第255話 初夜

30分ほどして沙知が風呂から出てきた。


さて、俺は風呂に入っていいのだろうか?


残り湯を楽しんだとか言われてぶん殴られたりしないだろうか?


沙知はずっと俺の方を睨んでいる。


えっと……、どうすれば……?


「まだ入らないの?お風呂冷めちゃうけど」


沙知は睨みながら俺に言う。


なるほど……。これはセーフなのか。


「あっ、いや、入るよ、うん、入るよ」


「あっそ」


俺はすぐさま風呂場へ逃げるように進む。


「はぁ……」


えっ……?


今部屋を出るときに沙知がため息をした気がするんだが。


そんなにも俺のことが嫌いなのか?



俺は風呂でため息をつく。


まぁ、そうだよな。俺なんて沙知からすれば最悪の兄なんだろうなぁ。


オタクだし、沙知の兄として相応しいくらいカッコいいわけでもない。


こんな兄、普通は嫌いになるよな。


はぁ…………。


残り湯を堪能しているなどと疑われるわけにはいかないので、俺は出来る限り早めに風呂を出た。



そして今、俺たちは再び沈黙の時間を共にしていた。


どうすればいい?


飯も食った。風呂も入った。何をする?


そうだ!寝よう!ってまだ21時じゃねえか!いつもならラノベを読んだりしている時間だが、沙知がいるので放っておくのはなんだか可哀想だ。


友達の家に泊まりに行ったのに、「好きなようにしておいて」と言われ、(えっと……どうしよう。することがない)と思ってしまう現象だ。まぁ、昔真昼の家と、最近の村瀬の家くらいしか泊まったことないけど。


「さ、沙知、見たいドラマとか映画とかこのテレビにあるやつだったら好きに見てくれて構わないからな」


「う、うん、ありがと」


おっ!ちょっといい感じの返事だ。


これで俺はラノベ読めるかな。


沙知はリモコンをカチカチ操作している。


数分カチカチした後、沙知は俺の方を見て言った。


「あんたっていつもどんなの見てんの?」


えっと……、ここからは別行動だと思ったのですが……、ここはなんと答えればいいのだろうか。普通にアニメと答えていいのだろうか。


「えっと……アニメとか」


考えた結果、アニメ以外見ていなかった。


「あ、そう、あんたのおすすめとかあんの?特に見たいドラマとかもないからあんたのおすすめの作品を見ることにする」


な、なん……だと?!


あのいつもアニメを馬鹿にしていた沙知がアニメを?!


一体なんの作品をお勧めすればいいのだろうか。


異世界系は多分興味ない。


恋愛系?多分一番興味はあると思うが、俺がお勧めすると気持ち悪がられる気がする。



考えた末、俺は映画化もされた感動系のアニメを勧めた。



そして……


「グスン、よ゛よがっだよー」


俺は妹の泣き顔を初めて見ることになってしまった。


そして、初めて妹とアニメについて熱く語ることができた。


初めて兄弟みたいなことができた気がする。


俺たちはアニメ1クール全て見てしまったので今はもう夜遅い。


沙知は布団を用意するとすぐにコロンと寝てしまった。


俺もベッドに横になった。


こうして、沙知が来た初日は無事平和?に終わった。

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