JD-012「少女(幼)2人と街中デートイコール通報事案」


「トールさん、ちゃんとお休み取ってますか?」


 その日、受付のお姉さんには開口一番、そう言われてしまった。いつも通り、ぴしっとした服装に揃えられた髪。きっとファンが多いんだろうなと思う顔には今は笑顔が無い。

 額にシワを寄せて、こちらにむーっといった顔を向けている。


「え?」


 言われて、自分の行動を振り返ってみる。初日にジルちゃんと出会って、次の日からゴブリンと薬草採取して……。

 ひたすら稼いでラピスのいる洞窟にいって……オークも倒してこの前はニッパから大量にはさみと石英ゲットして……。

 つい昨日の事、申告数が少なすぎるであろうことを問い詰められたばかりだ。


「おお?」


「おお、じゃありませんよ。ちゃんと体調管理も……まあ、元気そうですけど。

 意外と体は大丈夫でも心は疲れてるってときはあるんです。

 ギルドとしては稼いでくれるのはうれしいですけど、何かあったら損失ですからね。無理はしないようにしてくださいよ」


 今さら気が付いた、と俺が声をだすとお姉さんに鋭く突っ込みを入れられた。

 そう、聖剣の効果か、女神様にもらった肉体のおかげか。これだけ働いてるのに疲れた気がしないんだよね。

 女神様からは何かを倒せとは具体的に言われてないけど、強敵と戦うなら準備も必要だと思っているのもあるけど。


(可愛い女の子2人と一緒に過ごしてるからってのもあるよね、うん)


 依頼書を眺めているジルちゃんとラピスをちらっと見ながらそんなことを考えていると、俺が真剣に聞いていないと思ったらしいお姉さんは身を乗り出してきた。

 う、ちょっと強調された胸元が。


(ここで見てはマズイ。話に集中せねば)


「トールさん、あの2人もですけど、最近注目を集めています。

 だからこそ、ちゃんと休息もとってるんだって主張もしてください。

 じゃないと、変な奴に疲れてるところをつつけば、なんて狙われますからね?」


 つぶやくようなささやきは俺にしか聞こえないぐらい小さかった。その言葉が頭に染みていくごとに、俺の頭も冷えてくる。


(そっか、知らない場所で何か起きるぐらいなら早めに対処しておきなさいってことか)


「え? ああ、そうですね。気を付けます。同じ相手もそろそろ飽きてきたんで」


 俺はごまかすように少し大きめに答え、周囲へとアピールする。耳をすませば、ざわめきの中にいくつかの声が聞こえる。


─「そういやあいつら、いつも外にいるよな」


─「ああ。そのくせ毎回あの量だろ? 大分稼いでるなあ」


─「馬鹿言え、まともに続けてたら三日もすりゃ倒れる。何かコツがあるんだろうよ」


 なんて話だ。なるほど、これは危ない。こちらは優男1人に少女2人だ。

 治安がいいとはいえ、イザコザが皆無かというとそうでもないようだし……気を付けよう。


「今日明日は買い物でもして過ごしますよ」


「そうするのが良いと思いますよ。たまにはしっかり休んで調整してください」


 そんなお姉さんの笑顔に見送られ、その日はギルドを依頼を受けずに出ることになった。

 収納袋に仕舞ったままのニッパのはさみなどはまだあるけど、ここは何もせずに過ごすのがいいだろう。


 となると、逆に何をするかだけど……。


「マスター、おでかけしましょう」


「一緒に、お出かけ……」


 考え込みそうになる俺の服をラピスが摘まみ、ジルちゃんもまた、前に回って見上げてそんなことを言ってくる。

 こういうのもデートっていうのかな?


「よし、じゃあ今日はゆっくり街を見て回ろう」


 そうと決まればさっそく、ということで今まで行っていない方向へと歩き出す。

 トスタの街って、思ったより大きいんだよな。普通の人も多く住んでるみたいだし。

 街というか……都市国家みたいなもんだな。


「これってデートって言う物になりますわよね」


「デート……男女の親愛の行動……ご主人様とデート(ぽっ」


「じゃあ買い物しないとな! デートと言えばお店巡りだ」


 俺の思い違いではなかったようだ。2人ともちょっと顔を赤くして抱き付いてくる。

 左右にぶら下がる、子供特有に思える温かめのぬくもりに妙にどきどきし、それを誤魔化すようにして勢いよく道を歩く。


 俺はその時、恥ずかしさでいっぱいだったからこその行動だったが、違う意味でその姿が目立っていたことには全く気が付かなかったのである。


(よく考えたら武具店とか必要な場所にしか行ってなかったな)


