第143話 奇跡の一球

俺はスタッフさんからボールを受け取る。


「彼氏さん、彼女さんにかっこいいところ見せてあげてくださいねー」


なんか、こういうやつって俺めちゃくちゃ嫌いなんだよな。


どうせこいつの頭の中では、『なんでこんな美人な子とクソインキャが一緒に遊園地に来ているんだ?!どうせ、いとことかそんな関係なんだろうな。この子がかわいそうだわ、こんなクソインキャと一緒とか』とか思ってるんだろうな。


ほんと嫌いだ、こんなやつは。


「は、はあ」


俺は受け取った三球のボールのうち、二球は机の上にあるカゴに入れる。


「彼氏さん、それでは一球目!張り切っていきましょう!」


くっ、このやろう……。めちゃくちゃ煽ってくるじゃねえか。ぬいぐるみにはたいして興味はないけど、ここでクリアできなかったら、こいつに負けたみたいで嫌だな。


俺は大きく振りかぶり、一球目を投げた。


「…………」


「…………」


「いやー、初めはみんなこんな感じですよー」


一級目はまさかの大暴投。真昼といい勝負かもしれない。


てか、そんなことより、このスタッフ、俺が大暴投した後ニヤってしたよな?!絶対バカにしたよな?!くそー!つ、次こそは決めてやるんだ!


「はい!それでは2球目!頑張って!」


こいつ絶対俺がミスること期待してるだろ?!


絶対に決めてみせる!


今度は少し力は抑えて、コントロール重視でやることにした。まあ、野球部のピッチャーみたいに自由に投げれるわけないけど。くそ、野球部に入っておけばよかった!


俺は投げる。


ボールは俺の狙った通りにまっすぐ進む。


お、これ、倒せるんじゃね?!


見事にボールはピンにあたり、ピンは倒れる。


しかし、土台の上にピンが一本だけ残ってしまった。


スタッフ、少しほっとした様子を見せる。


おい!お前は喜んじゃダメだろが!


「いやー、惜しかった!これ次はいけますよ!」


さっきまでの安心したかのような顔とは違って、また元気なスタッフに戻っていた。


うう……。ヨウキャ……こわい……。


やはり、力は必要か。


俺は、一度肩を回す。おい!これじゃ真昼と同じじゃねえか!


「京くん、頑張って」


隣で応援してくれる真昼。うん、めっちゃ嬉しい!


てか、真昼はそんなにあのぬいぐるみが欲しいのかな……。何がいいんだろうか。謎だ。


「さーて、最後の一球!いっきましょー!」


だんだんテンションが高くなっていくスタッフ。


こいつ、ほんとムカつくわー!


俺は力いっぱい投げた。


「「あー………おお!お!うおおお!!」」


「あー……おお!え……うそ……だろ……」


俺の投げたボールは、方向は正しかった。うん、まっすぐ投げることができた。


しかし、角度が明らかに違った。明らかに上に投げてしまった。


その瞬間、俺、真昼、スタッフの3人は完全に失敗だと思った。


しかし、奇跡が起きてしまった。


ピンが置かれた土台から少し離れた場所には壁があった。


俺は力いっぱい投げたので、ボールはその壁で見事反射。


そして、そのボールが落ちる先は、ピンの三角形のど真ん中。


その中心に落ちた結果、ピンはそれぞれバラバラの方向に飛んで行く。


全部落ちてしまった。


スタッフは一瞬言葉を失っていたが、落ちたことに気付いて、慌てて鐘を鳴らした。


「お、おめでとーございます!いやー、すごい奇跡が起きましたねー!」


こいつ、さっき「うそ……だろ……」って言ってたよな?!俺ちゃんと聞いてたからな?!


「京くん!すごいね!」


「お、おう!奇跡が起きたな」


2人でくすくす笑う。


「はい、景品でーす」


「あ、ど、どうも」


こいつ、明らかにテンション下がってる。


俺は受け取ると、真昼の方に差し出す。


「これ、欲しかったんだろ?やるよ」


「え、でも、これ、京くんがとったんじゃ?」


いや、俺こんなの1ミリも欲しくないんですけど。


多分家に持って帰っても、すぐにゴミ箱行き確定なんですけど。


なんて言うわけにもいかないので、少し考えて言った。


「それじゃあ、これは、きょ、今日のデートのお土産ってことで」


俺は押し付けるように真昼にぬいぐるみを持たせる。


「ほ、ほんと……?」


「お、おう」


「ありがと。これ、一生大切にするね」


「お、おう」



なんか、隣で「で、デート……だと?!」と聞こえたが、知らんぷりした。


すこし、こいつにも勝った気分がした。

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