第7話「島津・大友への使い」

 夜が明けるまで一休みした後、重茂しげもちが最初に向かったのは、一色いっしき仁木にっきに割り当てられた宿所だった。

 大宰府の中でも立派な造りの建物があてがわれている。他の武家と違い、総大将である足利あしかが尊氏たかうじの同族であるという点が重く見られてのことだろう。


 惣領家の家人である高一族との身分差は、難しいものがあった。


 彼らからすれば「宗家の一員だが所詮は家人」という意識があるだろうが、高一族は尊氏や直義ただよしの名代として働くことも多い。また、足利支族と言っても一色や仁木はこの頃、そこまで高い家格というわけではなかった。そのため、高一族のことも早々無碍に扱うことができない。

 高一族の側としても、尊氏たちの威光を笠に着ては、円滑に物事が進まなくなってしまう恐れがあった。


 そのため、彼らは表面上互いに一定の敬意を払うよう振る舞っている。


「殿の元へ護衛の兵を向ける、か。悪くない案ですな」


 ゆったりとした口調で頷いたのは、一色道猷どうゆうという入道姿の男だった。

 重茂たちとそこまで変わらない年齢であり、一色氏の嫡流とされていながら、既に出家していた。

 入道姿だからというわけでもないが、足利一族の若手の中では比較的落ち着いていて分別のある性格の持ち主である。


「私としても、異論はない」


 道猷の傍には異母兄である頼行よりゆきも控えている。

 母の出自の違いから道猷に嫡流の座を取られた形になるが、表面上は特に不平も言わず、粛々と弟の補佐を務めている。


「好きにすれば良いんじゃないか。ただ、あまり兵を多く持っていくなよ」


 そう釘を刺したのは、全身から闘気が溢れ出ているような男・仁木義長よしながである。

 彼は仁木氏の惣領である頼章よりあきの弟で、よく兄とまとめて仁木兄弟と称されている。


 兄である頼章は現在、京に近い丹波国たんばのくにで帝の軍勢と相対するという重い役目を任されており、弟の義長は尊氏・直義兄弟を守るため九州まで付き従ってきている。いわば尊氏・直義が深く信頼する股肱の臣とも言える存在で、高一族に近い立ち位置にいる。


「持っていくな、というのはなぜであろう。義長殿」

「分からんか。まだ菊池勢は多く残っている。近く追討の令が出るだろう、ということを言いたいのだ」


 追討令が出たとき兵が足りないようでは笑い話にもならん、と義長は重茂に念を押すように言った。


「しかしそれでは殿の安全に不安が残らぬか、義長殿」

「入道は心配性だな。そこは重茂殿らがきちんと工夫するであろう」


 道猷の言葉を笑い飛ばす義長に、簡単に言ってくれる、と重茂は内心不満を抱いた。

 もっとも、言葉には出さない。そこで揉めても話が拗れるだけだからだ。


「そのご様子では、仁木殿はこちらに残られることをお望みのようですな」

「当たり前だ。ここで退いて、重成しげなりのように臆病者と罵られたくはない」

「重成が?」


 重成というのは、高一族の支族である大高だいこう重成のことである。

 文武に優れた勇士で、今回の戦でも直義の側にいたはずなのだが、まだ姿を見ていない。


「重成殿は、先の見えぬ戦の中で殿の身を案じられたようで」

「それで一旦殿のいる本陣に戻ろうとしたんだが、そこを御舎弟殿に見咎められ、臆病者めと罵られたのだ。あれは効いたろうな」

「そいつはまた――」


 武士は面目を大事にする。

 衆目の前で、それも一大決戦の中で『臆病者』と罵られるという苦しみは、想像を絶するものだったに違いない。


 その辛さは、重茂にもよく分かった。


「そういうわけだ。重茂殿、重成を見かけても殿の元に戻れなどとは言うてやるなよ」


 義長は、武勇の士に対する敬意や優しさを持ち合わせている一面がある。

 重成に対しては、どこか同情しているようだった。


少弐しょうに殿についても、やめておいた方が良いでしょうな」


 一色道猷が、変わらず穏やかな調子で補足した。


 少弐は北九州において一大勢力を誇る武士の一族で、此度の戦において足利に勝利をもたらした最大の立役者とも言える存在だった。元々は武藤と名乗っていたが、鎌倉幕府の力で大宰府の次官である太宰少弐に任じられ、やがて少弐を名乗るようになった。


