JD-007「増える少女は非売品ですので大切に」
トスタの街から北東、徒歩でも行けるような距離にその洞窟はあった。
洞窟は丘のふもとにあり、もう山と言っていいような丘に登るには苦労しそうなほど。
入り口の大きさは大体車が2台入りそうなガレージぐらい。周りはシダ植物の様な諸々に覆われていて、まるで廃線になった田舎のトンネルの様だ。
後ろの丘が、この洞窟は掘られたんじゃないか?と思わせるが、自然にできた物の様だった。
小川が中から流れてきているのを見ると、ギルドで聞いた話の通りだとわかる。
なんでも奥のように泉があるらしく、洞窟の中もそのせいでかなりじめじめしており、その分例の苔?もあちこちにあるらしい。
中にはモンスターも出るらしいから気を付けていかないとな。
特に、一番奥にはできるだけ行かないように、行っても逃げるほうが良いと言われた。
そんなにやばいのがいるのだろうか?
「ご主人様、準備できた、よ?」
「よっし、じゃあ出発だ!」
街で買った松明を左手に、俺達は洞窟へと入っていく。すぐさまひんやりとした空気が俺達を包み、思わずぶるっと震える。
よく洞窟は天然の冷蔵庫だ、とかいうけど本当だな。
「これだと思う……」
「え? お、本当だ」
入ってすぐ、ジルちゃんがしゃがみこむのは小川のそば。そこにある大きな岩に模様のように苔が貼りついている。
どうやってとるかというと、短剣などの刃でそぎ落とすのだ。
「確かにこりゃ、めんどくさがるわけだ」
薬草のようにずぼっと引き抜ける訳でも無く、時間の割に取れる量もあまり多くない。
それでいて必要量はそこそこ、なので手間と言えば手間。
「細かいのはとっておいて、広く生えてるのだけやろうか」
「わかった。そうするね」
取りやすい密集して生えてるのだけを狙い、それが終わったら奥へ、という動きにシフトすることにした。
しばらくして、ジルちゃんが急に顔を上げて洞窟の奥を見た。松明の灯りで金色の瞳が赤く光る。
その射抜くような視線の先に、確かに何かがいた。
「あれが、ブルースライムか」
「(こくん)」
ジルちゃんの腰ぐらいの高さでうごめく不定形。酒場のマスターが言っていた、欲しい素材の対象モンスターだ。
なんでも核が良い歯ごたえらしく、しっかり切ってあれば動かないのでそれが欲しいとのこと。
スライムと言えば女の子がいやーんなことになるのがパターンだけど……。
「? 倒さないの?」
無垢な瞳で俺を見上げる美少女ジルちゃん。
(こんなジルちゃんがそんな目に?)
脳内には一瞬にしてべとべとで青い透明な何かに襲われているジルちゃんが浮かぶが、すぐにそれを振り払う。
とんでもないことだ──ジルちゃんを脱がしていいのは俺だけだ!……あれ?
「あ、ああ。やっちゃおうか。でも聖剣で切れるのかな」
スライムと言えば酸で武器が溶けるというのもよくある話だ。
ただ、今回はそんな心配はいらないようだった。間合いギリギリから聖剣で隅の方を切り裂いてみるが、特に刃に問題は出ない。
(あ、というか。これ、壊れないじゃん)
折れない、切れ味が落ちないということは酸で切れ味が落ちるということもないわけか。
「ふっふっふ。貴様らの命運もここまでだ!」
「よくわからないけど、ご主人様すごーい!」
調子に乗ってスパスパとブルースライムを刻んでいく俺。
そんな俺の横でジルちゃんの平坦な声が洞窟に響き渡った。
「ひのふの……20もあればいいよな、多分」
「こけも、いっぱいとった」
松明も3本目となり、残り4本なのでそろそろ時間がまずいかもしれない。
そう思いながら洞窟を進んでいた時だ。前の方に明かりが見える。
「あれは、穴が開いてるのか?」
火の明るさではなく、太陽によるものだとすぐにわかった。
物陰に注意しながら、その光の下へと向かうと……泉があった。
「泉っていうかでかいな」
吹き抜けのビルのように高い天井。ぽっかりと開いた穴からは空が見える。
泉の大きさは反対側が見にくいほどで、予想より大きい。そりゃ、川が出来るだけの水量があるわけだ。
一番奥らしいから出来るだけ行くなとは言われたけど、せっかくだし何か良い物ないかな、と眺めていた時のことだ。
「ご主人様、あれ」
「ん? うぉ!」
叫び声をあげてしまった自分の口を慌てて閉じるが、運よく相手には聞こえなかったようだ。
ジルちゃんが指さす先、太陽の光が一番降り注いでいる泉の一部分に巨体があった。
青いから、ブルースライムだとは思うのだけど……でかいな。合体してキングになるアレみたいだ。
大きさは2トンダンプよりは小さいけどそのぐらいある。
一体何を食ったらあんなになるのか、想像もつかない。確かにアレに挑むのは無謀かもしれない。
ギルドでも逃げて来いというわけだ……。ともあれ、こっちにこないなら今のうちに……ん?
