第133話 やめて!

一回状況考えましょうか。


えっと……、俺が彼女を助けると言った。


彼女は俺に抱きついてきた。


うん、普通におかしい。


まあ、全然嫌ってわけじゃないからな。むしろ最高です。感謝申し上げたいほどに。


「えっと……」


さすがにこんなところを彼氏さんに見られたら100%殺される。


「ごめんなさい……」


彼女に触れている俺には分かる。震えていた。


まあ、殴られたら殴られた時かな。綺麗な女性と抱き合えるんだから殴られても仕方ない。


俺は彼女の背に手を回した。


「ちっ、彼氏連れかよ」


「でも、なんであんなパッとしないやつなんだよ」


「知るかよ、物好きもいるってことだろ」


彼女をナンパしていた奴は彼氏がいたってことで諦めてどこかへ行った。パッとしなくて悪かったな!


「行きましたよ」


俺は優しく声をかけた。


「もう少し……。もう少しだけこのままにしてても、いいですか」


「はあ?ま、まあ、全然いいですけど」


脊椎反射でおもいっきり「はあ?」って言ってしまった。


でも、俺間違ってる?


だって俺彼氏じゃないよ。そんな人に抱きついていて良いの?そろそろ彼氏さん帰ってくると思うんだけど。


それにここ道の真ん中。


その後数十秒間、とても美人な女性とパッとしない俺が抱き合った。


匂いとか胸の感触とか堪能させていただきました。なんか、最近変態度が増している気がするのは気のせいか?


「あ!すいません!」


彼女は突然自分のしていたことに気づいたのか、かなりの勢いで俺から離れた。なんか、そんな感じで離れられると嫌われてるみたいだ。うう、悲しい。


「い、いえ」


「ひとまず、ベンチに座りますか?」


「わ、分かりました」


さすがに断れない。真昼も待ってるから、出来るだけ早く帰りたいんだけどな。


真昼に一応ライン送っとくか。


『ちょっと長くなるかも』


真昼はスマホをいじっていたんだろう。俺が送ってすぐに既読がつき、ウサギが了解って敬礼しているスタンプが送られてきた。


よし、ちゃっちゃと終わらして、真昼の元に帰ろう。


「…………」


「…………」


まさかの沈黙。えっ、これって俺から話しかけないとダメなの?!


「えっと……、落ち着きましたか?」


「は、はい」


「お茶ですけど、もしよかったら……」


俺は手に持っていたお茶を彼女に渡す。


「す、すいません。お金支払いますね。いくらでしたか?」


「いえ、大丈夫ですよ。僕も間違って2本も買ってしまって。だから、できれば飲んでいただけると」


俺はリンゴジュースを見せながら言った。こうでも言わないと受け取ってもらえなさそうだし。


「すいません気を使わせてしまって……」


あ、普通にバレてた。


「いえ、ところで、一人でここに来たんですか?」


あれ?俺ナンパしてるみたいじゃない?!助けておいてナンパしてる奴みたいな?


しかし、さっき男に向けていたような感じと違って、普通に俺に話してくれた。


「いえ、妹と来ていたんですけど、ちょっとはぐれてしまって……」


「そうなんですか」


妹かい!さっきまでの葛藤はなんだったんだ!でも、どうしよう。真昼の元に帰るのはもう少し後になるかもしれない。


だって、ここで「そうですか、頑張ってください。それじゃ」……。うん、酷すぎる。


「僕も手伝いますよ、その妹さん探し」


俺が言うと、彼女は俺の手を握ってきた。え、なになに?!やめて!いちいち反応しちゃうから。


「ほんとですか!ありがとうございます!」


妹探しか……。さっさと見つけないとな。

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