第229話 好きなタイプ

「で、分からないところってどこだ?今日は特別になんでも教えてやるぞ」


俺たちは部屋に入り、いきなり勉強をスタートしていた。


勉強嫌いな村瀬が相手なら一緒にサボろうなんてことになることを少しは期待していたんだがな。


意外とやる気らしい。


まあ、文系科目をするくらいなら全然教える。


「えっと……ここなんだけど……」


そう言って俺の隣に座り、俺の前にその問題を見せる。


肩が当たっている……。


なんだか、昨日の郷田と真昼みたいな光景だ。


ちょっとドキッとしたけど、村瀬の顔は至って真剣だった。


きっと俺をからかおうなんて考えてないんだろう。純粋に質問をしてくれたのか。


それは嬉しいことだな。


それなら、ちゃんと期待には答えないとな!


そこからというものは、ものすごく真剣に俺たちは勉強に励んだ。



2時間ほど経っただろうか。


「ふぅー。けーちゃんありがとね。結構分かったよ」


村瀬はやりきったという感じで床に倒れ込んだ。


「2時間もやり続けるなんてすごいな。よく頑張ったな」


俺は村瀬を褒めてあげた。うん、俺には2時間も勉強なんてできないから尊敬する。


「最近はちょっと数学をやるのが楽しくなってきたんだ。あ、けーちゃん、頑張ったご褒美ちょーだい」


そう言って俺の太ももに頭を預ける。


これはあれだ。昨日一ノ瀬にやってもらった膝枕というやつだ。


俺はあぐらをかくように座っていたため、俺のほぼ真下には村瀬の顔があった。


やばい……思ったよりも顔が近い……。


めっちゃドキドキするなこれ……。


「ねえ、けーちゃん」


「ん!ん?」


村瀬の声に少し動揺を隠せなかった。


なんか村瀬の声がめっちゃ色っぽく聞こえるんだけど……。


恥ずかしいが視線を村瀬の方に向ける。


「けーちゃんの好きなタイプってどんなの?髪型とか教えてよ。さっきなんでも教えるって言ったよね?」


村瀬は視線を俺から離さずに言う。


さすがに恥ずかしいんだろう。若干頬が赤く染まっていた。


でも、好きなタイプってなんなんだろう……。


2次元のことでもいいのかな……。


「アニメとかのでもいいか?」


「うん、いいよ」


村瀬からの許可を得たので、俺は好きな2次元のタイプについて話すことにした。


「そうだな……まず髪の毛は茶色か金髪が好きかな。それでロングのストレートが好きかも」


意外とすらすら出てきた。まあ、小学生の頃からこの好みは変わらないんだよなー。


「なるほど……。そーゆーことだったんだね……」


「ん?どうかしたか?」


何やらブツブツと呟いている村瀬が気になったので聞いてみた。


「ん?ああ、なんでもないよ」


「そうか……?」


「うん!そうか……。それなら私もそんな髪型にしよっかな……」


何やら髪型について悩んでいるらしい。ならば俺は素直に言うべきだな。


「いや、あーちゃんはそのままでいいと思うぞ」


「え?そ、そう?それならこの髪のままでいこうかな……」


「ああ、似合ってると思うぞ」


「あ、ありがと……。よし、そろそろ勉強再開しよっか」


そうして俺たちはひたすら勉強した。



そして夜、2日目の相手のくじ引きが始まった。


さすがに今日も郷田ということはないだろう。


単純計算でも、二回連続で郷田が相手になる確率はたったの4%だからな。


手慣れた手つきで俺たちは一本ずつ摘む。


3度目となればさすがに慣れてくる。


「それじゃあ、せーのっ!」



俺は再び青色の割り箸を取り出した。


「あ、森木さん……。よろしくお願いします」


どうやら俺の相手は大当たりを引き当てたらしい。


一番まともな人間。でも、一番嫌われているかもしれない人物。


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