第85話 あーちゃん

けーちゃん……。


この言葉を聞いた瞬間、俺の頭の中に3歳の頃の旅行のことがフラッシュバックされた。


そうだ。俺は3歳の頃に来た旅行である少女と出会い、その子と一日中遊んだ。


そして、その子は俺のことを『けーちゃん』と呼んでいたのだ。まさかと思ったが、これを聞いてしまった以上、この写真に写っている子と俺が三歳の頃にあった少女が同一人物だという可能性がかなり高い。いや、ほぼ決めつけてもいいレベルだ。


俺が3歳の頃に会った少女の正体は、村瀬……。


いや、まだ決めつけるのは早い。


もう一つ、もう一つ俺にはある。


この少女が村瀬だとほぼ確実に決めつけることができる方法を。


でも、正直複雑な気持ちだ。


もちろん、この少女が村瀬なら嬉しいことだ。


もしかしたら、村瀬とのラブコメが始まるかもしれないし。


それに、いずれ俺もこの写真を手にした時、この子が村瀬だとなんかいい思い出だなぁと思える。しかし、知らない人だと、この少女は誰だったのだろうという感情が永遠に付きまとってくる。


そう、たしかに嬉しいんだ。


しかし、怖いという感情がわずかながらある。


昔は仲良く遊んでいたのに、今では天と地の差。学力では勝っていても、人間はそれだけで上に立つことはできない。


村瀬は少し間違った方向に進んでいる気はするが、文句も出ないヨウキャだ。そういう人間は自然と強いキャラになる。そんな村瀬は、ずっとラノベ読んでいる俺なんかと昔仲良く遊んでいた。


もしかしたら、こらが学校中にバレてしまい、俺と村瀬が変な関係だと勘違いされてしまうかもしれない。


まともに友達もいない俺はかまわないが、こいつは違う。


もしかしたら、とても傷つくかもしれない。


どうしたらいいんだ……。


「森木っち?どうしたの?もしかして……、森木っちって……」


どうしたらいいんだ。


俺は脳をフル回転して考えた。


「も、もし、俺がその写真の男だったらどう思う?」


俺は村瀬に聞いてしまった。いわゆる人任せだ。俺では決めることが出来ず、人に任せてしまった。


ほんとに俺は腐った人間だ。


「えっ?いや、それはなんというかとても嬉しいというか、昔と今とで好きな人がぁああじゃなくてだね。でも、森木っちがこの相手なら、多分一番嬉しいかな」


俺の想像していた答えとは正反対の答えが返ってきた。


途中でなんか「昔と今の好きな人」とか聞こえた気がするけど、きっと聴き間違えだろう。


でも、村瀬はそう言ってくれた。


俺は最後の審査をするため、ある言葉を発した。


それはわずか一言ながらもとても大切な言葉なのだ。


「あーちゃん?」


俺は旅行で出会った少女のことをそう呼んでいた。


その言葉に聞き覚えがあるということは……そういうことだ。


「うそ……でしょ……」


その言葉が聞こえたので村瀬の方を見ると、そこには口を半開きにしていて、その口に右手をあてて、若干涙目になっている村瀬の姿があった。


なるほどな……。


どうやら、この写真の男は99%俺だということが判明した。


「あーちゃん、なんだよな?」


俺は落ち着いてもう一度聞いた。


すると、村瀬はニコッと笑顔を見せて言った。


「もちろんだよ!大好きだよ!」


えっ?どゆこと?

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