JD-004「これはタッチではない、拭き拭きだ」


──何かがおかしい。


 今の俺の心はこの言葉でいっぱいだった。異世界での生活、そして依頼自体は非常に順調だ。

 昨日の薬草というかヨモギモドキは品質がいい、とお褒めの言葉を頂いたし、今日も同じような物なので報酬は確実だろう。


 お姉さんが愚痴るほどなので、ゴブリンも尽きたということは無いぐらいでいつの間にか襲い掛かってくる状況だ。

 野犬もちょいちょい混じり、意外と忙しい。よくもまあ、街に来るまでに襲われなかったものである。

 幸運に感謝しながら、ジルちゃんとの連携を意識して討伐は進めた。

 

 小さくてもジルちゃんは結構強かった。速さ自体は俺より遅いのだけど、どこが一番効率がいいのか、わかっているような動きだった。

 手に生み出す短剣もマナは少ししか使わないらしく、このペースで狩れていればマナプールにある分だけで十分回復していくとのこと。

 討伐証明の耳も結構集まったし、泊まる宿のグレードを上げても問題はないだろう。


 問題としてはさすがに服が汚れてきたことぐらいか……。

 ただ……この石英の数だけはおかしい。


 昨日の買取の際、お姉さんに聞いた話では大体ゴブリン10匹につき、1つぐらいが普通だそうだ。大体は倒した時に砕けてしまうらしい。

 魔物の心臓と連動してるのかな?とも思うけど、それにしてもだ。だから、俺達は運が良かったんだねーとその場は何とかしのいだ。


 平均の5倍だからね……俺だってびびる。ビギナーズラック?と思うにはちょっとね。


「ジルちゃん、石英のドロップが多い気がするんだけど」


 都合15個目の石英を取り出しながら聞いてみると、コテンと首を傾げ、しばし考えているように固まる。

 こういう時は無理に先を促さずに待つ方が良いと何かで読んだ気がする。


「……たぶん、祝福のおかげ。レアがでないかわりにどーんってでるの」


「そっか……今はお金が稼げるからいいけど、半分ぐらいは仕舞っておこうかな」


 なんだかったのゲームで見たことがある、コモンドロップ上昇、とかと同じものだと思う。その代わりにレアドロップ率がゼロ、あるいは激減するのだ。

 レアな物が手に入るような相手の時には困るけど、現状では最適な物だと思うんだよね。


 討伐数に対して大よそ2割ぐらいにとどまるように調整して、俺はその日の依頼も大成功という形で終えることにした。

 ギルドでの清算を終えて夕方。宿から借りている桶のお湯で俺は体を拭いていた。


 本当はお風呂に入りたいけど、まだまだ高望み。

 火の属性の貴石か、貴石術、あるいは薪を大量に使うということでお風呂に入れるような立場の人間は限られるらしいのだ。

 ジルちゃんにもちゃんと布は渡してあるのだけど……あれ?


「ジルちゃん、拭かないの?」


「……ご主人様が、拭いて?」


 疑問に疑問で返された。じゃなくって、ジルちゃんのはしてくれないの?というニュアンスだったな。

 でもなあ……。


「ジルちゃん、女の子はそうやって体を拭かせないんだよ。それに、恥ずかしいだろ?」


 主に、俺のほうが恥ずかしいのは内緒だ。だけど、そんな俺の気持ちがどう伝わってしまったのか、なぜかジルちゃんの瞳にはあふれんばかりの水が……そう、涙だ。


「!? な、泣かないで。どうしたのさ」


「……いつも、ご主人様が拭いてくれてた。なのにもうやだって。じゃあ、ジルはいらない子?」


 しがみつくようにして俺にくっついてくるジルちゃん。見上げながらつぶやいてくる言葉に、俺はすごく納得してしまった。

 そう、彼女は俺のコレクションだった物の1つだ。いつも俺は専用の手袋をして、拭いていた。

 彼女にしてみれば全身を毎日磨いてもらっていたような物なのだ。


(そうか、そういうことか)


「わかった。ごめんなジルちゃん……俺、拭くよ!」


「(パアァァァ)」


 花咲くような笑顔とはこのことか。涙目が一転、ご機嫌となったジルちゃんは服を脱ぎ去ってほぼ裸となると勢いよく俺に飛びついてきた。


(これはいつものこと、いつものこと。汚れをふき取るだけだ、オーケー?)


 ふわりと漂う、俺のじゃない体臭に一気に心拍数が上がった気がしながらも、なんとか我慢してジルちゃんの肌に布を滑らせていく。


「ふっ……んっ」


 完全に俺に身を任せた状態のジルちゃんの口から、段々と熱を帯びた吐息が漏れる。

 それは俺の耳を通り、頭の中へと響く。それ以外にも触れあった状態の体からしっとりとした肌の質感や少女らしい体温を感じてしまう。


(我慢我慢!)


 顔、首、うなじ、背中等々。出来る限りの場所を拭いていくと、残るは……そう、前の方。


「……なんで止めちゃうの?」


「……ええい!」


 深く考えるから迷うのだ。迷うな透。ジルちゃんはまだ小さいのだ、わかってないのだ、多分!

 覚悟を決めて、前の方へと布を向け、なだらかなそこを強すぎないように滑らせていく。


 途中、明らかにそうであろう小さな抵抗が2か所あったが、その際にジルちゃんがびくんと体を震わすことで答え、俺もまた一緒に体を揺らしてしまう。


 想像してほしい。


 もうすぐ19の男の腕の中で推定1X歳か一桁の子がほぼ裸で震えています。

 さあ、どうする? 間違いなく通報で事案だよね。でも俺は彼女のご主人様なのだ、だからいいのだ!

 かなり強引にそうして俺の常識部分を押しとどめ、長引かせないようにジルちゃんの体を拭きまくる。


 そうしてデリケートなゾーンまで一気に拭き終えた俺は、今日はこれで終わりと宣言して彼女に着替えさせる。


「そういえば、その服って洗濯しないでいいの?」


 土汚れやゴブリンの返り血が全くないとは言えない、そのまま過ごすには考え物だ。


「……大丈夫。えいっ」


 小さくジルちゃんが呟くと、彼女が光に包まれる。


「うお!? って、どこかで見た気がするな。こういうシーン」


 顔以外が光に包まれたジルちゃん。なぜかちょこっと浮いて、ポーズをとっている姿はどこぞの魔法少女の様。

 その証拠に、体のスタイルが丸わかりな状態で光っていた体がいつのまにか見覚えのある服の輪郭を取り、そして光が収まった。


「おお……新品じゃん」


「えっへん。洗濯いらず。今ならマナサービス中、だって」


 これは便利で、助かる話だ。おしゃれもさせてあげたいけど、それと依頼の際に着る服とは別にしないといけない。

 そう考えればこれは依頼時の服、とすればいいのだ。防御力的には怪しいけど、仕方がない。


(……俺のこれもそうなのかな?)


 ふと、自分のジーパンとポロシャツを見る。水で洗ったり、はたいてはいるけど少し薄汚れてる。

 気になったのでさっそく聞いてみる。


「今は無理。ステージが上がればなんとか?」


 ということらしかった。であれば明日のスケジュールは決まった。


「明日は俺の服と2人の防具、そして可能であれば武器も買います!」


「おー! 頑張るよ?」


 こぶしを突き上げ、宣言する俺。そして可愛く両手を上げて叫んだあと、首だけこちらに向けて微笑むジルちゃん。

 宝石娘(幼)といく異世界ライフ、多分、順調です。


 俺の……理性は……どこまで持つかな。

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