第65話 本屋

「ありがと」


俺は約束通り2人にジュースを奢った。


でも、ジュースを奢っただけで全てが丸く収まったんだから気分がいい。


正直、隠し通せるとは思っていなかった。


右隣にいた村瀬たちについては分からないが、真昼はなんかずっと変な行動してたし、一ノ瀬なんて号泣していた。ばれなかったのはそのおかげと言ってもいいかもしれないな。


それにしても……、一ノ瀬の泣いてる姿……。


超絶可愛かった。


普通のやつが泣いたら顔がぐしゃぐしゃになるのに、一ノ瀬は違った。なんか泣いてても美しい……。いや、それ以外に出てこない。


正直、チラチラ一ノ瀬のことを見ていた。


今度は一ノ瀬と2人きりで映画とかにきてみたいな。


「それにしても……、どうして突然私たちを連れて走ったの?1人で行けばいいのに」


「いや、さっきも言ったけど……」


「あ、嘘だってことは分かってるからね。その理由が何なのかまでは分からないけど」


あ、ばれてたんだー。でも、本当のことはばれてないなら、村瀬たちのことは黙っておいたほうがいいだろう。


「まぁ、たしかに嘘をついてました。すいません……。でも、その理由はちょっと言えない。ちょっと大事なことがあって、どうしても3人全員があの場所から早く離れなくてはならなかったんだ」


「なるほどね。友達に私たちの関係を言ってないから、バレたらまずい。的な?」


すげーなおい。完答じゃねーか。


しかも、『私たちの関係』とか、なんか変な意味で捉えられそうじゃないか。


「悪いがそれから先は言えない。2人にもバレるとちょっとあってさ」


「なんか、京くんが私たちに秘密ってむかつくなー。まぁ、いいや。どうせすぐにボロ出してわかりそうだし」


おい!それは俺が日頃から何も考えず会話してるとでも言うのか?!この映画中だって俺は真剣に考えていたんだぞ!


「なんか、ひどいな……。まぁ、いいや。もう映画も見たし、そろそろ帰るか?」


もう、変なことが起こる前になるべく早く帰りたい。


「そうだね。今日は色々と回ったしそろそろ帰ろっか」


よっしゃぁぁぁぁぁ!!!!


俺は心の中でガッツポーズをした。


よし。これでおとなしく今日が終わる。


俺は勝利を確信した。


しかし、まだ、終わらなかった。


「あ、本屋あるじゃん!久しぶりに本屋行ってみない?」


「うん。いいよ」


「京くんはラノベコーナーにでもいてくれたら、終わったらそっちに行くから」


「お、おう」


「それじゃあね」


えっ?俺には了承を得ないんですか?まぁ、特に断るつもりもなかったけど。


それに、流石に本屋なら村瀬たちもいないだろう。


たしか、今日はNF文庫の発売日だったよな。


ちょうどいいし、見て行こっと。


俺は本屋のラノベコーナーに直行した。そして、新刊や新作など確認して、欲しいと思ったものは手に取った。


なんか、この時間ってめっちゃ幸せなんだよなぁ。


俺は適当に本を見ていた。そんな時だった。


「あっ!森木くんじゃん!」


嘘だろ……。


そこには村瀬たち、レインボーギャルズがいた。


「偶然だね!私たちも今日ここに来て映画とか見に来たんだ!森木くんは家族と?」


いや、映画隣に座ってましたけど。


まずいことになった……。ひとまずできる限り隠し通してみせる。


「そうなんだ。ちょっと家族と出かけててさ。悪いがもう行こうと思うんだ。また明日な」


「そっか、オッケー。また明日!」


よし、逃げれる。俺はその場を離れようとした。


「あっ、いた!京くん!終わったよー」


「あっ」


最悪のタイミングで真昼たちが帰ってきた。


あと……、あと1分、あと1分遅ければ、逃げ切れたはずなのに……。くそっ!ここまでか……。


俺は後ろを振り向いた。


しかし、その場に村瀬たちの姿はなかっ、いや、いた。本棚に隠れて全員こっちを見ている。


終わった……。


「帰るか」


俺は、手に取った本をレジに持っていき、購入した。


そして、俺たちは本屋を出て、帰った。


電車の中で俺に一通のラインがきた。


見なくても誰からかわかる。


見ると、予想通りの人からだった。


『はじめのパシリの件だけど、明日ね。ちょっと聞きたいことがたくさんあるから』


いや、怖すぎるだろ!

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