第132話 天使と悪魔

さて、どうするべきなのでしょうか。


さっき少し彼女の方を向いてしまった自分を今すぐにでも殴ってやりたい。まあ、痛いからそんなことしないけど。


『助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて』


さて、どうしましょうか。


彼女からの熱い視線は終わることがないんですよね……。


ポワン!


突然俺の頭上に、10センチほどの女の子?が現れた。その子の背中には白い翼が付いていた。あ、これ天使ちゃんだ!


その子は初対面である俺に話し始めた。


「どうも、ワタクシ天使と申します。森木さん、あなたにはナンパされている彼女を救うという使命があります」


周りの反応を見るに、誰にも見えていない。


これ、口に出して話しちゃうと、恥かくパターンのやつね。脳の葛藤の時に出てくるやつ。なるほど、それなら俺は頭の中で会話すればいいんだな。


『そうなのかな……』


「はい、そうです。彼女はあなたに助けてと言っているのです。それなのに、あなたはそれを無視して良いわけがありますか?いいえ、そんな権利はありません」


『え、義務なの?!』


まあ、確かにそうだよな。確かにこの状況で助けないのは俺悪人すぎるよな。


ポワン!


なんだ次は?!と思ってみたら、2人目の小人。うん、見るからに悪魔の方ですね。


「どうも〜♪ワタクシが天使ちゃんだよ?」


『いや、さすがに俺でも分かるぞ、お前が悪魔ってことぐらい』


うん、一目瞭然。だって手に『悪魔です!』って主張する感じのやつ持ってるし。それに翼の色が……。さすがに、無理があるね。


「くっ、さすがに無理があったか。って、そんなことはどうだって良いの!考えてみなよ、君はあの子と喋ったことあるの?」


『いや、ないけど』


「だよね〜♪だからさ、そんな子助ける必要なんてどこにもないじゃん」


『た、たしかに……』


さっきから思ってたけど、この悪魔はなんかギャルみたいだな。うん、悪魔っぽい。


「いや、待ってください。悪魔の言うことなんて聞く必要はありません。先ほども言ったように、あなたには彼女を助ける義務があるんです」


ピンチに思ったのか、天使ちゃんがすぐさま口を開く。


「じゃあ、もし、助けたとしてさ」


俺と天使ちゃんは悪魔の方を見る。悪魔は余裕な表情だ。


「そして、まあ、助けた後適当に話したりするだろ?」


俺と天使ちゃんは頷く。


「しかし、さっき彼女は『1人じゃないです』って言っていた!」


『あ……彼氏……』


俺が言うと、悪魔はこれでもかと言う感じに、指を鳴らそうとする。鳴らなかった。うん、かわいい。


でも、納得できる。あんなにも美人なのだ。彼氏の1人や2人、いたって不思議ではない。いや、間違いなくいるな。


「そう!で、その彼氏だったとしましょう。帰ってきたら俺の彼女と見知らぬインキャみたいなやつが喋っている。さて、彼氏はどう思う?」


『ナンパされてる……。てか、しらこくインキャ言うな!』


「そう!その通り!そして君はきっと殴られる運命にあ〜る。それなら、君はあの子を助ける必要なんてないんだよ!」


こいつ、完全にインキャのくだり無視しやがった。殴ってやりたいがどうせ当たらないんだろう。


『た、たしかに……。そうだよな!うん、絶対そうだ!』


俺は彼女を無視することに決めた。


俺は一歩踏み出す。


「あなたは悪人になりたいのですか?」


『ぐっ……』


「彼女は紛れもなくあなたに!助けを求めたのです。それで彼女を助けないというのは悪人になりたいと言っているのと同じですよ」


「…………」


「もし、彼氏がいたとしても今は関係ありません。彼女は今あなたに助けを求めているんですよ。あなたに……」


確かにそうだ。悪人になりたい人間なんてどこにもいない。


はあ、俺は大きくため息をつく。


やるしかないのか。こういうこと言われたら無視できないんだよね。さっきまで思いっきり無視しようとしてたけど。てへっ♪。うう、きもい。


俺は彼女の方に向かって歩いていく。彼女と目が合った。


どうやら彼女にも俺が助けるということは理解できたらしい。


彼女の顔はとても輝くほど明るくなった。


「ダァ〜リ〜ン♪」


「はあ?!」


彼女はナンパ男から離れて、俺の方へ一直線に走ってきた。え、なんだ?!なんだって?!


「……え……」


俺は完全にフリーズした。


何故って?彼女が俺に抱きついてきたから。

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