 鎌倉幕府が滅亡する際は時勢を見て後醍醐帝に従ったが、内心公家一統の世に少なからず不満があったようで、足利氏が朝敵として九州に落ち延びる際には積極的に力を貸してくれた。ただ、その最中に当主である少弐貞経さだつねが菊池氏の奇襲によって討ち取られている。今回の戦の、ほんの少し前のことである。


 現在は尊氏に同道していた少弐頼尚が後を継いでいるが、まだ家督継承が十分に済んだとは言い難い。また、それ以上に彼らは前当主の仇である菊池勢に復讐することを心に誓っていた。


「今の彼らに後方へ下がれなどと言えば揉め事にしかなりますまい。無理は避けて、できるところからやっていくのが正道というものでしょう」


 道猷は正道という言葉を好む。

 無理を通そうとすればどこかで歪が生じる。それは回りまわって己を苦しめることになるのだと、そのように考えているらしい。


「入道殿、あるいは頼行殿は?」

「行っても良いですが、手勢が少ないのであまりあてにはなさらないでください」

「我ら一色は、悲しい哉、さしたる兵力を持たぬのでな……」

「それを言うなら、俺など僅かばかりの郎党がいるだけだ」


 一色・仁木の三人が揃って重いため息をつく。

 一色氏は道猷・頼行兄弟の父を祖としているが、その父親はかつて足利一門ながら山伏として生活しており、足利一門の吉良きら氏の更に支流である今川いまがわ氏の婿となって、ようやく身を立てられたという。

 仁木氏は足利氏の遠い先祖の兄の流れを汲む家柄で、所領もさほどなく、一門ながら高一族ら被官とほぼ同様の立ち位置になっている。


「世知辛い話だ」

「兄上、それは言わないでください。多くを望んでも虚しいことです。私はただ、三河へ戻り平穏な日々を送ることができればそれで良いのです」

「うむ。この戦乱が長引かなければ良いのだがな」


 しみじみと語り合う一色兄弟に、重茂・義長は気の毒そうな眼差しを向ける。

 平穏な暮らしを望む道猷からすれば、本宗家と帝のごたごたに振り回され、遥か九州まで来るはめになったのは、とばっちりでしかないのかもしれなかった。


「……しかし、そうなると残すは」

島津しまづ大友おおとも辺りですな」

「それはそれで骨が折れそうです」


 重茂は胃が痛くなるのを感じていた。

 島津・大友も少弐氏同様、鎌倉幕府以来の有力な武士の一族である。

 足利に味方してくれてはいるが、被官でもなければ一門でもない。何でも言うことを聞いてくれるような主従関係という間柄ではなく、扱いを間違えれば大変なことになる相手だった。


「気張れ、重茂殿。そなたは武勇の士だかそうでないのかよく分からぬが、気骨のある男だとは思っている。島津・大友相手であろうと、足利名代として舐められぬよう交渉してこい」


