第224話 やる気スイッチ

一ノ瀬とのレッスンが始まった。


俺たちの隣ではあいちゃんが一生懸命漢字のワークをしていた。めっちゃ癒される。



そして俺は……、未だに全く集中できていなかった。


ペンを持つとだるくなってしまう病にかかっているのかもしれない。


早く家に帰りたいなぁ……。


しかし、そんなことはできない。


だって、鍵取られちゃったんだもん。


おそらく一ノ瀬のバッグの中に入っているはずだ。


しかし、俺がそのバッグの中を漁ったとしよう。もしそれを誰かが見たらどう思うでしょうか。


はい、そうです。下着泥棒かなにかと勘違いすることでしょう。


よって、俺は大人しく勉強をしなくてはいけないのだ。


一ノ瀬がそこまで考えているのだとしたら、それはものすごく怖いですね、はい。


「京くん、ちゃんと勉強しないとダメだよ?」


「ああ、分かってはいるんだよ、分かっては……。でも、全くやる気が出ないというか……」


俺は一ノ瀬にそのまま言う。


「中学校の頃とかどうしてたの?前日に答え写してたみたいな感じ?」


「いや、そもそも宿題なんてほとんどやったことないな」


俺が言うと、一ノ瀬は明らかに動揺した。


「えっ……?もしかして京くんって不良だった?」


あれ?ちょっとびびってる?俺そんな喧嘩とかしてるように見えるか?自慢じゃないが、ぽっこりお腹だよ?


「いや、どんな学校にもいただろ?見た目は普通なのに宿題とかしない子。それが俺。自慢じゃないが俺、喧嘩とかしたことないぞ?」


「うん、なんとなくそれは分かる」


あれ?なんかちょっと傷ついたんですけど……。そんなに弱そうに見える?まあ、弱いんだけどさ。


「まあ、なんとなく分かった。それなら、これからは私が終わるまで面倒みてあげるよ」


笑顔で言ってくる一ノ瀬さんまじ怖え……。だから俺は……


「遠慮しておきます」


丁重にお断りした。


毎回毎回こんな地獄みたいな生活とか辛すぎだろ!


「遠慮なんてしなくて大丈夫だよ♪最後まで責任とって見てあげるからね♪」


やばい……、恐ろしい……。


絶対逃す気ないなこれは。


これからはもう少し警戒心を持って行動しよう。



そこからというもの、やる気が出ないということもあって、全く進まなかった。


「京くん、いい加減諦めて宿題頑張ったら?」


「いやー、やろうとは思ってるんだけど、全く手が動かないんだよ……」


やらないとラノベを読めないんだからやる気くらいはある。


でも、動かないんだから仕方ないじゃん。


すると、一ノ瀬は小さくため息をつく。


「それなら仕方がない、ちゃんと一日まじめに勉強したら、私が膝枕をしてあげるよ」


え?まじで?!なんか、ちょっとやる気が出たかもしれない。


「いや、そういうわけじゃ……」


でも、なるべく平静を装う。


これで「よっしゃー!やる気出たぞ!」とか言うのは郷田くらいだろ。


「えー!私みたいな美人の膝枕だよ?頑張ろうよー!」


「いや、自分で美人とか言うなよ。まあ、美人なのは事実だけど」


「え?あ、あありがと……」


え?何で照れてんの?!自分で美人って言うのは平気なのに、人に言われるとアウトなの?!何その基準!


「終わったあ!!」


声の方を向くと、あいちゃんが伸びをしていた。めっちゃ可愛い。


「お兄ちゃん!漢字のワーク終わったよ!」


あいちゃんは俺の方へ向かってくる。


「おお!すごいなぁ!えらいえらい」


俺は近づいてきたあいちゃんの頭を撫でてあげる。


すると、あいちゃんも嬉しそうに猫みたいな声を出す。これが可愛すぎてたまらん!


ちゃんと勉強しててえらいねー」


おいそこ特徴するな!自分でも分かってるから!


しかし一ノ瀬は止まらない。


「あいちゃんはどうしてそんなにも頑張ってるの?」


すると、あいちゃんは即答した。


「だって、勉強を終わらないと遊んじゃダメだってお姉ちゃんに言われたから!早くお兄ちゃん達と遊びたいし!それに、プールにも行きたい!」



パチンッ!


「よし、やるか!」


やばい!やる気が漲ってきた!


「ロリコンだ……」


違う!シスコンだと言ってもらおうか!


俺はあいちゃんのことが妹として大好きなだけなんだ!妹は悲しませたくないものなんだ!


うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!


俺の手は止まらなくなった。

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