第64話 どうしよう……。

映画が始まったと思って見ていたら、なんだろう……。


なんか視線を感じるな……。


隣は……、け、け、京くん?!


どうして京くんは映画も見ないでずっと私の方向いてるの?


もしかして……、私とキスしようと思ってるのかな?


本当にそうかもしれない。


だって、京くんは私と目があったらニコッと笑顔を見せてくるんだよ?これって本当に私のことが好きなのかもしれない……。


どうしよう……。せっかくこの映画で勉強しようと思ってたけど、こうなったら映画どころではない。いきなり実戦だ。


おそらく京くんはこの映画の上映中に私にキスをするつもりなんだと思う。


それなら、できる限りのサポートはしたほうがいいよね?


心の準備はまだできてないけど絶対に京くんとキスしてみせる。


ところで……、サポートって何をしたらいいんだろう?私が京くんのことを好きだってことは知ってるだろうから……。あっ!思い出した!


『男は女に触られると、興奮する』


なんかの本に書かれていたことを思い出した。


興奮したらなんなのかはわからないけど、『男を落としたいなら男に接触するべし』って書かれてたしやってみようかな。


私は肘掛けに置かれた京くんの手の上にさっと手を重ねた。


もちろんのごとく京くんは目をパチクリとして私と手を2往復。


やはり、私の予想は間違っていなかったんだな……。京くんは私の手を退かそうとはせず、ずっと笑顔で私を見ている。


京くん……、私はいつでもいいよ。多分、この映画のキスシーンと同じタイミングでするんだろうな。


その時が来るまで映画でも楽しもうかな。




やばい……。


どうすればこの状況を乗り越えられるだろうか。


左には真昼、右には村瀬……。


絶対に村瀬率いるレインボーギャルズには俺たちが買い物に来ていることがバレてはいけない。


体育祭の日、俺は2人とは全く関係がないと言った。それなのに、2人とお出かけ?間違いなく学校中に広まってしまう。


しかも、一ノ瀬とかなら普通に隣人だということも教えそうだ。


そうなれば、俺は学校中の男どもに確実に殺されてしまう。


2人と隣人でお出かけもする?うん。100%殺されるな。


ひとまず、村瀬に見つかってはいけないから、村瀬に俺という顔を認識させてはいけない。


真昼には悪いが、真昼の方を向かせてもらおう。


しかし、どうしたことか……。


ずっと真昼が俺と目があっているんだが?


俺は笑顔(苦笑い)を作ることしかできない。変に目をそらしたりして、真昼が村瀬たちに気づいてはいけない。


俺はずっと真昼と見つめ合い、俺は真昼のことを笑顔で見た。


それだけで済めばいい……。


このまま映画が終われば全て丸く収まる。


確かこの映画は2時間ぐらいだったから……、って、まだ1時間半以上もあるのかよ?!


きつい……。でも、絶対ここで諦めてはいけない。


これからも普通の学校生活を送りたいのなら負けられない。


よし。頑張るぞ……って!何やっとんジャァァァァァァァァ!!!!!!


ま、ま、真昼の手が俺の手の上に……!


ど、ど、ど、どういうことだ?!


真昼はそんなにこの肘掛けが使いたいのか?


いや、流石にそうだったとしてもなにか言ってこないか、普通は。


しかし、悪い。俺はこの手を退けることはできない。


もし、俺が手を退けようとした時、真昼はしっかりと俺の方を見るはずだ。その時に村瀬の存在に気づくという可能性もある。


真昼には悪いが、今回ばかりは慎重にいかせてもらう。


次からは肘掛け使わせてやるからな。


真昼は、手を置いた後は映画に集中していたため、変に緊張せずにいれた。


そして、1時間ほど経っただろうか。


俺はその1時間ほどの時間を真昼を観察する時間として使っており、首あたりがかなり痛い。


しかし、後30分ほどだろう。残り頑張るぞ。


そう決意したほんの数秒後、真昼は突然こちらに顔を向けた。そして、目を閉じている……。


ん?何してんだこいつ。眠いのか?おそらく映画も終盤で面白くなってくるところじゃないのか?俺は見てないから分からんが。


真昼は時々目を開けるが、俺と目を合わせると少しニコッとしてまた目を閉じる。


本当に何してんだこいつ。


そのまま30分ほど過ぎて映画が終わり、俺たちの場所は明るくなった。


(終わったーー!) (終わった?ん?)


よし。映画は終わった。でも、本当の勝負はこれからだ。どうしたら村瀬にばれずにこの場所から離れることができるか。


俺の頭には一つの作戦以外には浮かばなかった。


俺はすぐさまその作戦を実行する。


「えっ?どうしたの?」


「ヴェ?ドウジダドー」


なぜか目が点になっている真昼と、映画を見て大泣きしている一ノ瀬の手を握り、走る。


そう。俺の作戦は、ばれないぐらい早くこの場所から離れる。


一ノ瀬と真昼は何か言っているが、今は聞く耳を持たないでおこう。


俺は走った。


入り口を出て、エレベーターではなく階段へと向かった。


流石に一ノ瀬が泣いていたのでそこで止まる。


一ノ瀬は涙を拭きながら聞いてきた。


「どうしたの?突然私たちを連れて走り出して」


そうだった。どうしよう……。こいつらに逃げたとばれないような言い訳は……


「ごめん。ちょっとトイレがやばくてさ。1人で行ったら2人とはぐれちゃうかもしれないから……」


思いっきり適当に考えた理由を伝えた。


「いや、トイレは仕方ないけど、はぐれたとしてもラインとかあるじゃん。めっちゃびっくりしたんだよ」


「すいません……」


「あとでジュースおごってね」


「よ、よろこんで……」


よし。ジュース奢るだけでこのピンチを切り抜けてみせたぜ!


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