 背中を叩きながら檄を入れてくる義長に、重茂は何とも言えぬ表情を返すことしかできなかった。




 重茂は、治兵衛と連れ立って島津の宿所に向かっている。

 師久もろひさ憲顕のりあきたちは、着到受付・軍忠状発行のための奉行所を開くための準備に勤しんでいる。

 師泰もろやすはあのあとどこかへふらりと行ったきりである。元々あてにはしていないが、腹立たしさはあった。


「しかし弥五郎様。島津・大友の方々を説得する術はあるのでしょうか。将軍や直義様の指示ならばともかく、これは我らの一存でございましょう」

「まあ、一応考えてはいる。上手くいくかは知らん」

「それで良いので?」

「良いも悪いもあるか。やる必要がある。手も考えている。それでも失敗することはある。そうしたら、それはもう仕方がなかろう」


 そういう風に考えなければ、九州の雄・島津大友を相手に交渉などできるはずもない。


 やがて二人は島津の宿所に辿り着いた。

 一色・仁木に割り当てられた宿所とほぼ遜色ない建物だが、雰囲気はまるで異なる。

 精悍な面構えの郎党たちが、有事に備えて宿所のまわりを厳重に囲んでいた。

 一色らの宿所にも当然護衛の兵はついていたが、こことは雰囲気からして異なっている。


 訝しげに二人を見やる見張りの者たちに、重茂は息を吸って大声で名乗りをあげた。


「朝早くから申し訳ない。私は足利被官・高弥五郎と申す。島津上総かずさ入道殿に相談したき儀があってまかり越した、とお伝え願いたい」


 重茂の言葉を受けた見張りの兵は、黙って頷くと奥にさがった。

 待っている間、重茂はどこか落ち着かない気分で視線を泳がせている。


「弥五郎様、もっと堂々となされませ」

「分かってはいるが、薩摩隼人さつまはやとに囲まれていると思うと、どうにもな」


 島津氏の領国・薩摩国さつまのくにの武士は精強で知られている。

 今回の戦においても、彼らは菊池勢を相手に一歩も退かぬ戦い振りをみせたという。

 彼らが身にまとう凄味は、他国の武士にはない何かを感じさせた。


「お待たせしました。お会いになられるそうです」


 重茂たちは、思ったより早く奥に通されることになった。

 宿所の奥にある一室では、真っ白になった髭をたくわえた老人が待ち受けていた。


 島津上総入道貞久さだひさ

 元寇の頃には既に生を受けていたという老人で、今もなお島津氏の惣領として君臨する存在である。

 既に七十歳近く、重茂たちの老父・師重より更に年長の人物だが、今でも弓馬においては凄まじい腕を持つと言われていた。


「このような時分に御目通りいただき、ありがたく存じます」

「気にされるな。ちょうど朝の稽古が終わったところよ」


 貞久は庭先に視線を向けた。

 視線の先を追うと、いくつもの矢が突き刺さった的が見えた。

 矢はいずれも的の中心部付近にある。


「それで、御用向きは?」


 貞久に問われ、重茂は尊氏のいる箱崎に兵を回したいという要望について説明した。

 後から指摘されても面倒なので、これが尊氏・直義の発案でないことも触れておく。


 一通り話を聞き終えた貞久は、うむ、と顎髭を撫でながら難しそうな顔を浮かべた。


「高殿らの申すこと、ごもっともと存ずる。しかしこの入道、さすがに年でな。行ったり来たりというのは、いささか身体に障る。できれば御勘弁いただきたいというのが正直なところだが――」


 さすがに二つ返事で引き受けてくれるわけではなさそうだった。

 治兵衛が「大丈夫ですか」と言いたげに重茂を見る。

 重茂は内心の緊張を表に出さぬようにしながら、話を続けた。


「ところで入道殿。それがし、ここに来る途中で島津一族・山田殿の郎党を名乗る者に襲われましてな」

「ほう?」


 貞久が興味深そうな眼差しを向けてきた。


「なぜ、襲われたのかな」

「本国にいる山田殿にかわって入道殿の元に馳せ参じると申しておりましたので、それなら行くべきは箱崎ではなく大宰府であると告げた途端、襲われました。故に、斬りました」


 貞久の側に控えていた何人かの武士が、表情を強張らせた。

 島津の者たちが居並ぶ場で、島津一族の郎党を名乗った者たちを斬ったと言えば、当然の反応だろう。


 もっとも、ただ一人、貞久だけは「斬った」という言葉に反応を示さなかった。


「それは奇妙な話だ」

「奇妙、とは?」

「山田と言えば道慶どうけい忠能ただよしのことだと思うが、二人はとうにこの陣に加わっておる」

「――それはまた不思議なことでございますな」


 道慶と忠能を呼べ、という貞久の指示を受けて、近習と思われる若武者が部屋を出ていった。


「道慶は元々わしと共に足利殿の討伐軍に加わっておった。そしてそのまま足利殿に寝返りよ。忠能は確かに本国に残してあったが、先日筑前ちくぜんに渡る直前のところで合流しておる」