 既に一か月が経過しようというのに、少々寂しい生活をしていたことに今さらながら気が付いてしまった。

 2人も食料品や雑貨屋ぐらいにしか連れて行っていないし、服も本人達が良いというから何も買ってないも同然だ。

 反省を心に抱き、街を歩く。


 これまでの日々では見なかった建物や、人々の営み、一般人向けの小さなお店など。

 色々と見て回るうちに畑の区画に出た。ここでも野菜などを育てているようだけど、多くは街の外の村から買い付けていることを畑にいたお爺ちゃんから聞いた。


「石英は思ったより重要みたいですね、マスター」


「うん。街の結界が無事だからこそ村まで行き来ができるんだもんな」


 ウェーブのかかった髪を陽光に照らし、楽しそうに笑うラピス。

 普段のお姉さん的な口調や仕草と違い、あれこれを楽しんでいるように見える。


「ご主人様、あれ」


 くいくいと、反対側を引っ張るジルちゃんの指さす先にはフェアラビットの走る柵。

 どうやらペットか家畜として飼っているようだ。確かに、あいつらってふわもこしていいよね……。

 目の前のウサギは毛並みもいいし、丸々と太っている。


「美味しそうだね?」


「食べちゃダメです!」


 そのために飼っている可能性も十分あるけど、だったら外のを狩ってきた方が早いのでペット説が一番ありえそうだ。

 その後も、普通に人々が生活している区画を歩いてるだけでも新鮮に感じた。

 俺は映画で見たような光景が広がっていることに感動しているけど、ジルちゃんやラピスは少し違うようだ。


「早く、姉妹たちも見つけたいです」


「お姉ちゃんたち元気かな」


 街を行く家族に、世界に散ってしまった俺のコレクション、即ち他の宝石娘たちの事を考えていたらしい。

 確か後のコレクションはガーネット、ルビー、白真珠にアメジスト、オパールにトルマリン、エメラルド、フローライト、等10個以上あるはず。


 全部1個につき1人かというと、多分そんなことはないと思う。ラピスがそうなように、1人でいくつか持つと思うんだよね。

 二人のお腹で見れる情報にも貴石がはまりそうな穴が4つも6つも空いている。逆に全部埋まることもなさそうだ。

 どちらにせよ、後何人かは確定だろう。


「俺、頑張るよ。早くみんなで過ごせるようにさ」


 きゅっと、それぞれの手を握って言うと2人とも笑顔で答えてくれた。

 これは頑張らないといけないな。


 冷やかしを続けているといつのまにか日も傾いてきたので宿に戻ることにした途中、ちょっと気になる古着屋を見つけた。

 この世界、というかこの街では新品というのはやはり高価で、多くは仕立て直して着まわすようだ。

 見つけたお店はそんな時のためか、端切れも多く扱っていた。その一角によさそうなのを見つけ、即座に買うことを決めた。

 まずは2人に服を買おうと誘うことにする。


「ジルちゃんもいつもの服以外を着てみたら? ワンピースとか似合うと思うんだよね」


「ご主人様がそういうなら……選んでみる」


「さ、ジルちゃん。あちらのほうから見てみましょう」


 ジルちゃんより少しだけだけどお姉さんっぽいラピスは俺の目的をなんとなくにか察したんだと思う。

 ジルちゃんを伴ってお店の奥へと消えていった。俺はその間に目的の物を買わねば。


「おばさん、これください」


「はいよ。ああ、大事にしてやんなさいよ」


 おばちゃんは先ほど奥に消えた2人の方を見て笑みを浮かべる。さすが、何をしたいかがすぐにわかったようだ。

 いくつかの服を持って帰って来た2人の分を清算し、俺は自分で買ったものを2人に上げるべくまずはジルちゃんを呼ぶ。


「ジルちゃん、おいで」


「ご主人様、何? ……お?」


 手招き1つ、トテトテと走ってくる姿は可愛さの塊。やわらかな気持ちになるのを感じながら、手にした細い布をリボン代わりにしてジルちゃんの髪を縛った。

 最初はサラサラすぎる髪を縛れるか不安だったけど、思ったよりもしっかりと縛られた髪はポニーテールのようになる。


「これからもよろしくね」


「うんっ」


 わーいと手を伸ばすジルちゃんを撫でながら、待っているラピスにも手招き。

 こちらも同じように縛ってあげると、彼女も静かに笑ってくれた。

 ただ、戦いの時には無くしたりするといけないから手に結んでおく、と歩きながら言われたりすると女の子はしっかりしてるなあと思う。


 ついでに、こういう時はプレゼントしてくれたというのが大事なんですよ、とラピスにウィンク1つ、不意打ちされたのが印象的だった。

 そうして、寄り道しながらの宿の道を行く。明日も1日、のんびりするとしよう。

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