──助けなきゃ
何故だか、俺の何かがそう訴えかけてきた。
「ジルちゃん」
「ご主人様、光ってるよ」
問いかけた俺に、ジルちゃんが答えたのは予想外の事だった。彼女が指さすのは右手に握ったままの聖剣、その鍔あたり。
黒ずんでいたビー玉ほどの装飾の玉。ジルちゃんに相当するであろう透明な部分が明るいのに対して、他は黒ずんでいたのだが……。
その中の1つ、青い物がぼんやり光っている。
「お姉ちゃんがあの中にいる」
「ジルちゃんの?ということは女神様の娘が……あれがそうか!」
よく見ると核とは別の場所に陽光にきらりと光る何か。ならば、やるしかあるまい。
「ジルちゃん、あいつをやっつけて助けてあげよう」
「うん。じゃあ、ご主人様……いれて?」
どこでどう覚えたのか、ジルちゃんは服をたくし上げただけではなく、スカート部分を口元に持って行って上目遣いにこちらを見る、なんていうコンボを使ってきた。
太陽の光に照らされて白い肌がまばゆいほどに輝いてって今はそれどころじゃないか。
聖剣(短)にして前と同じように魔法陣に向けて手を進める。
「あふっ」
つぷんと、聖剣が沈み込んでいく。
最初と違う若干の抵抗が気になりながらも、必要なことと思い直してぐいっと奥へ。
左にひねるとかちりと、何かがはまる音がして、光があふれる。
「ふぅぅぅぅーーーっ!」
いつ聞いても色々と理性が飛びそうなジルちゃんの声が収まったところには、見覚えのあるジルちゃん(大)。
透明感のある長髪は腰ほどまで伸びており、胸元は……豊満というわけではないけど十分。
それでもどこか幼さを感じるのはその手足の細さと、あどけなさの残る顔だろう。
大学生だけど高校生や中学生に間違われます、といった感じだ。
「先、いくね」
「っと、俺も!」
艶めかしい足を上げ、服がめくれ上がるのも気にせずにジルちゃんが駆け出す。
俺もまた、聖剣を元に戻して駆け出した。ジルちゃんの投げる短剣がビッグブルースライムのあちこちに穴をあけていく。
俺はそんな穴に聖剣を突き刺し、薙ぎ払っていくことで切り取っていった。
ゼリーを切り分けるかのようにあっさりと切れていくブルースライム。やはり聖剣も十分チートである。
「えいっ」
ジルちゃんの短剣が核を貫き、砕いてしまうとその体はブルブルと震え、溶けるようにしてなくなっていった。
後に残るのは砕かれた核と……青い石のみ。よく見たら2つある。
巨大なスライムにジルちゃんが囚われて、というシーンはある意味残念ながらなく、汚れていないその姿を真正面から観察する時間もあった。
「よかった。無事みたい」
どこか幼い声でジルちゃんが拾ってきた石は、ターコイズと、ラピスラズリだった。ターコイズは青とも緑ともつかない不思議な色合いのあれだ。
ラピスラズリは、瑠璃色のといった方がわかりやすいかな?
というか、この模様は……。
「俺の集めてたコレクションの1つ、か」
「(こくん)ジルたちは皆ご主人様の物、だよ?」
やはり、そういうことだったわけだ。となるとこれからもジルちゃんみたいな子が出てくることになるんだが……。
「ジルちゃん、お姉さんを呼びたいんだけどわかる?」
「わかる。えっとね、まずは……」
ジルちゃんが説明してくれたのは簡単ではあったが、本当にそれでいいのかな?と思うような物だった。
俺が石にキスをして、出て来い、というだけでいいと。なんでもジルちゃんは女神様が代行したらしい。
(確かにあの時、キスしてたもんな……)
説明の間、ジルちゃんはポムっと音を立ててもとに戻っている。
「じゃさっそく……。出て来い! おお!」
手にしたままの2つにキスをして、言われるままに叫ぶと石からは青い光と、マナだろうと思われる何かがあふれ出てきた。
それは段々と空中で人の形を取り……。
「あ、あんまりばいーんなのは無しで」
何故だか俺はそんなことを口走った。光が戸惑うように揺れた気がしたがきっと気のせいだ。
やがて光は人影となり、それに色がついてくる。2人出てくるかと思ったが、光が混ざり合って出来てくるのは1人だった。
「成功……した」
「おお……?」
空から降りてくる子のように、人影は横になった女の子であった。
頭頂部は瑠璃色で、先端に行くほど薄くなるグラデーションとなっている。
青い、ターコイズのように複雑な色合いの髪。ジルちゃんと同じデザインの服を着込んでいる。こちらのほうがヒラヒラは少ないかな? でも特徴的なのは普段見かけないような丈の高い靴に白タイツだ。その胸元、というか背丈やスタイルはジルちゃんと似たような物。つまりはそう、美少女(幼目)であった。
顔立ちはどちらかというと和風で、長いまつげと小さく突き出た唇が目に入った。
そして、横になったままの少女が目を開く。
ぱちぱちと瞬きの後、青い瞳でこちらとジルちゃんを見るとにっこりと笑った。
「おはようございます。お会いしたかったですわ、マスター。ラピス、あるいは瑠璃とお好きなようにお呼びくださいませ」
ジルちゃんの声が小動物の可愛い声だとすると、彼女は透明感のある耳にすっと入ってくるものだった。
「じゃあ、ラピスで。せっかくのファンタジーだからな。これからよろしくな」
寝転がったままのラピスに手を差し出すと彼女はそれをつかんで立ち上がる。
やはり、ジルちゃんのように軽い。
「勿論。朝から夜まで、私の全部はマスターの物です。ご奉仕いたしますわ?」
にこりと笑うラピスの笑顔は、可愛らしいけれどどこか背筋に届く蠱惑的な物であった。
宝石娘が2人になって、俺の異世界チートライフはますます加速……するのか?
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