第201話 事件発生!

「じょ、冗談だろ?流石に二回もおんなじようなことされたら俺だってちょっとはイラつくぞ?ほら、俺が怒らない内に早くつけてくれ」


俺は姿の見えない一ノ瀬に向かって言う。


しかし、一ノ瀬の様子がおかしい。まさか、本当だとでも言うのか?!いや、そんなはずありえないだろ。


「いや、さっきと同じようなことで信じられないかもしれないけど、今回は本当に懐中電灯が壊れちゃったのかもしれない。そこまで疑うなら、自分で試してみたいらいいじゃん。ほら」


おそらく一ノ瀬は懐中電灯を差し出してくれたんだろう。


しかし、この真っ暗闇。一ノ瀬の姿一つ見えない。


なので、俺は手を広げて一ノ瀬の持つ懐中電灯を探す。


俺の右手に何かが触れた。


しかし、懐中電灯というよりかは少し柔らかい。


あれ?これってまずいもの触ってしまったんじゃ……。それに気づいた時には遅かった。


「ちょっ、どこ触ってるの?!」


「えっ?!いや、俺もどこ触ってしまったのかはわからないけど、ごめん、多分来未の身体に触れちゃった」


一応身体ではない可能性が0.000001%ぐらいの確率であるかもしれないので(自分ではなんとなく気づいているが、わずかな希望だ)『多分』という言葉をつけておいた。


しかし、帰ってきた言葉は、


「はい、私にお尻にお触れになられましたよ、京くん?」


「大変申し訳ございませんでしたー!決して、決っしてわざとではございません!」


俺は必死に謝罪をする。


ないと思うが、もし一ノ瀬がこのことをクラスの男どもに言ってみろ。俺数分後には死んでるよ?


「えっと、私のお尻を触ったってことは、後ろにいるのか、よっと。はい、さっきと同じ向きに手を出して。次は私のお尻をではなく懐中電灯があるから」


あ、これ数日は逆らえ無さそうだな。


俺はさっきと同じ向きに手を出す。


さっきのことがあったので、もしかしたらまた……なんてことを考えそうになってなんとか堪えた。


その結果、一ノ瀬の手に触れつつ、懐中電灯の受け取りに成功した俺は、すぐさま懐中電灯のスイッチをオンにする。


…………。


うそ……だろ……。


完全に壊れていた。


オンオフを繰り返すが、豆電球一つ分の光さえ発しない。


終わった。


これはあれだ。朝になるまで絶対に迷子のままパターンのやつだ。


「どうしよっか……。ひとまず、私たち2人が離れ離れになっちゃうのはちょっと危険だよね?」


「まあそうだな。1人でいるのと2人でいるのでは安心感も全然違うしな」


「そっか……。うん、そうだよね」


そう言った後、俺の右手には温もりを感じた。


「えっ?!これは?また俺をからかおうとしてるのか?!」


とっさに出てきたのは、この状況でも俺をからかってくる一ノ瀬だった。あり得なくはないな。


「いや、さすがにこの状況ではしないでしょ。声だけで離れないようにするのは危険だと思うんだよね。だから、手繋いだんだよ。おっと、お化けが得意な京くんにはしては一石二鳥かな?」


おい、なんでお化けが得意で一石二鳥だよ!おかしいだろ!


まあ、一ノ瀬の脳味噌の中で得意が苦手に変換されているのは分かっているので黙っていた。


「どうする?このままここにいても何もないし、ちょっと歩く?肝試し程度ならそこまで距離はないだろうし、もしかしたら歩いてる内に出口に到着するかもしれないし」


「そうだな。ひとまずちょっと歩くか」


こうして、迷子の2人はしっかりと手を握り合って歩くのだった。


俺は気づいてしまった。


一ノ瀬の手が少し震えていることに。


まあ、口には出さなかったけど。


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