「忠能殿のことは、存じ上げませんでした」

「仕方なかろう。菊池の動きもあって、着到報告もきちんと済ませず今日に至るのだからな」


 やがて、貞久と同年代の老人と壮年の男性が一礼して部屋に入ってきた。

 話題に上がっている山田道慶・忠能親子である。道慶の方は、建武の新政の折に見た覚えがあった。


「忠能。おぬし、自ら引き連れてきた者たち以外に増援を寄越すよう、国許に連絡は入れたか?」


 貞久の問いかけに、山田忠能はやや緊張した面持ちで頭を振って否定した。


「いえ。これ以上国許から兵を出せば、留守中に谷山の者どもになにをされるか分かりませぬ故、兵を出したくとも出せませぬ」

「であろうな。……ここにいる高殿が、山田の郎党を名乗る者に襲われたというが」

「それは、我らを陥れようとする何者かのはかりごとにございましょう」


 忠能は、やや早口で抗弁した。そんなことで疑われてはたまらない、と言いたげである。


(ここが、攻めどきか)


 重茂は居住まいを正して膝を打った。

 大きな音に、その場が静まり返る。


「左様。左様――某も山田殿を騙る何者かと考えております。なればこそ、斬って捨てたのです。この話をしたのは、山田殿を責めるためではございませぬ」

「高殿が疑わずとも、他に疑う者が出ぬとも限らぬ」


 重茂の言葉を遮るように、貞久がぽつりと呟いた。


「であれば――疑われぬよう、我ら一族が率先して将軍の警固を務めるのが良い。そういうことかな」


 言わんとしていたことをそのまま先に言われて、重茂は肝が冷える思いをした。


 島津一族を騙り尊氏を害さんとする者がいるなら、島津一族で警固をすれば疑念は晴れる。

 まさにそういうアプローチの仕方を考えていたのだが、貞久はそれを看破したらしい。


「――まさに。入道殿の御慧眼に、この重茂、感服いたしました」

「……」


 僅かに頭を下げる重茂を、貞久は値踏みするようじっと見つめた。

 周囲にいる島津一族、その被官たちの視線も、自然と重茂に集中する。


 どうにも、生きた心地がしなかった。


 どれくらいそうしていただろう。

 先程の意趣返しなのか、今度は貞久が大きく膝を打った。


「――良かろう。高殿の申すこと、ごもっともである」


 重茂は恐る恐る顔を上げた。

 貞久は笑っている。本心からの笑みなのかは分からないが、話は呑んでもらえたようだった。


「忠能、そなたは行っておいた方が良いであろうな。あとは……そうさな、生駒丸いこままるも連れて行くが良い」

「承知いたしました」


 生駒丸というのは、貞久の子の一人である。まだ元服前の少年だが、島津宗家の一員だった。

 箱崎に向かわせる手勢に、箔をつけておこうということなのだろう。


「高殿。他に誰か向かわせるつもりかな」

「あとは、大友殿にもお願いしようかと……」

「されば出立はその後だな。忠能、いつでも出られるよう準備だけはしておけ」

「はっ」


 道慶・忠能は貞久に一礼すると、そのまま部屋を後にしようとした。


「忠能殿」


 島津の協力を得るためのダシに使った後ろめたさから、思わず重茂は呼び止めてしまった。

 忠能は足を止め、なんでございましょう、と問い返す。


「その――かたじけない。着到の儀については、某から奉行所に伝えておきますので」


 改まった様子でそう告げる重茂に、忠能はおかしそうな笑みを浮かべた。


「高殿は、肝が太いのか細やかなのか、よく分かりませぬな」

「は?」

「いや、失敬。着到報告の件、よろしくお願いいたします」


 そう言い残して、山田忠能は軽やかにその場を後にした。




「なるほど、そのような経緯でしたか」


 愉快そうに話を聞いているのは、大友氏の支族・立花たちばなの当主である宗匡むねただだった。

