第七話『超人の戦いの幕開け』・「祝福を受けた戦士ッ!」

 ヤツらの作戦は崩れた。二対一じゃなくムニンの要望通りの流れに。

 白のヘラクレスは黒いムニンと。

 紫と黒のビッグ・セックは黒いフギンと交戦。

 白と紫と黒が混じり合う。

 拳と包丁と蹴りが常軌を逸した速さで飛び交ってる。


 嫌でも超人の戦いを思い知った。

 けど気おくれしてられない。

 前にヤツらを退散させたセックは相手が一人なら心配ないな。援護するならヘラクレス。

 さっき聞いた鳥兜の話での師匠セックの言葉も気になる。


『鳥兜は狼をも殺す。だからこそあたしには効かないし予測はできる。しかし見てみなくてはわからないね。キミもだよ』


 見て考える。

 ヘラクレスの援護に入ったらセックの戦いを見る余裕はなくなるかもしれない。

 今の内に少しでも観察する。

 だがヘラクレスの不利を感じたらすぐ動けるように呼吸は忘れるな。


「てっめゲリッフレキッ! なにしてやがるッ」


 フギンのほうか。セックと距離ができたな。


「大将の意向に沿わねえ気かてめえら。ボケ狼どもがおれは知らねえからなッ」


 灰色の丸い眼がこっちを見た。来るのか?


「いやァ狼だからか。御大将のお言葉通りならウールヴヘジンの野郎とシンパシーを」


 さっきからウールヴヘジンって、


「そうか大将は見越しておられたのかァー。故に狼どもを野郎に。ハッハッ」


 なんなんだ。


「おい生活保護、光栄に思えや。御大将はわざわざゲリとフレキをよこしたらしいぞ。おれもオメェをウールヴヘジンだと自覚させてやるぜ」


 いい加減にしろ!


「ウールヴヘジンウールヴヘジンってなんだよお前!」


 叫んだらセックの鋭い眼光青色がこっちへ。


「ナオヤ君まだ戦闘中だぞッ」


 青色眼光が紫と飛んだ。

 黒いライダースーツも弾丸みたいに。

 腕の緑の線がフギンを横ぎにした。

 光る刃は止まらずに二つの包丁が舞うようにヤツの懐へ。

 フギンは避けてるが避けきれてない。

 彼女の包丁が次々と黒い鎧スーツに傷をつけ、肉が斬れる嫌な音も聞こえた気がした。

 なのにヤツは叫んだ。


「ウールヴヘジンとはッ」


 斬られながら、


「皮を着て!」


 叫んでる。


「それがッ!」


 祝福だ?


