JD-006「下から食べるご飯は特別なようです」



「思ったより楽勝だな……いや、こんなのは最初に青いのを倒しまくってるようなもんだ」


 まだ行ける、はもう帰ろうだ。某作品でもあと少し行ける、で不意打ちで全滅、なんてのはこういう時にこそやってくるもんだ。


 異世界に転移して今日で2週間目。今日も今日とて、ゴブリンを乱獲する俺とジルちゃん。

 薬草はさすがに近くで採りすぎたのか、全体的に少なくなっているのでやや遠出となっている。

 そうして周囲をよく見ると、ゴブリン、そして野犬以外にも多くの動物がいることがわかる。


 例えば、2種類のウサギ。1種類は角があるけど普通のウサギで、すぐに穴に隠れていく臆病な奴だ。

 フェアラビットという名前で薄い茶色でふわもこの毛並みは……まあ、そのふわもこゆえに買取価格が高いんだけどね。

 ジルちゃんより、俺の方が殺すのに躊躇するほどだ。


「意外とジルちゃんってこういうの気にせずに狩るよね」


「? だって、ご主人様のごはんだよ?」


 手にした短剣で手際よく、ウサギの血抜きを始めるジルちゃんはそれを手にしたまま首を傾げる。

 可愛い、可愛いけど血まみれの刃物を持ったままというのはなんだか別の物に見えてくるな……。


「うん、ありがとう」


 なんとかお礼を言って、次なる獲物に向かう。ウサギのもう1つはと言えば、なかなか怖い。

 後ろ足がひどく発達しており、こちらを見かけると捨て身の一撃とばかりに一気に突撃してくるのがローグラビットと呼ばれる黒いウサギだ。


 しかも、大体顔とかに飛んでくるから危なくて仕方がない。ただ……こいつ、何故か突撃前に叫ぶんだよね。

 だから、避けつつ一撃なんだけど……当たったらと考えると怖い物は怖いのだ。

 手に入る石英も親指の先ほどの物。


「聖剣に吸わせるには小さいし、売るにもなあ……」


 その小さな石英を光にかざしていると、ジルちゃんが物欲しそうにそれを見る。


「ん? ジルちゃんこれ欲しいの?」


「うん。ジル、それ食べられるよ」


(た、食べる? 石英を?ってそうか)


 よくよく考えたらジルちゃんは人間ではないのだ。そうなると食べると言っても……。


「えっとね、ここからご主人様が入れてくれればマナになるの。貴石解放も少しながくなるよ」


 俺以外に近くにいなかったからいいものの、ジルちゃんはこうしていきなり服をめくりあげるから怖い。

 こんな綺麗な肌は俺以外に見せるのはもったいない! おへそやローライズのパンツもきゅんきゅんするしね!


「じゃあ宿に戻ったらそうしようね」


「(コクン)」







 そろそろ、ゴブリン以外も狩ってもいいかもしれませんよ?と、受付のお姉さんに言われた換金後の宿。

 まだ夕方より少し前だけど、俺はジルちゃんと共に部屋にいた。ちなみに服は着替えている。

 ジルちゃんは、同じような服のままだけどね。

 どうやら、このあたりではポピュラーなデザインらしく、普通に同じようなのが売っているのを見てジルちゃんは何着もそれを買ったのだ。


 気に入ってるんだろうか?