 その奥には、まだ幼さが残る少年が座している。こちらは大友宗家を継いだ千代松丸ちよまつまるである。

 宗匡は千代松丸の実兄にあたる。家督を継いだ千代松丸がまだ若いこともあり、その補佐を行っていた。


 彼らの前に座って話をしているのは、重茂――ではなく貞久だった。

 どういうつもりか、あのあと貞久は重茂についてきて、重茂にかわって大友氏に箱崎へ兵を回す件について説明をし始めたのである。


(これでは、俺がいる意味はないのではないか?)


 そう疑問に思うものの、島津・大友という九州の大勢力の当主たちを前に、どうも口を挟めない。

 そんな重茂の様子に気づいたのか、宗匡は「ところで」と話を切り換えた。


「高殿は、我ら大友についてはどのように説得されるおつもりだったので?」

「は、はあ。それは、千代松丸殿が殿のご猶子である縁を頼りにお願いしようかと――」


 大友氏は、宗匡や千代松丸の父が先年急死し、兄弟も戦死・仲違いするなど不安定な状態に陥っていた。

 それをなるべくまとめた上で味方につけようと、九州に落ち延びる前、尊氏は千代松丸を自らの猶子とした。相続権はないが自らの子も同然、と宣言したのである。

 これによって千代松丸の立場は重みを増し、足利に味方するという方針の下で新たな結束が生まれた。


「ほう、わしらに比べると随分と穏当な頼み方だな」


 貞久がちくりと嫌味を言う。しかし、先程島津の宿所で感じたような圧はなかった。


「それだけではあるまい。それで断られることも当然考えてあったであろう」

「は……その場合は、島津殿のときと同様、騙りによって大友殿が陥れられる可能性をそれとなくお伝えしようかと」

「入道殿。それくらいになされれよ。高殿が困っておいでだ」


 助け舟を出してくれた宗匡が、重茂には仏のように見えた。

 仏みたいな格好をしているのは貞久の方なのだが、こちらは天魔かなにかに見えてくる。


「すまん、許されよ。いや、正直に言うとは思わなかったのだ」

「言わねば言うまで続けたでしょうに……」

「なにか言うたか?」

「いえ、なにも」


 観念した様子を見せた重茂に、宗匡は思わず笑みをこぼした。


「おそらくですが、高殿は入道殿に気に入られたのでしょう。だからこそ、ここまで同道して我らを説得するのに力を貸した。違いますか、入道殿」

「これは面白いことを言うな。わしはただ、島津だけが兵を出さねばならんのが気に喰わぬ故、巻き添えを増やそうと思って来ただけよ」

「では、謹んで巻き添えになりますかな」


 宗匡はそう言って奥の千代松丸を見た。

 千代松丸はまっすぐに重茂を見て頷く。


「この大友千代松丸、将軍のためであれば喜んで向かいましょう。島津の入道殿がこちらに残られるのであれば、こちらも当主である私は残った方が良い。されば、箱崎への援軍については兄上にお願いしたく」


 まだ若いが、堂々とものを言う少年だった。

 既に当主としての自覚は、しっかりと持っているらしい。


「相分かった。では生駒丸殿と共に向かうとしましょう」

「しかし高殿。直義殿には予め相談しておかずとも良いのですか?」


 当然の疑問を千代松丸が口にする。

 この大宰府にいる軍勢の大将は足利直義である。

 彼の許可を得ず軍勢を動かし後々咎められないか、それは皆が気にするところだろう。


「直義殿の副将たる我が兄がすべての責任を負います故、叱責があったとしても、島津殿・大友殿に咎が及ぶことはありませぬ」

「分かりました。でしたら、心置きなく兵を向かわせられます」


 千代松丸の言葉を受けて、重茂もようやく肩の荷が下りたような心地がした。

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