JD-005「最高の剣を手に入れたと思ったら店売りだった件」
「やってきました武具店!」
「……てーん」
ファンタジーと言えば剣と魔法の世界。魔法以外に何を見る、となれば武器、防具ですよ奥さん!
と、いう訳でジルちゃんを引き連れて街に出て探すこと数分。
明らかに看板からして武具店とわかる場所の前に俺達は来ていた。
ちらりと見える店の中も金属の輝きがあるし、間違いない。……ちょっと怖いのは内緒だ。
「叫ぶのは自由だが、客か?」
「あ、はい。そうです」
テンションが上がり、思わず飛び出た叫びを運が良いのか悪いのか、店主か店員に聞かれていたらしい。
俺のイメージ通りのドワーフかと見まごうばかりの筋肉もりもりのおじさんが店から顔を出していた。
もじゃもじゃの髭に、作業のためなのかぼろぼろの衣服。
腕は細い部分ですら、2Lのペットボトルはゆうにありそうな太さだ。
ここで立ち去るという選択肢も無く、店の中に2人で入る。
(ふぉおおお! やばい、やばいな!)
どこぞのお店でしか見たことの無いような物たちが、本物として立ち並んでるのを見ると興奮が抑えきれない。
左手にあるジルちゃんの感覚が無かったら、迷わず周囲の物を手にしていたに違いない。
「それで、見ない顔だが……何が欲しい?」
「俺は素人でもよさそうな防具と、2人とも靴を……武器は短剣ぐらいかな?」
店内のカウンターに戻り、こちらを伺う……たぶん店主さんに答えると、じろりと俺達を見た後、のっしのっしといった動きで店の一角に歩いて行った。
「これを身に着けてみろ」
「おお……革鎧。硬そう……あ、でも意外と軽いや」
店主が持ち出してきたのはこげ茶色の革鎧。留め具を調整していくタイプなのか、幾つ物部品に分かれた革鎧を適当に身に着けていく。
肩にもパーツがあるが、意外と動きは悪くない。しかも、服を羽織った程度の重さしか感じない。
ファンタジー全開の革鎧に対して、ジーパンにポロシャツ、がミスマッチすぎて何とも言えないな。
「簡単だが軽量化の貴石術がかかっているからな。それで得物はお前がその模倣聖剣で、お嬢ちゃんは短剣か……まあ、悪くない」
「模倣聖剣? って、いっぱいある」
一瞬、聖剣ってバレバレ!?と焦ったが、模倣という言葉に気を取り直して店を見回した時のことだ。
店の一角に俺の腰に下がっている聖剣と同じような物を見つけた。しかも10本ぐらいある。
「なんだ、知らずに装備していたのか? 聖剣を模した奴でな。
貴石術もわかりやすい効果が乗るから駆け出しには重宝されてるやつだ」
(ほうほう……よくわからないが聖剣をばしばし使ってても問題にならないってことだな)
同じような物があって目立たないということは非常にいいことだ。実は聖剣だってばれたら厄介かなって思っていたんだよね。
「ジル、作れる、よ?」
おっちゃんが出してきた短剣を前に、ジルちゃんは首を傾げながら手の中にマナを使って短剣を作り出す。
やはり綺麗だな、と思う。機械で削り出したかのような造形だ。どこかのおじ様が持ってるやつに似ている。
「なんだ、嬢ちゃんは貴石術が使えるのか。ただ、これならマナは使わねえ。
いざという時に備えて、節約するのも立派な冒険者の知恵ってやつだ。なあ?」
「確かに……うん。ジルちゃん、俺が買ってあげるからよかったら使ってね」
感心した様子でジルちゃんの生み出した短剣を眺め、店主さんは諭すように俺に声をかけ、同意を求めてくる。
言外に、これぐらいもわからずにこんな小さい子を連れ出す気か?と言われているようだ。
だから俺は、そういってジルちゃんに短剣を受け取らせることに成功する。
結果、稼ぎがだいぶ消えました。やっぱり武具って、高いよね。
「あ、そうだ。聞きたいことがあるんだ」
「手入れの事……ではなさそうだな。どうした」
仮止めだった革鎧をしっかり身に着け、動きを確認していた俺だったが、大事なことを思い出した。
せっかくなのでいろいろ聞いておかねば。
「ギルドで石英を買い取ってると思うんだけど、あれって何に使うんだ?」
