第214話 ファイヤー
なぜだろう……。
ものすごくドキドキしている。
私は今京くんの手を握っている。
できる限り平静を装ってはいるが、ちゃんとできているのかわからない。
私は京くんに対してそんな感情があるはずがない。
いや、そんな感情を持ってはいけないんだ。
まっひーや愛月ちゃんは私のことを信用してくれて私が今京くんと踊ることになったんだ。
今思えば、だれも踊らないって言う選択肢があったにもかかわらず気づかなかった。
私って大バカものだよね……。
京くんには「遅れた」と言った。
遅れたと言えば、トイレとかを考えると思う。
でも、実際はトイレはすぐに終わっていた。
手洗機の前、鏡を前にした時、なぜか乱れた髪が気になってしまった。
今までこんなことなんてなかったのに……。
髪を整え終えても、いろいろ気になってしまう。
なぜなんだ……。そんなことあるはずが……。
こんなの、もし私が京くんのことを好きだなんてことになってしまったら、今までのような楽しい日々はきっと続かないんだろう。
それなら、そんな感情は抑え込まなければならない。
うん、それが1番正しい……。
それなら、今この状況だとしても、断るべきなのだろうか。
きっとそうなんだろう……。
あくまで噂だが、踊った2人は結ばれるなんてものがある。
でも……。
でも、最後のわがままとして、京くんと踊りたいと思う自分がいた。
うん、最後のわがままだから。
「京くん、私と踊ってくれますか?」
そして、きっぱり自分の気持ちを整理しよう。
全てがうまく行くように……。
ゆったりとした音楽が流れる。
そして、私たちを含める数十組のペアは火を囲むようにしながら踊る。
京くんの顔が近くにある……。
胸が騒ぐ。ドキドキドキドキ……。
これが、最後、だもんね。
私は最後だということを噛みしめながら残りの時間を堪能する。
京くんかぁ……。
初めて会った時は、ただのオタク君なのかと思っていたよなあ……。まあ、間違ってはないか。
でも、まっひーが京くんのことが好きだと知ったとき、驚いた。
え?この子のどこがいいの?って。
そして、愛月ちゃんも……。
たしかに優しい人だなとは思っていた。
でも、なぜまっひーや愛月ちゃんみたいな子が京くんみたいな子を?とどこかで思っていた。
でも。
でも、この林間学校で京くんという人を少しでも知ることができたのではないかと思う。
普段は暇さえあれば読書のオタク。
でも、時には優しいところも見せてくれる。
そして、さっきの肝試しの時のように、ヒーローみたいなところもある。
崖から落ちた時、落ちるのが普通に考えて私が下だと判断した京くんは私の頭の部分を包んでくれた。
森木京という1人の少年について、少し分かった気がした。
そして、まだ知りたいとも思った。
でも、ここで終わりだよね……。
ゆっくりと流れていた音楽は数分間流れた後、消える。
そう、私の最後のわがままの終了のお知らせだ……。
気持ちの整理をしなければならい。
…………………………………………………うん、
私は京くんの頬にキスをした。
やっぱりダメだ。だって……。
だって、大好きになっちゃったんだもん!
「ありがと。それじゃあね」
私は京くんに背を向け、若干早足で帰る。
顔が真っ赤になっているのが自分でもわかる。
人生初めての恋か……。
初めてなのに、最強のライバルがいっぱいいる相手のことを好きになっちゃったよ。
◆
「え?!き、ききききキスしてるんですけど!」
「なあ、なんで俺とお前が踊る必要あったんだよ」
「まあまあ、後でちゃんと話聞かないとね……」
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