「ふッざけんなよカラス野郎ッ」


 気持ち悪さと怒りで声が震えた。

 俺の人生のなにが祝福だ。


「怒り狂う者、時にとも呼ばれる」


 肩を揺らして笑ってるのか。


とも呼ばれるがなァ」


 致命傷ってぐらい斬りつけられてなんで平気でいられる。


『フギンの発言に嘘は確認できません。相手の耐久性についてはセックが情報を有していますが未共有』


 プロメテウスの分析を耳にした直後だった。



 フギンが呪文を唱えたように聞こえた。

 黒い体スーツから傘に似た突起がいくつも出てる。

 セックが振るう包丁から金属音も聞こえだした。 

 あの黒い突起が刃を防いでるのか。

 攻撃をやめた彼女が後ろに飛んで俺に近づいた。


「ナオヤ君、戦闘中はヤツの言葉に耳を貸すな。の話はあたしがあとで教えてやる」

『セックから報告がきます』

「見てみろ、ヤツの鎧には仕込みがある。あれは“盾”だね」


 そうだ呼吸を忘れず見て考えろ。

 体中から傘みたいな突起が出てたがもう引っ込んでる。

 盾の技か。

 スーツの全面で。

 だから出し入れが。

 烏の視野は死角もない。

 全方向の攻撃を防げるのか。


「厄介だね」「厄介だ」


 彼女と声が重なった。


「だがあたしがかなり。ヤツが喋ってる間に。ナオヤ君のおかげ」


 殺したって。

 ピンピンしてるじゃないか。


「トワカ嬢っ! こっちへ来い!」


 ムニンと戦ってたヘラクレスが引いた。飛ぶように俺の近くへ。


「糞女が作戦会議かよ。まあいいぜェおれらもやってるからなァ。時間はまだある」


 セックが目配せしながら言ってきた。


「あたしが知るヤツらの正体を教える。さっきのでハッキリわかった分」


 俺はヘラクレスと目配せしてから聞いた。


「レイヴンズはあたしが考えてた以上にクソ野郎の魔術そのもの。技さえも魔術として供給されていた。ハッキリ言うよ。ヤツらは不死身だ」


 不死身――


「それは……師匠と同じ意味ですか」

「あたしとは違うがナオヤ君からは似たものと考えていい。そうしてヤツらの活動には時間的な限界がある」

「じゃ殺したっていうのは」

「人体としてならもう何度も殺してる。殺してもヤツらは再生するの。供給元から体を作るエネルギーが送られてるからね」

「ならどうすれば勝てる」

「答えは簡単なものよ。ヤツらの活動限界まで粘るか、殺してエネルギーを不足させるか。これも活動時間をいかに短くするかの話ね」


 確信するかのように彼女が続けた。


「不死身でも寿命はある存在ってこと。あたしたちの攻撃でヤツらの寿命を短くする」


 ハッキリしたから口にでた。


「結局やることは変わらない」

「そうよ。キミらもレイヴンズをもっと人間だと思わなくてすむ。空気からできた風を倒すようなものだよ。いや嵐だね」

『情報を共有しました』

「了解」


 俺たちはヤツらに向き直った。


「ブサイクども作戦は決まったか? おれらはいつでもいいぜ。本番はまだまだここからよォ」


 フギンが突っ込んでくる。

 さえぎった紫の閃光セックが前に出たから黒と衝突した。



 またフギンが呪文を唱えたと思った。

 もした。金属がこすれ合うような。

 同時にヤツの手から剣の形に似た物体が出て、


「セックっ!」


 俺は呼んでた。避けろと言えずに。

 彼女が剣状の黒い物体に貫かれていた。

 見たのはカウンター。

 ヤツが突っ込んできた瞬間に自分の動きを止め、ちょうど彼女が攻撃を仕掛けたそのタイミング。


「ナオヤ君ッ、ヘラクレスを見ろ!」


 自分が致命傷を負ってるのに、

 ヘラクレスのほうを――


 俺は息を吐いた。


 フロー。



 ムニンも同じ言葉で剣の技を解き放っていた。

 けど手からではなく、

 

 まるで針ネズミ。

 複数の黒い剣がヘラクレスの体をかすめた。

 直前で避けたから彼女は無事だ。

 けど剣がかすめた部分がおかしい。

 スーツが破れて黒い体毛が削がれてる。

 見えるのは肌色――


 セックとの違い、


「ヘラクレスッそれがトリカブトだッ!」


 伝われっ。


「黒い剣に触れるなッ変身が解ける!」


 彼女は無言でうなずいてくれた。

 破れたスーツも修復されてる。


『シールズは体表から硬質化した突起を出現させ、同じ仕組みでソーズも硬質の刃を出現させています。音を解析した結果、ソーズは硬度を落とした物体と推測しました。軟化の際にヘラクレスを弱体化させる物質を練り込ませた模様』


 セックのほうを見ると、貫かれた姿のまま包丁をフギンの体に刺している。

 あれが不死身同士の戦いか。真似はしたくない。


 ムニンの剣の技を理解したヘラクレスの動きが変わった。

 スーツ姿でありながら野生の獣のように素早い。

 躍動的で力強い動き。

 距離をとりながら攻撃の隙をうかがうのか。

 ヒット・アンド・アウェイだ。


 セックとフギンの戦いは均衡を保ってて時間の問題か。

 もうセックの戦いは見なくてもいい。

 俺が援護すべきはやはり彼女。

 ムニンと戦うヘラクレス。

 フローで迷いもなく感じる。

 もう見てるだけではいられない。


 プロメテウス、準備は。


『ファイアボール・ダブル、サンダーフィンガー・ダブル、再活性します♪』


 心のざわめきで体が騒ぐ。

 ヤツらを破壊しろと。

 待ってろヘラクレス。

 もうすぐ俺が援護する。

 ゆみちゃんの皮を被ったヤツを倒す。

 自分の過去を叩きのめす。

 一ノ瀬誠ハイタカと同じように。


 手をベルトにやった。

 バチンバチンと音がする。

 だが今度は右手だけじゃない。

 二重で音が響く。


 今の俺はだ。

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