第204話 ゴールとスタート

「それじゃあ、そろそろ行こっか」


「そうだな……。悪いが体を起こしてくれないか」


目の前の絶景を見れなくなると思うと、若干悲しさがでてきた。


いや、5分だけでも拝めただけラッキーだと思うべきだろ!


一ノ瀬は俺の体を起こしてしてくれた。


そして、俺を立たせてくれた。


足に力が入らなくて、フラフラする。


「どう?歩けそう?……って無理そう……だね」


「悪いな。肩を貸してくれると助かる。迷惑かけちゃったな。これは帰ったらなんか奢らないといけないな」


「いやいや、逆だよ。私が京くんにお礼をしないといけない立場だよ」


まだ体は全然回復してないからなのか、一ノ瀬の声も若干聞き取りづらい。


ぽつりぽつり……。


きっと雨が降ってきたのかもしれないな。


「雨も降り出したし、なるべく早く帰った方が良さそうだね。歩いて行くよ。ゆっくりでいいからね。道は私に任せてくれていいからね」


「ああ、任せた」


俺は一ノ瀬の肩を借りながらゆっくり歩いて行く。


雨の音がだんだん強くなってきた。


「京くんって喋ってても辛くない?」


「ああ」


数分前は喋るのもかなりしんどかったが、今は全然普通に喋れる。おっぱいパワーなのかも。


でも、人の話を正しく聞けるかわからない。若干聞きづらいし。


「そっか、じゃあ着くまで喋ろっか」


「ああ」


「うーん、そうだなー、じゃあ私が京くんにあげるお礼についてでいっか」


「ああ、なんでもいいよ」


「京くんは何がいい?今回だけ、何でもいいよ。ちょっぴりえっちなことでも……。今回だけ、やらせて、あげよっか?」


「ああ、じゃあそれで」


ゴロゴロドカッン!!


どうやら、近くで雷が落ちたのかもしれないな。


うまく聞き取れなかったけど、どうせ好きなラノベを買ってあげるとかそんな感じだろ。


「えっ?!ほ、ほんとに?」


「ああ、買うのは一つでいいからな」


お礼程度なら一冊で十分だろ。


「そ、そ、そそそそっか。わ、私ってそこまでそういうの詳しくないんだけど、どんな感じにすればいいのかな?」


そうだよな。一ノ瀬ってそこまでラノベとか詳しくないだろうな。


「そうだなぁ。今欲しいなって言ったら、なんかビビっとくる感じで激しいやつがいいかな。あ、それにできれば俺の見たことないやつがいいかな」


最近なんか強烈なバトルもの読んでないしな。


それに、一度読んだことあるやつはちょっと反応に困っちゃうしな。


まあ、俺の本棚もあるし、きっと大丈夫だろ。


「は、激しい……」


「だ、大丈夫か?!そこまで考えなくても、俺は全然どんなやつでもいいからさ」


一ノ瀬が突然体の力が抜けたのか、2人とも倒れそうになった。


「そ、そうだよね。うん、わかった。任せてよ」


「お、おう、ほんとに大丈夫か?」


かなり心配だが、まあ、どんな本をプレゼントしてくれたとしても喜ばないとな。たくさん考えてくれそうだし。


「あっ!京くん京くん!あっちに明かりがあるよ!」


「マジか……!助かったんだなぁ」


「やったね。ほら、もう少しだよ。頑張ろう」


「お、おう」


助かった……のか。


奇跡だな。



そして、俺たちはとうとうスタート地点に着くことができた。


「京と一ノ瀬ちゃんだ!」


そんな声が遠くから聞こえた。この呼び方をするってことは、郷田だな。


足音が聞こえる。誰か近づいてきたのかな。


「森木どうしたんだその格好。何かあったのか?」


「まあ、そんな感じです」


軽く返した。


軽く自分の服を見ると、思いっきり破れていた。


「まあ、よかった。あとは、宮下だな」


「え?真昼がどうかしたんですか?!」


「ああ、今宮下だけ帰ってきていないんだ」


っっっっっ!!!!!!!!!!!


「来未!スマホ借りてくぞ!」


俺は一ノ瀬の持っていたスマホを奪うようにして再び森の中へと走って行った。



何故だろう……。


さっきまで体が全く動かなかったのに、今は動く。


雷の音が轟く。


これじゃ、真昼が動かなくても無理はない。


俺は必死に真昼を呼びながら探した。

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