JD-013「少女の告白は本気です」
次の日も、装備の調整のために武具店にいったりとのんびりと過ごした。
こうして続けて外に出ない日というのはよく考えたら初めてで、石英を集めていないと落ち着かない。
(これは、ちょっと問題かな)
受付のお姉さんに言われたように、俺も気が付いていないだけで異世界に来たことに対して感情が降り切れ、夢中で走っていただけだったのかもしれないな。
ゆっくりした時間がそれを自覚させ、手の中の剣を振るうことを改めて考えさせられた。
そうして昼食を終え、ぶらついて部屋に戻った時には間もなく日暮れ。
石英は自腹で、という形で部屋にあるランタンの様な道具に余り物の石英を入れるとぼんやりとした灯りが部屋を照らし出した。
(こういう灯り、なんというか蛍光灯と違う味があっていいよね)
ふと、蝋燭にも似た灯りにそんなことを感じた。
「明日からはまた冒険を再開しようと思う」
「はい。がっちり稼ぎましょうね」
「がんばる、よ」
同意してくれる2人に頷き、当面の目標を再確認する。幸いにも、チートと言える聖剣の力と自分の肉体、そしてまだ収納袋でしか実感はないけどマナは強力な物だ。
2人も少女というか幼女のままでも十分動けるし、貴石解放して戦えば今のところ、敵は無い。
ちなみに貴石ステージが1だと5分、2だと30分、3だと2時間ぐらい何もしなければ維持できるらしい。
戦うと時間は短くなるので内容次第だけどね。
「明日からに備えて能力の再確認でもいたしましょうか」
「言われてみれば……そうしようか」
「ジル、ご主人様のこともっと知りたい」
俺の左右に二人が座り、それぞれに見上げてくる。やや薄暗い部屋で少女に挟まれてお話タイムとか、考えれば考えるほど転移前の自分には信じてもらえそうにないシチュエーションだ。
「何から話そうかな……」
なぜか密着してくる2人の温かさに、少しずつ激しくなる鼓動を気にしながら言葉を選ぶ。
まずは俺は横に置いていた聖剣を手に、短くする。
「と言っても俺の場合、この剣と健康的な肉体ってことぐらいだけど。
だんだん成長してる気がするんだよね。そのうち、いや……今もだけど人間の枠を超えそうだ」
特に手足が筋肉で太くなった、という感じではないのだけど本気で走ると、明らかにおかしい速さなんだよね。1日外で出歩いてても疲れないしさ。
聖剣は今も石英投入中なので性能は上がり続けている……と思う。
宝石みたいなのが5個付いてて、白いのと青いのはぼんやり光ってるんだよね。
今は特に青い方が光が強い。多分、ジルちゃんとラピスがいるからだろうけど……ってことは後3人なのかな?
「……ジルは、もうすぐ貴石ステージが4。貴石術は射出と、短剣作れるよ。
後、身体強化。すごく早く走ったりできる」
「あ、じゃあニッパの時のアレはジルちゃんの貴石術なんだ?」
俺の問いかけに、ジルちゃんは首を横に振る。あれ、違うのか?
白い光が足に集まったような気がしたんだけどな。
「あの時、ジルは術を使ってない。ご主人様が自分で使った」
「じゃあ、俺にも? うーん、どうなんだろうな。ラピスが助けられたからいいけどさ」
ラピスはその時のことを少し気にしているようで、こうして話に出ると申し訳なさそうな顔をする。
俺としては女の子を守るのは当然だし、笑顔じゃないのは嫌なのでさくっとラピスに話を振った。
「自分の場合、貴石術はジルちゃんと同じように射出と武器ですわね。
後は……リジェネーション・ソウルなんですが……今はあまり意味がないようですわ。
確か自然治癒能力の強力なサポートが入りますけど、そうでなくてもマスターはお疲れになっていませんものね」
むにむにと腕を掴まれるが、確かに疲労は自分でも感じない。
「モンスターが大量に出てきた時なんかには役立つんじゃないか?
