第205話 ヒーロー

怖いよぉ……。


ダメだ……、足が動かないよぉ……。


誰か、助けて……。



私は今何も見えていない。視界が真っ暗になってしまった。



お化け役として最後までやり終えた後、帰ろうとしたした時だった。


私は懐中電灯を落としてしまった。


そして、懐中電灯は光を発しなくなった。


そして、真っ暗になった。


私は助けが来るまで待とうと考えた。


こういう時は変に動くよりも待った方がいいとテレビとかで見たこともある。


うん、正しい。



待ち始めてから数分経った。


ぽつりぽつり……。


どうやら雨が降り出したみたいだった。


ちょうどここは木の下だったので、音が聞こえるだけで、ほとんど濡れていない。


早く雨が止んでくれたらいいのになぁ……。



しかし、雨は弱くなるどころか威力を増していた。


私の服はとうにびしょ濡れになっていた。


私はこの肝試しに微熱の状態で参加していた。


せっかくの肝試し。京くんと楽しみたかった。


でも、私はお化け役。まあ、京くんに可愛いって言われた時はとっても嬉しかったけど、やっぱり隣に歩いていたかった。


寒い……。


だんだん意識も薄くなっていく。



ゴロゴロドカッン!!!


「ひっ!」


雷の音がした。


私が今いるのは木の下……。


これってまずいんじゃ……。


雷は木に落ちやすいと聞いたことがある。


動こうとも思った。でも、体が動かなかった。


それに思った。どこに逃げればいいというのだろう。


ここは森だ。どこに行っても木しかない。


はあ、私はここで死んじゃうのか……。


ドカッン!


「ひいっ!」


もう何もできない。


私は逃げることを諦め、蹲っていた。


体調が悪くて立つこともできないし、そもそも雷が怖すぎて目を開けることさえできない。


「まひるー…………!」


はあ、とうとう幻聴まで聴こえてきてしまった。


どうすればいいの?この京くんの声に言い返せばいいの?


ばかばかしいよね……。


小学生の頃、ヒーローみたいに京くんが迷子になった私を助けてくれたこともあったけど、そんな何度もあるわけないよね……。


でも!


「京くん!助けてー!」


自分の中にある力を全て使って放った言葉。


私にはしっかりと喋れていてるのかもわからない。


わたはそのまま地面に倒れ……


「ああ、よくがんばったな」


「へ?」


目を開けるとそこには光があった。そして……


そして、京くんがいた。


「大丈夫か?って、んなわけねえか。怖かったな。でも、もう大丈夫だ。昔みたいに俺が助けに来てやったぞ!」


「ゔん、ゔん……」


私はまともに言葉も話せない。


「帰ろっか。ほら、乗れ。そこまで遠くないし、なんとかなるだろ」


「ゔん、ありがど……」



こうして、今私は京くんにおんぶされている。


雷が思いっきり鳴っているのに全く怖くなかった。


「懐かしいね。私は京くんに助けてもらってばかりだね。私は京くんに何もできてないのに……」


京くんはどんな時でも私を見つけてくれて守ってくれる。私の本当のヒーローだ。


「んなことはねえよ。俺だって真昼にはいっぱい感謝してるんだぞ?」


「え?」


私が京くんに……?


そんなの、信じられなかった。


だって、私はいっつも京くんに迷惑ばかりかけていたんだよ?そんなの信じられるわけない。


「俺は真昼がいなかったら、ずっとずっとぼっちだったんだぞ。だってあの時、唯一できた友達はお前だけなんだから。俺なんかと仲良くしてくれてほんとに感謝してるんだぞ」


「そっか……」


ものすごく嬉しかった。


てっきり、私が1人のところを見て嫌々話をしたりしてくれているのかと思っていた。


それが私のことを仲の良い友達だって思っていてくれたんだ。


「それじゃあ、まあ今日助けてもらったお礼って事でなんでも私に命令して良いよ。なんでも」


なんだっていい。私は全て京くんに捧げる。


えっちなことだって緊張はするけど、京くんとなら全く嫌だとは思わない。


「それじゃあひとつだけいいか?」


なんなんだろう。


京くんが私にして欲しいこと。


とてもワクワクしていた。


「うん」


「それじゃあさ、これからも昔みたいにアニメとかの話いっぱいしようぜ」


「うん♪京くん、大好きだよ♪」


やっぱり私は京くんが大好きだ。


「ああ、俺も真昼のこと大好きだぞ」


「ありがと……」



「森木!み、宮下もいるのか?!」


ん?誰かの声がする。先生かな。


私たちを探しに来てくれたんだ。


「助かった……のか。よかっ……た」


京くんは心の底から安心したように一息ついた。


バタンッ!


そして、そのまま地面に倒れてしまった。


安心して力が抜けてしまったのかもしれない。


ありがとね……京くん、大好きだよ。


私も目を閉じた。



再び目を開けたときには2人ともこの数分間の記憶が飛んでいた。





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