そう、素材としてはともかく、装飾品に使うにはあの石英は石ころと大差ない。
正直、磨いても大したものにはならないはずなのだ。
「なんだ、知らんのか。そうだな……1つはお嬢ちゃんみたいな貴石術の行使の際に使う。
質がいいほど多くのマナを秘めているからな、代わりに石が消耗するんだ。後はここでいえば街を覆う結界だな。石からマナを吸い出して構築する壁だ。他にも、中のマナが色々な道具の燃料になる」
やはり常識的なことなのか、武具店としては専門外であろうにもかかわらず、すらすらと店主は利用先を答えてくれる。
他にも街から村、あるいは街から街の間の街道は結界の影響を受けるらしく、街道沿いは比較的襲われにくく、安全なのだとか。
全く襲われないわけじゃないようだけど……。
なるほど、こうなってくると本当に地球でいう電気を生み出す源、みたいなもんか。
「一番に関係ありそうなことでいうと、武具強化だな」
「武具強化? これで作る……ってわけじゃないよな?」
布袋から換金していない石英を1つ、取り出してカウンターに置く。
「お、なかなかいい大きさじゃねえか。そうだな、これを材料にってわけじゃない。
ほれ、剣を見せてみろ。ああ、柄をこっちに向けるだけでいい」
不思議な要請だったけど、特に何かあるわけじゃないので言われるがままに柄を店主に向ける。
「ほら、ここに石英を押し付けながらマナを通してみろ」
「マナを? んんーーー……おお?」
マナを通す、というのがよくわからなかったが、こんなもんかなとあたりをつけてみると見事に何かが俺の腕から石英、そして聖剣の柄へと通った気がした。
すると、目の前で石英が溶けるように消えていく。
「武器だと威力というか切れ味やらなんやらが強化される。元の素材がいい奴ほどその上限も上になったかな?」
「すげえな! じゃあ強化しまくればただの鉄剣も最強じゃんか」
思い出すように言う店主の言葉に、俺は興奮して身を乗り出して叫んだ。
いいよね、武器強化って。コモン武器でもレア武器に追いつける、みたいな。
ゲームだとプラスいくつ以上の強化にはリスクがってみんな夢中になるんだよな。
が、店主は首を横に振った。
「そううまくもいかん。確かに注いだだけ強くなるがな……。
冒険の世界じゃ、武器なんて命と比べりゃ割り切って捨てるもんだ。
一番多いのは、途中で折れるなりして駄目になることだな。
そうなったら、いくら強化していてもパー。いつ駄目になるかわからんのに、そうそう強化はできんだろう?」
「なるほど……」
店主の言うように、戦いともなれば何が起こるかわからない。
よほどの思い入れが無ければ、強化しすぎるのも問題というわけだ。
(……あれ?)
あることを思い出し、俺の頭にはでかい電球が光っていた。こうしてはいられない、ぜひ試してみたい。
「色々ありがとう。また来るよ」
「おう、じゃあな」
ずっと横で周りの物を見ながらぼーっと時間を潰していたジルちゃんの手を取り、俺は少し速足で店を出た。
「ご主人様うれしそう。どうしたの?」
「ああ。すごいことがわかったんだ」
いつものように、という感じで門を抜け、少し街から離れたところで俺は聖剣と、布袋に入れたままの石英を全部取り出した。
ジルちゃんが見つめる中、それを全部聖剣の強化に使う。
「あ、そっか。ご主人様すごい!」
「ジルちゃんもわかった? そう、この聖剣……壊れないんだよねー」
正確には折れず、切れ味が落ちないという表現だけど事実上、不壊ってことだ。
ジルちゃんは大人にならなくても貴石術が使えるし、俺も聖剣がいくらでも強化できるっぽい。
そしてジルちゃんが変身できるとなれば……。
(ロリっ娘と行く異世界ライフ、聖剣無双も追加ってことさ!)
興奮に浮ついた気持ちをなんとか押しとどめ、今日の狩りに向かうことにする。
こういう時こそ油断ってやってくるものだ。
気を引き締め直して、その日も目いっぱいの採取と討伐を終え、換金に無難そうな数を残して聖剣に吸わせまくるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます