JD-009「かさばるお荷物もこれですっきり!」

 ラピスを加えて、3人での最初の外での戦い。

 

 正直、1人同行者が増えると一気に効率は良くなった。ラピスもジルちゃん同様に、見た目通りにやや非力ではあるけど手にした槍で鋭い一撃を繰り出し、牽制やとどめには十分。

 作ってくれた隙にばっさばっさと両断して終わりである。


 さくさくゴブリンをメインに野犬やウサギも倒し、ゴブリンは敢えて討伐部位を取らずに石英だけを取ることが増えた。

 男1人に少女2人としては異常すぎる戦果だ。


(あれ、そういえば前倒したゴブリンの死体が特に見当たらないな)


「魔物の死体って他の魔物が食べてたりする?」


 ふと気になったことを確認するべく、一度立ち止まって聞いてみる。

 ジルちゃんは疑問を浮かべた顔のままだったけど、ラピスはきょろきょろと周囲を見渡した後、1つの死体を指さした。


「マスター、ああいう感じになるんですよ」


「え、溶けてくの?」


 ぐろいというほどでもないけど、ゲームでジェル状になって溶けていくようにぐずぐずと何かの液体のようになったゴブリンが地面に消えていくところだった。


「ほとんどのモンスターはしばらくすると消えてしまうんですわ。

 不思議なことに、切り取った肉とか骨とかは消えないんですけど」


 妙なところでゲームチックだけど、処理をしなくてもいいのはありがたい。

 ただまあ、斬ってるときには血が噴き出るし、中身も直視したくないものが見えてくるのは変わらないようだけどさ。

 それはそれとして、狩りつくす勢いで倒している気がする。


(倒し過ぎはよくないか?)


 あるいはこれなら他の場所で狩るべきか。街に戻ってそんなことを受付で聞いてみると、笑顔で帰ってきた答えは……。


「ゴブリンはいくらでも狩ってください。狩れば狩るだけ村等の被害が減ります。

 あ、川や森の奥に様子を見に行ってもいいかもしれませんよ。

 自己責任ではありますけど……」


 ということだった。じゃあどうするか、と悩む俺。稼ぎたいけども、あまり無理してもしょうがない。

 第一、大量過ぎても持ち帰るのが大変だ。依頼書たちを見ているときに、頭によぎることがあった。


 便利な道具はないかな、と。


「あの、物がいっぱい入る特殊な袋とかないもんですかね?」


 そこで受付に戻り、俺はそんなことを聞いてみた。

 お姉さんはキョトンとしたのち、ああと手を叩いて何かを持ってくる。文字と絵の書かれた紙……街の地図かな?


「一応、あるにはありますよ。収納袋っていうんですが、利用者のマナとかに応じて中に特殊な貴石術が発生して、物が多く入ります。効果によって値段も違うので一度見てきたらどうですか?」


 そういって指し示すのはそれを売っているであろうお店の場所。

 すぐ近くの様だ……これはいかねばならない。


「ありがとうございます。行ってみますね」


 ギルドを出てそこに向かうと、ある意味予想通りの店があった。

 やや暗い室内、怪しげな謎の道具たち。素材も扱っているのか、瓶にいろんなものが入っている。


 奥にいるくたびれたOL、という様なお姉さんは店番なのか店主なのか。


「いらっしゃい。見ない顔だね、入用かい?」


「ああ。収納袋を見たくて」


 そんな会話の後ろで珍しそうに店内を見るジルちゃんとラピス。


「そうだねえ……。色々あるよ。マナに関係が無いのは高いね。

 マナ量に応じてってのは安いけど、あまりお勧めしないよ」


 訳を聞くと、マナに応じて変化する袋は利用者が死んでしまうと中身はどこかに消えてしまうとのこと。

 確かに、そりゃ怖い。だけど、俺達は俺が死んだら全部終わりなのであまり関係がない。

 試しにマナ量で変化する安いのを買ってみた。


 見た目はスーパーでもらえる袋の大きいサイズぐらいのただの布袋だ。マナを通して専用化処理を施すらしい。


「最初はなんでもかんでも入れないように気を付けて使うんだよ」


 ありがたい忠告を受け、改めて依頼を探しにギルドへと戻った。


 適当に依頼を見繕い、今日も森に行く。森の奥にはたまにオークがうろついており、場所によっては岩山の洞窟もあるそうだ。


「実際、今どれぐらい強くなったんだろうなあ?」


「どうなんでしょうね。私は生まれたばかりですから貴石ステージも1ですし……。

 でも、見る限り怪我らしい怪我も無いですから、逃げられるうちに痛みを知るのも良いとマスターの読んでた本にはありませんでした?」


 まるで淑女が花嫁修業で覚えました、というかのように手際よくゴブリンの耳を切り取りながらのラピスの言葉に考える。


「よいしょっと」


 横を見れば同じくゴブリンから石英を取り出して、大きさ別に布袋に放り込むジルちゃん。

 耳は収納袋があるなら取れるときには取っておけばいい。


(さて……どうするか)


