第167話 一番であり続ける理由
「えっと……、まずは、生活のことなんですけど」
「はい……?」
白雪さんは、まだ俺があのスケジュール表を見ていないと思っているのか、意味がわからないとでも言いたいような顔でこっちを見る。
「あの冷蔵庫に貼ってあった一日のスケジュール表みたいなやつあるじゃないですか?」
「はい……」
ようやく、理解したようだ。現に今日、昨日?体調が悪くなってるため言い逃れできないことが理解したようだ。
それなら早い。
つい数ヶ月前までクソみたいな生活を送っていた俺が言うのは少し腰が引けるが仕方がない。あんな生活をずっと続けていたら、もっと重症になってしまうかもしれないから。
「流石に毎日3時間半の睡眠は無理があると思うんですよね。現に今日体調崩したわけですし」
「…………」
「最低でも5時間程度は寝ないと、今日みたいなことが続くと思うんです。今日はたまたま俺がいたからよかったですけど。今までは大丈夫だったんですか?」
「…………」
沈黙……。さらにゆっくりと俯いた。これは肯定と考えていいだろう。
「だから、12時ごろには寝た方がいいと思います。
勉強をするのは悪いことだとは言いません。むしろ尊敬します。でも、やり過ぎは逆効果です」
「で、でも……」
小さく呟き、改めてこっちを見て言った。
「でも、それは仕方ないです。私はこの学校で一番でなくてはいけないんです!」
次に発したのは、さっきのとは違って、しっかりと芯が通ってるように見えた。今ではしっかりとこっちを見てるし。
「どうしてか、聞いてもいいですか……?」
これは純粋な疑問だった。
白雪さんの性格からして、単にずっと一番がいい。みんなから褒められたい。そんな理由ではないことは理解している。それなら、どう言った理由があるのか、純粋に気になってしまった。
「はい、少し長くなってしまいますが構いませんか?」
俺は頷く。
「まず、この学校の特別推薦枠についてご存知でしょうか?」
「ん?いや、知らないけど……」
俺が初めて聞いた『特別推薦枠』と言う言葉。名前からして凄そうだな。
「この制度は、この学校が特別に設けているものなんですけど、学校で特別に優秀な生徒は○◇大学への推薦枠が与えられるんです。まあ、この高校は来年で創立60年になりますけど、その推薦枠を得られた生徒は片手で数えられる程度しかいないらしくて」
「それで、ずっと一位ならいけるかも、と?」
「はい……」
やはり真面目だ。入学しても浮かれることなく、先のことだけを考えて行動するなんて凄すぎるだろ。
「でも、どうしてそこまで○◇大学にこだわるんですか?○◇大学にこだわる理由とかあるんですか?」
「はい、私には尊敬する母親がいます。母は中学校の国語教師をしていました。そして、母は女手一つで私たちを育ててくれました。しかし、病気で亡くなってしまいました。その病気で入院している時、私がお見舞いに来ていた時でした。当時私と同じくらいで制服をきた生徒で病室がいっぱいになるほど集まりました。おそらく母の教え子なのでしょう。そんな生徒たちとにこやかに笑い話などしていました。とても楽しそうに見えました。そして、母の容態が回復することはなく、最後に目を閉じる前に母は私に言いました。『ちゃんと楽しんで行きなよ』と。その時私は決めました。私は母の様な教師になりたいと」
白雪さんは言い終え、改めてこっちを見る。
そして、最後に一言。
「だから、勉強時間を減らすつもりはありません」
俺は彼女から熱意のこもった話をもらった。
なら、俺にすることは決まっている。まあ、これを切り出すのは決めてたんだけどな。
「わかりました。それなら、お話があります」
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