第151話 白雪さん

「昨日は本当にありがとうございました。なんとお礼をすればいいのか」


カフェに着いても、ひたすら感謝されていた。


カフェの店員さんたちもなんか変な目で見てくるんですけど?!


「もう大丈夫ですって。頭あげてください。俺はそんな大したことしてませんし」


どちらかと言われたら俺も美人に抱きつかれたわけだし……、俺も感謝したらいいのか?


「いえ、そんなことありません。私をあの男性たちから守っていただき、さらに私の妹まで探してもらって。本当にありがとうございました。ぜひ、好きなものを頼んでください。なんでもご馳走します」


そう言って彼女はメニューを見せてくる。


「いえ、そんなに気使わなくても大丈夫ですよ?」


俺はメニューは受け取らずに言う。


「いえ、どうか何か頼んでください」


そう言って強引にメニューを押し付けてくる。


なるほど。借りを作りたくない派の人なのかな。


それなら、無理に断るのも失礼か。


俺は彼女からメニューを受け取り、適当に一番安いパフェを頼んだ。



ここで俺は気付いてしまった。


俺はなぜ彼女と喫茶店なんかにきているのだろうか?


パフェを奢られるためだけなのか?


考えても何も思い浮かばない。


結果的にひたすら沈黙が続いてしまう。


彼女を助けたのが俺みたいなインキャではなかったら、こんな沈黙になることはなかっただろう。


改めて自分の無能さを思い知らされた。


「あ、あの……」


白雪さんはぼそっと小さな声で話しかけてきた。


「はい?」


俺が聞き返すと、彼女はなぜかもじもじとし出した。ん?なぜだ?!意味がわからない。


「あの、さっき森木さんを見つけたと妹にラインを送ったんですけど、そしたら『私も会いたい』と送ってきまして……。もし良ければまた後日でいいので会っていただけますでしょうか?」


「はい、それは全然大丈夫ですよ」


小二でスマホ持ってるってすごいな!俺持ったの中学入ってからだぞ?!


「ありがとうございます。それではまたいける日にでもお願いします」


また感謝された。


「はい、俺はいつも暇なんでいつでも言ってきてください。99%いけると思うんで。特に今日も今からこれといってすることもないですしね」


俺が笑いながら言う。


「すいません。私は今からバイトがありまして」


彼女には正反対のセリフが聞こえた。


「バイト?してるんですか?」


「はい、実は私、両親を失ってしまって、妹と2人でマンションで暮らしてるんです。親の貯金があったのでここ数年は大丈夫だったんですけど、そろそろ無くなってきましたし、私も高校生になって働ける歳なので私が稼がないとでして……。あっ、すいません勝手にこんなこと話して」


「いえ、こちらこそすいません。でも、そんな大事なお金なのに奢ってもらってすいません……」


やっぱり奢ってもらうのは断っておくべきだった。


高校生一人のバイトで稼げるお金なんてかなり限られているはずだ。


そんな彼女からパフェを奢ってもらった。


彼女からしたらそんなお金も大金だったはずだ。


ものすごく心が苦しくなった。


「全然大丈夫ですから。気にしないでください」


そう言われてしまったら仕方がない。俺はパフェをいただいた。


「バイトってなんのバイトしてるんですか?俺もバイトしようかと考えてて。バイトってどんなのがあるかなと思って。あ、言いたくなかったら全然言わなくても大丈夫ですから」


流石に一方的に聞くとプライバシーもあるので、強制ではないということも伝えた。


すると、全く思っていなかった答えが返ってきた。


「一応映画館で働いてます。もしよかったら店長に森木さんのこと紹介しましょうか?スタッフ募集の張り紙もありましたし、多分雇ってくれると思いますよ」


「え?ほ、ほんとですか?よろしくお願いします」


まだバイトすると決めていたわけでもないが、この機会を逃したらまず面接したところで不採用にされるだろう。


ここは一つ甘えさせてもらうことにした。


「では、私の方から言っておきますね。それでは」


「はい、よろしくお願いします。バイト頑張ってください」


彼女は駅の方へ歩いて行った。


俺は反対側、自宅に向かって歩き出した。


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