 2人はともかく、俺は自分がどこまでやれるのかを確かめておくほうが良いのかもしれない。

 聖剣のおかげで攻撃力は十分だけど、技術で追いつかなくては勝てない相手も出てこないとも限らない。

 第一、怪我の痛みでびびりました、というのはイコール命の危機だ。


「少し、奥に行ってみよう。危なそうだったらすぐ戻るからね」


「わかりましたわ」


「ジル、がんばるよ!」








「豚じゃないほうか……」


 偶然先に見つけることができた1匹のオークはいわゆる豚タイプではなく、筋肉ありありだけどメタボ、な体系の方だった。

 灰色とも青色ともつかない嫌な色をしている。


「おいおい、オークってのは緑かオレンジっぽい色じゃないのか?」


「そうですわね……マスターの記憶からするとハイオークのようにも見えますけども」


「ジルだと首に届かない、かな」


 ちょっと過激なジルちゃんの台詞に驚きながら、ラピスの言う、ハイオークかもしれないという推測に聖剣をしっかり握りしめる。

 さすがに話していたせいで、相手には見つかったらしい。見事なまでに腹に響く咆哮。

 恐らくは自らへの鼓舞、そして相手への威嚇。最後に仲間への合図、といったところか。


「豚肉にならないのが残念だが……行くぜ!」


 何はともあれ、戦わなくては始まらない。


 姿勢を低くし、一気に駆け出す俺をラピスの放った水の槍、そしてジルちゃんの投げた短剣が追い抜いていく。

 オークは俺より先に迫るその2つに慌てて武器であるこん棒を振るうが、それは俺に対して無防備であるということに他ならない。


「通っ……たっ!」


 さすがに石英を吸わせ続けた聖剣である。普通なら途中で止まりそうな太いこん棒を熱したナイフでバターを切るよりも容易に切断し、オークの左腕をも切ることに成功する。

 痛みにか、衝撃にか叫ぶオーク。ただ、それは最初の物と比べ、まさに悲鳴であったように感じた。

 心に響く何かを感じながら、俺は唇をかみしめて聖剣を振るう。


 大学1年生ととっくに成長期の終わった俺だ。背丈は平均よりやや上、だからこそ横なぎでも狙いの場所には届く。

 そして手にした聖剣はオークの首に食い込み、それを切断した。あおむけに倒れ込んだオークの胸元を切り裂くと、ゴブリンの倍ほどの大きさの石英。

 討伐証明である2本の牙を切り取り、袋に入れる。


(この体は食べられそうにないな……)


 たまにオークが豚肉だった、という話を見かけるがこのオークは食べられなさそうだった。


 オークには、勝てる。だけどオークの真価は恐らく、集団の時だ。

 1匹に構っている間に他が迫ってくる、そんな戦闘方法に違いない。

 少なくとも、巨体にびびらないようにしなくては……。


「ご主人様、何かくるよ」


「新手、ですわね。今なら間に合いそうですわ」


「よし、戻ろう!」


 2人の忠告に慌てて俺は森の浅い方へと駆け出す。背後に感じた物が、いわゆる気配という奴なんだろう。

 草原に出てくると、まだ安心してはいけないのに気が抜けそうになってしまう。


(俺が、2人に守られるのは……かっこ悪いよな)


 いざとなればジルちゃんもラピスも相応に強い。

 だからといってこんな少女の姿の子に頼り切るのはいろいろとだめな気がする。


 幸いにも、手の中の聖剣は本物だ。その剣を使う俺の体も、どうやら思ったより優秀だということがわかってくる。

 そう、健康的な肉体、とは人間基準ではなかったのだ。あくまで女神様から見て健康的な肉体。

 街に戻ったら一度本格的に訓練するべきだ。


 そう、感じた俺は換金が終わると、2人を連れてギルドそばの鍛錬場へと向かった。

 男のプライドという奴でその場にいた同業者に頼み込んで模擬戦の相手を務めてもらい……見事に日が暮れる頃には息が上がっていた。


 汗だくで宿に戻った俺がふと見ると、ジルちゃんもラピスも汚れてはいるけど、息が上がっている様子はない。


「2人とも、もしかして運動って得意?」


「? わかんない」


「一応、マナが体力代わりですから……。

 よほどのことがない限り、私たちが力尽きるってことは無いですわ。

 貴石術を使い続けていればそのうちに駄目になりますけど。

 後、貴石ステージが上がるとたぶん、もっといい感じになりますわよ」


 首を傾げるジルちゃんに対し、思い出すようにしながらも答えてくれるラピス。

 そうか、それで涼しい顔をしてるのか。あれ、ってことは……?


「2人はトイレって必要ないの?」


 セクハラだなと思いつ、気になったことを聞いてみた。

 いわゆるカロリーの消耗がないなら、出る物も出ないのかなと思ったのだ。

 行軍中には大事なことだよね、等と言い訳を心でしながらだけど。


「マスター、乙女に聞くものじゃありませんことよ。

 でも……私、マスターには逆らえませんからすべて申し上げますわ。

 私達宝石娘……と便宜上呼びますけど、宝石娘は厳密には人間じゃありませんの。

 ですけど、こうして話し、笑い、時には泣いたり怒ったりもできます。

 ちゃんと食事もとれますのよ? 後はおトイレの方は……」


 ごにょごにょとなってしまったラピスに近づいてお願いすると、真っ赤になりながらも語ってくれた。

 食べた物は基本的にそのままマナになるのでトイレは不要だけど、水分だけは吸収されないから外に出るんだって。

 汗や唾液、そして下から。


(なんか、ごめんよラピス)


 物知りそうだからつい聞いてしまったけど、これは何かで埋め合わせをすべき案件であろう。

 その後、我慢できなくなったのかぽかぽかと叩いてくるラピス。


「ご主人様と遊ぶの? ジルもやる」


 わかっているのかいないのか。ジルちゃんのそんな乱入にいつしか笑いが産まれ、3人はご飯時まで部屋でごろごろと過ごすのだった。


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