ただ、間違いなく上がある。そうでなくちゃおかしい、そうは思うのだけど……。
「あっ、思い出したのです! ここ、セバスのいたあの家とかに似てるのです!」
「おおー、そういえば。見えないけどそこにある、みたいな感じがするねー」
塔を見つけた時のように、ニーナがあちこちを探り始める。今回のニーナは大活躍だ。その顔は真剣そのもの。むしろ真剣すぎて話しかけるのを躊躇するほどだった。自分のやるべきことに集中してると言えば聞こえはいいけど、彼女やみんなには似合わない表情をしてるような気もする。
一度話をしたほうがいいのかな……と思った時、ぴたりとニーナが止まる。
「たぶんこの辺なのです。一度通ったら戻ってくるのは難しいかもなのです」
「じゃあ一緒に行こう。そのほうがきっといい」
二―ナ1人だけ行かせるわけにもいかないし、半分に別れるというのもね、向こうには危険が待ってるだろうけど、それも待ってるだけの時間よりはきっとマシだろう。
みんなで集まり、ニーナを先頭に手をつないでゆっくりと何もないはずの場所に進み、俺達は何かをくぐった。
振り返れば何もなかった部屋。でも前を向くとそこには再びの階段だった。さっきまでそこには何もなかったのにね。
「? 何かいるような……」
階段に近づいてすぐ、俺はその気配を感じた。正確には、視界で何かが揺れたような気がしたんだ。すると、壁の一部がふいに浮いたと思うと、飛んできた。
咄嗟に構えた聖剣で迎撃すると、あっさりとそれは砕け散る。レンガの柔らかいのみたいな感じだ。
「見て、何か手足か羽根みたいなのがあるわよ。それに、これが当たったら一般人じゃ気絶ぐらいするんじゃないかしら」
「この塔の防衛機構といったところでしょうか? それにしては一般人特化というか、対人すぎますわね」
よくわからないところではあるが、進む度にどこからか飛来してくるそれらをみんなして迎撃していく。
乾いた音を立て、まるでお皿を叩き潰してるような音と感触に、気が引ける部分と、妙にすっきりする感覚とが襲ってくる。
あれか、管理者のストレス解放手段も兼ねてるんじゃないだろうか?なんて思ってしまうほどの謎の状況だった。
「石英がない、役立たず」
「レンガにするにも苦労しそうなのです。確かに実入りが何もないのです」
砕いた空飛ぶレンガを確認するも、中に石英のような物はない。ということはこれらは生き物じゃないということだろうか?
野生のゴーレムでも石英をコアにするぐらいだから、全身がコア代わりの廉価版、といった印象だった。
リズムゲームのような音を立てつづけながら、俺達が進むと徐々に光景が変わってくる。
人の手を感じる家具のような物から、廊下部分や小部屋等だ。
しかし、今のところ肝心の住人や、行方不明の人達は見つからない。
新しい発見自体はあるものの、目的の相手が見つからないことに自分も含めて焦りのような物が沸いてきた時、扉が現れる。
外で見る物と比べて、妙に洗練されているというか……そうだ、ニーナの言っていたように、都で出会ったセバスのいた屋敷のような感じを受けるのだ。そうなると……ここはもしかして。
扉は鍵もなく、あっさりと開いた。まるで鍵の必要がない生活をしているのだ、と言わんばかりだ。
そっと中を覗くと、そこには大きめの部屋。質素なホテルであるかのように、ベッドらしきものが並び、そこには人が寝ている。服装は外で見たような物……ということは彼らが行方不明になった村人だろうか?
途中の飛ぶレンガに当たってか、あるいは他の何かに襲われてここまで攫われたというところかな。まさかここで休憩しています、なんてことはないだろうしね。ということは他に何かがいるということになる。
「死んではいない……かな? 寝てる?」
「脈はあるのです。でも起きる様子が無いのです……何か、吸い取られてるような」
みんなで、寝たままの人達を確認していた時だ。足音のような物が奥の階段から聞こえてきた。俺達以外の動く存在……村人か、それとも……。
緊張を全身に帯び、戦闘準備を行う俺たち。そして階段から降りてきたのは……ローブような物をまとった土偶だった。
「……はい?」
「ねーねー、どうやって足音を立ててたのー?」
固まりかけた俺に変わって、ストレートなフローラの質問。最初にそれを聞くのか?と思いながらもどう答えが返ってくるかが問題だった。なにせ、相手は見た限りではいわゆる土偶、だったのだ。目や口が丸になってるやつじゃなく、出目金みたいに目が鎮座してるあれだね。
『音を出さないと人は驚くからさ。久しいちゃんとした客人だね。欲にかられてここまで来た者たちとは違う』
「それはどうも。あの金大豆もお前が原因か?」
いつの間にか見つからなくなった金の大豆の事を思い出しながら問いかけると、土偶は器用に頷いてそれを認めた。
つまりは彼、もしくは彼らは塔に入って来た相手を金に目がくらむような存在か、そうでないかを振るいにかけているのだ。
『金が欲しいと思うほどに出るように仕掛けが作られ、最終的にはその欲望で塔の物を盗むかもしれないと捕まる仕組みさ。必要が無ければ出すのを自動的に止める。まあ、無駄に技術を使った遊びのような物だ』
まずは話をしようか、と土偶に案内を受けて、俺達は部屋の奥の階段を上がるのだった。
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