第6話 愛してるの代わりにさよならを添えて

 拝啓 エステル・ビビッド様


 やぁエステル、久しぶり。

 天国でもキミは相変わらず絵を描いているのだろうか。

 僕は今日も墓穴を掘っているよ。

 掘って、掘って、掘って。

 墓守としての役目を果たしている。仕事をしている方が気が紛れて、エステルがいないことを考えずに済むから少しだけ心が楽だ。少しだけね。

 キミに貰った絵はちゃんと飾っているよ。額縁を付けず、イーゼルに立て掛けた状態だけど。だって額縁の作り方をまだエステルに教わってない。

 こうして手紙を書いているのは、新しく町に就任した神父に薦められたから。気持ちを整理するのにいいんだって。

 でもね、エステル。

 キミに伝えたかった事はたくさんあるけれど、いざ書くとなると何を書けばいいのか分からなくなる。エステルと過ごした日々は本当に楽しくて、どの思い出も輝いているけれど、生憎この気持ちをうまく表す言葉を僕は知らないんだ。

 世界は今も白雪病に苦しんでいる。毎日当たり前のように誰かが死んでいると、みんな自分の事ばかり心配して、亡くした人達の事を忘れてゆく。

 僕もいつかそうなるのかな。

 すごく怖いよ。

 だからエステルに貰ったあの美しい絵を見るたびに、キミを思い出すことにするよ。

 そしたらキミへの想いも忘れずにいられるでしょう?

 最後にひとつ、キミがくれた言葉をそのまま返したい。きっと僕は、エステルに出会うために生まれてきたんだ。墓守として、ただひたすらに土を掘るためだけに生きていたんじゃない。何の変哲もなかった僕の人生に、こうふくを与えてくれたキミに心からの感謝を込めて。


 さようなら、エステル・ビビッド。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

墓守と屍人と星降る月夜 2138善 @yoshiki_2138

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