後は長旅とか。まあ、目に見えてくるもんじゃないとは思うけど」
ジルちゃんもラピスの動きを見たのか、俺の腕をむにむにと摘まんでくる。
さすがに2人にやられるとちょっとくすぐったい。
「後は……そうだ、火山とか普通だと危ないガスがあるような場所でも相殺するように生き残れると思いますわ」
「おお! それはすごい。きっと火の類はその辺に行っちゃってるだろうし。
あれ? 俺はともかく、ジルちゃんやラピスはそう言うの平気なの?」
話しながら、気になったことを聞いてみた。
2人とも、普通にしゃべるけど、寝てるときなんかに胸も上下してるし息はしてるよな。
すると、ジルちゃんはじっと無表情のままに俺を見、ラピスもまた、少し寂しい表情になる。
「ごめん……」
「気にしないでください、マスター。前にも言いましたけれど、私達……宝石娘は厳密には人間ではありません。
そう、似せただけです。心臓も動いてるように感じるかと思いますけど、これも本物じゃありません。きっと、腕だって切られても血は出ませんよ?」
まずいことを聞いたか、と思い後悔した俺にラピスはそっと寄り添い、淡々と話し始めた。
(嘘だろう? 2人とも、こんな)
──温かいのに。
そう言おうとして、それすらマナによる再現なのだとラピスは言う。
「異形の姿だとマスターが驚くだろうからと読み取って出来上がったのが私達。
だから、あまり思いつめないでくださいな。私たちは道具、ただの道具なんです。
これが私たちが頼りがいのあるような男の体だったなら別かもしれませんね。
あるのは同情を誘う様なこんな小さな体だけ」
静かに言い切るラピスに、俺は……こんなに必死になったのはいつ以来かと思うほどに首を横に振って答えとした。
「違う、よくわかんないけど違うと思う。俺にとっては二人とも、可愛い女の子だよ。
きっと、後から合流する残りの子達も、みんなだ。第一、ラピスは聞こえてなかっただろうけど、俺が望んだんだよ? どうせならちっちゃい子がいいなって」
「そう……なんですの?」
俺を見て、ジルちゃんを見てラピスが珍しくキョトンとした顔をする。
「俺は男だからね。出来れば守る側に行きたいっていうわがままさ。少なくとも、守られたままってのは嫌だな」
そういって、静かなままのジルちゃんを見ると、真剣な顔をしてこちらをじっと見ていた。
決意に満ちた瞳、でもそれはジルちゃんの見た目通りの年齢には不釣り合いの強烈な物だ。
「ご主人様、ジルたちはご主人様のために産まれてきたの。だから、ジルたちはご主人様を守るの、ぜったい」
言い切られる言葉には、自分が守るべき価値のある相手だという無償の信頼がこめられている。
だから俺はそっとジルちゃんの肩を抱き寄せることで答えた。ラピスもまた、空いた手で抱き寄せる。
「女神様のためにも、みんなのためにも一緒に頑張ろう」
「ええ、もちろん」
「一人は、めっだよ」
そうだ、自分たちの価値、存在理由は自分たちで決めるべきなのだ。
「これからもどんどん貴石解放して石英を補充して、強くなろうな、ずっと一緒にいられるように。
大切にするよ、あっちの時みたいに」
「ふふっ、まるでプロポーズ見たいですわよ?」
「プロポーズ? しってる……ずっと一緒の約束」
やや強引に、でも力強く言いきってみると2人からはおおむね好評な返事が返ってきた。
そうか、そういやそう聞こえるか。
でも──絶対に他の奴に2人を渡したくはない。
2人は、そしてこれから出会う子達も俺のコレクションなのだ。そう考えるとプロポーズでもなんら不思議ではないように思えてきた。
「うん。2人が女の子でよかったよ。男3人旅とかむさくるしくて仕方がない」
おどけて言うと、ラピスは何がおかしかったのか腕の中でくすくすと笑いだした。
ジルちゃんはわかってなさそうだけどね。ひとしきり笑った後、3人でベッドに倒れ込む。
ぼんやりしたランタンの灯りも少し弱くなった。もうちょっとしたら石英を入れ替えるかそのままだ。
「ああ、忘れるところでした。マスター」
「何?」
答えて、硬直した。
何故なら、ラピスが俺の腕に体を巻き付けるようにし、色々とまずい場所に押し付けてきたからだ。
「宝石娘は確かに人間じゃないですけど、伊達に人間を模してはいないんですよ?」
耳元でささやかれた言葉にぞくっとくる。視線を向ければ、光に照らされて蠱惑的に揺らめく瞳。
「愛を受け止める体はありますの。だから……いつか受け止めさせてくださいね」
僅かな水音。近づいてきたラピスの顔が俺と接したかと思うと、そのまま首元に顔をうずめてこちらを見ない。
きっと、赤い顔を見られたくないのだろうな、なんて考えてしまうほど俺も混乱していた。
「ジルもする」
「え?」
静かなささやきにそちらを向いてしまったのがある意味決め手だった。
ジルちゃんは別の場所にするつもりだったのだろうか? 視界いっぱいに広がったジルちゃんの顔が驚きに染まる。
まあ、唇がくっついちゃったわけだしね。
「ご主人様、お休み」
「お、おう」
恥ずかしそうに、こちらを見上げたまま横になるジルちゃんは元より、ラピスに問いかけることも出来ずにぐるぐるといろんな考えが頭をめぐる。
今夜は眠れそうになかった。
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