第142話 ぬいぐるみ

「あ、京くん、あそこ行ってみようよ」


「お、おう」


真昼に連れられて来たのは、アトラクションではなかった。


そこは遊園地にはよくある、『ゲームしてクリアできたらぬいぐるみをプレゼント!』みたいなところだ。


「ねえねえ京くん、あのぬいぐるみとっても可愛くない?」


目がキラキラしてる。


俺はそのぬいぐるみを見る。


正直に言うと、いまいち分からん。


だって真昼の言っているぬいぐるみって、どこにでもありそうなクマのぬいぐるみで、ちょっと頭に飾りをつけているだけだ。


これが……いいのか?


まあ、人それぞれだしな。ここで俺が否定しても、真昼の機嫌が悪くなるだけだしな。


「ほ、ほんとだな。めっちゃ可愛いな」


また嘘をついてしまった。でも、これは良い嘘だよな?うん、俺は正しい。


「私あれやってみようかな」


「おお、いいぞ。行くか」


こうして、俺たちはそこに向かった。


俺たちが行くと、先着が1組いた。小学1年生ぐらいの女の子とその両親。


そうだよね。このぬいぐるみって、この女の子ぐらいの子が欲しがるようなものだよな。


うーん、真昼は見た目は高校生、いや、大学生ぐらいだけど、中身は小学生なんだろうな。


俺は女の子がやっているゲームを見た。



ゲームをする人はボールを三球もらう。


そして、投げる人の5メートルほど先には、ボーリングのピンのようなものが土台の上に3本三角形で立っている。


それを一気に全部土台から落とせばクリア。


そしたら、ぬいぐるみゲット。



といったところかな。


意外と土台が広いからなかなか落ちにくい。


女の子もボールをピンに当てることはできても、全部土台から落とすのには苦労している。


結局、女の子は落とすことができなかった。


しょんぼりした様子で帰って行った。


帰り際に聞こえた話では、『後であのぬいぐるみ買ってあげるからな』と女の子のお父さんが言っていた。


親ってしんどいな。いつもお疲れ様です。


「はーい、次はそこのカップルかな」


スタッフさんが俺たちを呼んだ。


か、か、カップルって……。


「はい!京くん行こ!」


「お、おう」


突然カップルって言われてびっくりしたー。


やっぱり俺たちってそんなふうに見えてるのかな。


そんなことも考えながら、スタッフさんの説明を聞く。俺の考えていたルールと一緒だ。


「よーし、やるぞー」


真昼はやる気満々で、右肩を回している。そんなことしても、この距離じゃたいして変わらないと思うんですけど。


「お、まずは彼女さんからかな。はい、じゃあ頑張って」


真昼はボールを受け取る。


さて、どうなるのかな。



結果はクソだった。


三球投げたのに、ピンに当たったのが一回だけ。


残りの二球は大暴投。うん、向いてないのかな。


「それじゃあ……」


違うとこ行くかと言おうとした時だ。俺に被せてスタッフさんが言ってきた。


「お、次は彼氏くんかな。彼女にかっこいいとこ見せなくちゃね」


「……え」


「おお!京くん頑張れー!」


なんか真昼もその気なんですけどー。


「じゃ、じゃあ……」


くそ、はめられた。あのスタッフなかなかやるな。


こうして、なぜか、俺までやることになった。

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