さん
「ねえねえ」
「…………」
いつものごとく、学校からの帰り道の途中、ユウコが周りをうろちょろしながら、話しかけてくるが、ここは人通りの多い場所である。私と同じ制服を着た子もたくさんいる中で、おいそれと言葉を発するわけにもいかない。いかないのだが、無視しているとだんだん寂しそうにするので、私もかわいそうになってきて声をかけてあげたくなるのだ。
人通りが多くても、一人で話していても怪しまれないもの―――そうそれは電話だ。電話なのだけれど……いかんせん携帯というものは買ってもらえなくて持っていなかったから、残念ながらその手は使えなかった。
なので寂しそうにしているユウコを横目に無視して歩くしかない。チラチラと投げかけてくる視線がもういやだ。それでもなんとかしゃべりたくなるのを抑えて、迂回に迂回を重ねて、古びた神社へと向かう。これ以上「変人」のレッテルは貼られたくないし、一人で喋ってるやつだと思われたくなかったので。無駄なあがきだと、もうどうしようもないくらいにレッテルは貼られているのだとしても。
少し辺りが暗くなり始めた神社は、人じゃないものであふれかえっている。
明らかに人じゃないものだとわかるような風貌をしているので、わかりやすい。人と変わりないようなものはいつも通りいない。
あちらこちらに蜘蛛の巣が張っており、枯れ木についたわずかな葉が落ちて、地面に散らばっているのを見る限り、人の手はあまり入っていないことが窺えるし。明らかに人じゃないものがあふれかえっていることを見ても、人が寄りつく場所ではないというのがわかる。
枯れ枝を、枯れ葉を踏みながら、今にも朽ち果てそうな鳥居をくぐると、これまた崩れ落ちてしまいそうな社が私たちを迎えた。どんよりとした重い空気が私たちを包み込む。
「ねえ、いつもこんなところで話すの楽しい?」
「楽しくないって何回も言ったよね」
「そうだっけ?」
「このやりとり何回目、いや何年目だと思ってるの……」
ユウコは滞りなくいつもの言葉を吐き出すのだった。このやりとりも何度目かわからないぐらいにはやっていて、もはや恒例と化している。そろそろこの冒頭は飽きが来始めている、秋だけに。
「……ユウコはそういうの寒いと思うなー」
「心を読むのはやめて」
なぜか胸中を読まれて、勝手に駄々滑りしてしまった。
マフラーをぐいっと顔の方にやり、頬に集まった赤さを誤魔化す。
「照れちゃってー。かわいいな。うりうりー」
赤くなって熱くなった頬を容赦なくつつくユウコは少々Sっ気がある。ぜったい。
「あ、やば」
「どした?」
「今日ここに来るのがいつもより遅かったから……ほら」
「あちゃー。もうそんな時間かあ」
「帰らなきゃ」
時計を見れば、門限の時間が差し迫っていた。早く帰らなければ閉め出されてしまう。さすがに公園とかで野宿は勘弁して欲しい。
ユウコはじゃあね、と手を振った。
帰らねば。と思って、鳥居をくぐる。ぐい、と引っ張られる感覚があったので、振り返ると、ユウコがカーディガンの裾を引っ張っていた。ぐいぐい、と引き留めている。帰らなきゃいけないし。悪いけど、ちょっと強めに前に進む。そうすると、手は離れていった。
「ごめんね」
ユウコは何も言わずに手を振った。
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