第254話 沙知

私は今湯船に浸かっている。


そして小さくため息をついた。



私は普段学校などでは優等生を演じている。


いつも笑顔が絶えない完璧な女性を。


その効果もあってかたくさんの男の子に告白をされたこともある。


初めの方はそんな生活が楽しかった。


みんな褒めてくれるから。


しかし、それは最初だけだった。


月日が経つと初めは褒められていたことが当たり前だと思われるようになる。


そして、その理想から少しでも違うと次はみんなからダメな子だと思われてしまうようになる。


私は必死にみんなの理想だけを目指して過ごしていた。


『容姿端麗学力優秀』を。


しかし、小学生を卒業した後、私の母は再婚することになった。そして私は再婚相手の家に住むことになった。


その時私は心の底から嬉しかった。


今までの私を知っている人はもういない。


ここから一から始めようと決意した。


私に義兄ができた。


その兄はオタクだった。


少し気持ち悪い部分もあるが、優しい普通の男子といった感じだ。


初めの方は普通の家族として過ごすことができた。



学校が始まった。


入学式、私はこれからの人生にワクワクを隠すことが出来なかった。


教室に入るとみんなが一斉に私の方を見た。


それもそうだろう。入学式なのだから。


指定の席に座ると、クラスの子が話しかけてきてくれた。


あれ?完璧な女性以外の人ってどんなふうに話すんだっけ?


私は咄嗟に今までの演技を出してしまった。


そこからは早かった。


みんな私を完璧な女性と見る。


そして時間が経つとその生活を手放すのが怖くなってしまう。


結局私は何一つ変わることができなかった。


しかし、一つだけ変わったことがあった。


兄の存在だった。


兄が優しいことをいいことに、学校などのストレスを兄に当ててしまうことが多くなってしまった。いや、ずっと当たっていた。


本当に反省している。


謝ろうと思ったりもしたが、様子を伺う時も目が合うと兄はさりげなく私を避ける。


まぁ、わからないでもない。


だってずっと暴言を吐いたりたまには殴ったりすることもあったかもしれない。


それに、何度か考えたことがある。


兄にも演技をすれば……と。


結論から言えば出来なかった。


何故なのかは私にもわからない。


兄にだけは目つきも悪い最低な女になってしまう。



兄は一人暮らしをすることになった。


きっと兄は私から逃げたかったのだろう。


行って欲しくはなかったが、兄だけには正直になれない私は「さっさとどっか行けば」と言ってしまった。


兄とのこの関係を変えたい。


もっと普通の兄弟みたいに相談をしたい。


きっと私の兄なら相談を何も言わずに聞いてくれるだろう。


そのためには私が正直になるだけだ。



クラスの子と花火大会に行くことになった。


それは兄の家の近所で行われる。


それをクラスの子たちに話すと何故か兄の家で軽く休憩をするとか言い出した。


否定することもできず勝手に話は進んでしまって今に至る。


でも、久しぶりに兄に会えることに楽しみではあった。


これはきっとチャンスだ。


あなたの関係を少しでもいい方向に変えるためのチャンスだ。


お母さんが帰ってしまったのは残念だが、後々考えたらこっちの方が良かったかもしれない。


よし、絶対にこの関係を変えて見せるんだ。

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