第171話 あれ?面接は?

駅から降りると、俺たちは以前行ったことのあるショッピングモールの中に入った。


なるほど、それなら以前真昼たちと行った時に白雪さんが映画館でバイトしてたのかもな。全く気付いてなかった。


エスカレーターで4階まで上る。


薄暗い中、俺は白雪さんの隣を歩く。


そして、カウンターのような所で止まった。


「店長、この方がバイトの面接を受けに来た森木さんです」


丁寧に店長らしき人に説明してくれる。


店長と呼ばれた人は、年は60歳ぐらいだろうか、口元には髭もはやしていて、なんか、小さなカフェのオーナーをやってそうな人だった。


「よ、よろしくお願いします。森木京です」


お辞儀をしながらしっかりと自己紹介をする。


「おお、君が森木くんか。小春ちゃんから話は聞いてるよ。ささ、中に入って」


あれ?俺ってバイトの面接に来たんだよね?


なんか、親戚の家に行った時みたいな歓迎の仕方なんだけど。


疑問は持ちつつも顔には出さないようにして、素直に中に入る。


休憩部屋のようなものだろうか。そこまで広くなく、落ち着いた感じの部屋だった。


「それじゃあ、そこに座ってくれるかな」


「は、はい。失礼します」


ちょっとスマホで調べた所、こういった面接の前から見られているらしい。よし、できてるはず。


俺はリュックを床に置き、リュクの中から履歴書を取り出し、店長さんに渡す。


「はい、森木、京くんだね。それではよろしくお願いします」


「はい、よろしくお願いします」


よし、面接開始だ。これまでは自分の中ではほぼ完璧なんじゃないかと思う。


でも、ここからが本番。


この時のために、軽く言うことは考えてきた。


まあ、まずは定番の『どうしてここにしたんですか?』だ。


ここで、模範解答みたいなのを出すのは俺からすれば、ただの調べまくったやつとしか思えない。


だから、俺はしっかりした言葉ではなく、高校一年生らしい面接、且つここでバイトしたいということを伝えるように考えておいた。


俺って天才なのかもしれないな。


俺は身構えた。さあ、こい!


「まずさ、ちょっと聞きたいんだけど、森木くんって小春ちゃんをナンパから守ったの?」


ん?こんな話をされるなんて聞いたことがないぞ?


あ、店長が気を利かせて緊張をほぐしてくれているのかも。


「は、はい」


俺は素直に答える。嘘はダメだからな。


「そっか、じゃあ、森木くんは小春ちゃんの彼氏?それともまだ友達?小春ちゃんって、友達の話とかしてなかったからちょっと心配してたんだよね。で、どっちなの?」


あれ?これって本当に面接なのか?


「いや、どうなんでしょう。助けた時が初対面ですから。友達と言えるかどうか……。知り合いってとこかもしれません」


今日の朝の出来事がなければ、はっきりと友達だと言えるが、今日一日避けられてるし、ちょっと友達とは言いづらい。


「そっかそっか、まあ、これからも小春ちゃんとは仲良くしてあげてね」


「は、はい……」


なんだこの話?お隣さんも同じような話をしてたな。ってか、さっさと面接始めろよ!


「よし、じゃあそろそろ内容に入っていくけど、いつ頃から始めようと思ってる?もうちょっとしたら夏休みだし、そこら辺からでもいいかな?」


「は、はい……」


え?面接してないのに、いつからとか聞かれるの?!全く予定してたのと違うんだけど!


「オッケー。で、週3ぐらいで行ける?うちも、そこまで人が多くないから、最低でもこれぐらい働いて欲しいんだけど」


「は、はい。大丈夫です。あ、あの……、面接の方は……?」


ちょっと意味が分からなくなってきて、つい聞いてしまった。後悔したのは言った後だった。


やってしまったー。


しかし、店長さんを見ると、何やら首を傾げる。


『お前何言っての?』って言われてる気がする。


「ん?面接?ああ、合格だよ」


え?ご、合格?!そんなあっさり?てか、面接してなくない?!


「君は小春ちゃんを助けたって話は聞いてるし、そんな子を落とす必要もないしね。それに、小春ちゃんから森木さんはいい人ですって何度も脅されちゃったからねー。うちの看板娘が言うんだから間違いないはずだよ」


あ、それ今聞いたら違う答えが返ってくるかもしれません。すいません。わたしは変態です。


この後、軽く今後の予定なども話してその日は終わった。


くそっ、必死にいうこと考えた時間を返せ!

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