第84話 けーちゃん

「な、なにしてるの?」


やばい、ものすごく心臓の音が聞こえる。


ものすごく速い。ものすごくドキドキしている。


好きな人に、かつて好きだった人との写真を見られるのがものすごく緊張がする。


そう。ここに写っている男の子は私の初恋の人。


3歳ぐらいの時に来た旅行で出会った子。


その子のフルネームは覚えていないけど、たしか、「けーちゃん」って呼んでいた気がする。


けーちゃん、けーちゃん……。もしかして森木っちのこと?!いや、流石にないよね。


そんな運命的な出会いなんて、流石にないよね。


でも、落ち着いて見てみたら、けーちゃんと森木っちってなんとなく似ている気がする。


顔の成り立ちも似てる気がするし、性格も多分似ているような……って、なにしてんの私!無理やりけーちゃんと森木っちを同一人物にしようとしてるだけじゃない。


ほんとバカみたい。そんな運命的なことあるわけ……あるわけないじゃない。ほんとバカみたい。


「あの……」


その声に反応し声の方を向くと、そこには土下座した森木っちの姿があった。


なるほど……。私は2、3分停止していたのか。


「あ、ごめんごめん。ちょっと考え事しちゃっててさ。さあ、食べよう食べよう」


私は平静を装って座った。でも、森木っちはまだ土下座したままだった。


「どうもすみませんでした!」


「えっ?」


「いや、さすがに悪いことをした。勝手に人の写真見るとか非常識すぎるよな。ほんと悪い」


たしかに見られたのは少し恥ずかしかったけど、そんな土下座をされるほどのことでもない。無駄にこういうところ真面目なんだろうね。なんか可愛い。


「ぷっ、そんな土下座なんてしなくてもいいのに。たしかに、ちょっと恥ずかしかったけど、全然怒ってなんかないし」


「ほんとか?」


私が頷くと、森木っちは安心したのか、はぁ、と少し大きく息を吐き、脚を崩した。


そして、私たちは夕食を食べ始めた。


「その写真の子ね。私が3歳の頃に旅行した先で出会ったんだ」


「っ、そ、そうなのか」


明らかに森木っちは動揺してたように思うが、まぁいっか。


「そ、それでね、その子はね、一度しか会ったことないんだけど、その子がとっても仲良くしてくれてさ。その頃はとってもその子のことが好きだったんだー」


私はなにを話しているのだろう。現在進行形で好きな人の前で昔好きだった人の話するとかバカなんだろうか。


でも、でも自然と口は止まらない。何故だか、森木っちにはいってもいい気がする。


「そ、そうか……」


なんだろう……。さっきから森木っちの動揺が大きくなってる気がするんだけど。


「名前は教えてもらってないんだけど、私はその子の子のことを「けーちゃん」って呼んでたんだ」


「えっ?」


森木っちの動揺が最大限にまで達したのだろう。


声が出ていた。

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