第95話 勇者真昼
時計の針がゆっくりと進んでいき、とうとう5時になった。
それと同時にドアが開けられる。
ノックもなしに入ってくるあたり、かなり不機嫌なようだ。
もし、俺がいけない動画見てたらどうすんだよー!
なんて言えるわけもなく、俺は大人しく正座をしていた。
そして、そんな俺を見た2人は黙って俺の前に座った。
1分ほど沈黙の時間が続く。
めちゃくちゃ気まずい……。これは、俺から話しかけないといけないのか?分からん。全く分からないんですけど、どうしたらいいんでしょうか。
「京くん、昨日あったことを話してください」
沈黙の中、口を開いたのは一ノ瀬だった。
いや、質問怖すぎなんですけど。
俺はこの恐ろしい一ノ瀬の姿に、大人しく話すことにした。
実は郷田ではなく、村瀬の家に行ったこと。そして、泊まったこと。勉強会をしていたことを。
さすがに、告白されたことについては黙っておいた。俺自身もそんなに広げたくないし、村瀬が俺に告白したことを他の人に教えて村瀬が喜ぶはずがない。
2人の威圧にも恐れ……てはいるが、頑張って押さえ込み、黙っておくことを選んだ。
「なるほど……。それで最近はちょくちょく夕食を食べなかったと。私たちを放って置いて村瀬さんと遊んでいたと」
「いや、それは違う。俺はあー、村瀬と2人で遊んでたわけじゃない。ちょっとした縁があって、そいつらとちょっと絡むようになっただけだ。それで、村瀬が数学と理科が苦手で教えて欲しいって言われたから教えてたんだ」
ちょっとかっこよく『縁』なんて言っちゃったけど、実際にはただ『パシリ』にされただけなんだよなー。まぁ、同じようなもんだろ。それに、「あーちゃん」っていうとこだった。危なっ。
俺はここでできる限り罪を軽くする努力した。
「それでも、女の子たちとお泊まり会したんでしょ?」
「い、いや……、ちょっとしたトラブルがあって、村瀬の家に泊まったのは俺だけなんだ……」
「ねぇまっひー、京くんどう思う?」
「死刑で」
「いや、怖すぎますから。真昼さん怖すぎますから。死刑は許してくださいよー」
つい、ツッコんでしまった。俺、一応被告人なんだよな。
「まぁ、死刑はなかったとしても罪は大きい。村瀬さんを襲ったりしてないの?なんか、いかがわしいこととかしてないの?」
いかがわしいこととか全く知らなそうな真昼が言ったので少し驚いた。
「……してない」
『いかがわしいこと』ッテ、『生殖』ニカカワルコトデスヨネ?ソレナラ、オフロデノコトトカハチガイマスヨネ?
一緒に寝ていたのは流石にまずいかもしれないが。
それに、『襲った』って、俺は襲われた側だと思うんですけど?!
真昼は「んーー」と悩んでいた。そして、ようやく口を開いた。
「まぁ、私は京くんのことを信じるよ。でも、今日村瀬さん、京くんのこと『けーちゃん』って呼んでなかった?」
俺は『けーちゃん』という言葉に、肩がビクリと動いてしまった。
俺のそんなわずかな動きに反応して、一ノ瀬は話した。
「やっぱりなんかあったっぽいね。京くんって、今好きな人とかいるの?」
まさかの、好きな人を聞かれた。
ここで俺はふと疑問に思った。
あれ?俺って、誰のことが好きなんだろう?好きってどうなったら好きなんだ?
「分からない。最近、『好き』って、感情がいまいちわからないだ」
以前までは、一ノ瀬が完璧に好きだった。でも、今は……わからない。
その原因は分かっている。村瀬だろう。
人生で初めて正面から告白されて、混乱しているんだろう。
「なるほどね……。まっひー?」
「うん……。分かった……」
何やら2人で話しているが、俺には全く話の内容がわからない。
2人の会話の後、一ノ瀬は突然トイレに行くと言って部屋を出た。
この部屋には、俺と真昼の2人……。沈黙が続くと思っていた。
「け、京くん!」
「は、はいっ!」
やや緊張している真昼。なんか、小学生みたいに元気よく返事してしまった。
何故だかわからないが、ものすごく緊張している真昼が大きく深呼吸をしてから話し始めた。
「あ、あのね。今の私の好きな人なんだけど……」
「いや、ちょっと待て。それ俺に言わなくてもいいんじゃないか?俺が知っても得ないんじゃ?」
「ううん。京くんには知っておいて欲しいの。私の好きな人……」
「そ、そうか……。まぁ、真昼がいいなら、全然いいけど」
俺に知って欲しいってどういうことなんだろう……。もしかして、郷田?!それで、俺に橋渡しをしろってこと?!まじかよ?!
「京くん……」
「うん……えっ?」
「私の好きな人、京くんなんだよ。昔っから一度も変わらず、ずっとずっと京くんのことが好きだった。今も大好きだよ」
ん?どういうことだ?俺?告白……されたの?
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