 空いたままの窓から、街の喧騒が届く。子供の声もよく聞こえるということは、まだ平和ってことなんだろうか、と思う。

 ちなみに、稼ぎが良くなっているので宿は引っ越した。防音は前のよりかなりいい。

 防音が必要なことをするのかと言われると、こういう時のために、なんだよね。


「じゃあ、始めようか」


「(コクン)ここ、だよ」


 ベッドにころんとあおむけになり、自ら服をめくってお腹を丸出しにするジルちゃん。

 何度目かの光景だけど、いつみても人形のように精巧で、呼吸のために上下する胸や身じろぎで動く体が、彼女の生を感じさせる。


 ぼんやりと、ジルちゃんのお腹に光が産まれる。ジルちゃんのステータスを見ることのできる魔法陣。そして、聖剣を差し込む魔法陣でもある。

 そのどちらも同じ場所に表示されているが、今日はどちらでもない。

 昼間にジルちゃんが言っていたように、あまりの石英を入れるためだ。


「そのまま入れちゃえばいいの?」


「うん、ご主人様が入れてくれればだいじょうぶ」


 そういうことじゃないとはわかっていても、ジルちゃんみたいな子にもじもじとして言われたら結構来るものがある。

 まさか投げ込むという訳にもいかないだろうから、1つ摘み取ってそのお腹の方へ。


「んっ、入った……」


 つぷんと、石英が光の中に沈み、柔らかな手ごたえがある。まるでジルちゃんのお腹を直接押しているかのような微妙な弾力だ。


「よーし、どんどんいくよー」


 目の前で美少女が悶えているという状況にドキドキしながら、これも戦力強化のためと言い聞かせて石英を取り出す。


「ふっ、んっ、ふぁっ」


 1つ入れる度に艶のある小さな声が部屋に響いてしまう。ここだけ見るとただのあのシーンである。

 その後もあるだけジルちゃんに入れ終わったのは日も暮れようという頃だった。

 正直、自分も限界であった。


 くてっとベッドの上で横たわり、汗なのかそれ以外なのか深くは考えちゃいけないような姿のジルちゃん。

 息をするたびに光るお腹も揺れる。ちなみにマナは満タン、貴石ステージは1から2になっていた。


 それはともかくとして、健全な男子(というには年を取っているけど)が美少女のこんな光景を見て何も思わないはずがない。

 目を覚まさない今のうちに、ということでトイレに駆け込んだ。

 ……まあ、そういうことよね。





 幸運なことに、目覚めたジルちゃんがクンクンあちこちを嗅いだり、変なにおいがする、という発言をすることはなかった。


「おなか、すいた」


「じゃあ、ご飯にしよう」


 今の宿は1階が食事処となっており、宿泊者は専用のテーブルで食事を食べられるのだ。

 店のマスターは酒は適度に飲むもんだ!と怒る人で、あくまでお酒は嗜み程度にしか出さない。

 飲んべには好かれていないらしいけど、逆にそういうのが良いというお客でよく混んでいる。


「ご主人様、おいしいね!」


「うん。これで宿代に込みだからすごいな……」


「嬉しい事言ってくれるじゃねえか」


 カウンターに近い席で舌鼓を打っていると、横合いにやってくる大きな人影。

 他でもない、料理人でもあるマスターだ。ちらりと厨房側を見ると他にも料理をしているスタッフはちゃんといる。


「本音ですよ。正直、料理だけでもここに通いたいぐらいです」


「(こくこく)」


 口いっぱいに料理をほおばったまま、ジルちゃんが頷く姿に2人して微笑んでしまう。


「兄ちゃんたちは冒険者……でいいんだよな?」


「ええ、まだ2週間ですけど」


 胸を張って言えるかというとちょっと微妙だ。多分、チートなおかげでこの先も時間の問題だろうけども。


「なら、一つ頼まれちゃくれねえか? ああ、もちろんギルドで明日確認してからでいいんだけどよ」


 そうして依頼されたのは、北東にある洞窟に生える苔の1種の採取とモンスター素材をそれなりの数。


「美味い料理の材料なんだがな、旨みがあんまねえからって行くやつが少ないんだ」


(まあ、命をかけて、だとそんなもんかなあ?)


 俺からすると、ハイリターンでもあんまり激しいのは怖いのだけど……。

 他の人は少々違うらしい。


「ジルちゃんはどう?」


「おいしいもののためなら、頑張る、よ!」

 

 いつの間にか食べ終わったジルちゃんは、元気よく両手を上に向かって伸ばした。

 さらさらとした髪が勢い良く揺れて店の灯りに輝く。一瞬見惚れながらも、マスターに向き直って俺も思わず笑顔。


「決まり、見たいですね。詳しいことは明日」


「おうよ、頼むぜ」


 こうして、俺はトスタの街からしばらく行ったところにある洞窟に向かうことになった。

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