第53話 約束

「まっひーどうしたの?京くんに何かされた?」


退場門から出てクラスの待機場所に戻った俺たちに一ノ瀬は聞いてきた。


「いや、まぁ、ちょっとあってな。大したことじゃないから心配しなくて大丈夫だ」


俺たちが走ったのが第一試合だったこともあり、真昼は他の試合の間で落ち着いた。


ここでまた一ノ瀬に話したら、また真昼が泣いてしまうかもしれないし、このことはそんなにすぐに一ノ瀬に言わないといけないことでもないし、これから教えていけばいいだけだ。


ひとまず今はこの話をするべきではないな。


「京くん大丈夫だよ。くるちゃんは全部知ってるから」


このことを知らなかったのは俺だけらしい。


なんか秘密にされてたみたいで悲しい。


まぁ、一ノ瀬になら相談はしても大丈夫だったんだろうけど。


一ノ瀬ならちゃんと話とか聞いてくれそうだしな。


「そうなのか、でもまぁ、後日話すよ」


「了解!」


一ノ瀬は納得したように頷き、それ以上聞いたりすることはなかった。


そのあと、俺は真昼についてこいと言われたのでついていく。


わざわざ何故俺を呼んだのかはわからないが、さっき泣いている姿を見ていたこともあり、ついていくことにした。


「どこ行くんだ?」


「トイレ……」


「えっ、」


は?こいつ馬鹿なの?なんで俺をトイレに?


さっきまで泣いてて、判断力とかが鈍くなるのはわかるが、流石に男子を女子トイレに連れて行くのはまずいだろ……。


「いや、流石に俺が女子トイレに行くのはおかしいんじゃないか?」


「いや、流石にそこまで馬鹿じゃないし……。京くんにちょっと話があるから呼んだんだよ。トイレはついでに」


いや、お前が馬鹿なのは間違ってないと思うぞ。


でも、少し安心した。


最悪、救急車を呼ぶ必要性も出てくるところだった。


俺は女子トイレから少し離れたところで真昼が出てくるのを待っていた。


もし、俺が女子トイレの前とかで真昼のことを待っていたら、警察、もしくはこの学校の生徒たちに捕獲されるに違いない。


数分経って、真昼はトイレから出てきた。


「ごめんね。それじゃあ本題なんだけど……、ここじゃ話しづらいしちょっと人の少ないとこに移動しよ」


「わかった……」


俺は言われた通りについて行く。


「ここら辺でいいかな」


真昼は、人がいなくなった場所で止まり、こちらを向いた。そして、話し続けた。


「あのね……、一つお願いがあるんだけど……」


緊張しているのか、真昼の手はわずかに震えていた。


「あぁ、俺にできることならなんでも」


そう言うと、真昼は少し顔が元気になった気がした。


そして、大きく深呼吸をしてから言った。


「あのさ、この体育祭が終わったら、私とハチマキを交換してくれないかな」


「えっ、まぁ、そんなことでよければ全然いいけど」


「ほんと!ありがと!」


真昼はとても笑顔なった。


しかし、何かが頭に引っかかってるんだよな。


ハチマキ……ハチマキ……


思い出した!


「あ、でもさ、この学校の体育祭にはなんか噂があるらしくてさ……」


「知ってるよ。さっきも言ったけど、私は京くんのことがずっと好きだったんだよ。私は体育祭で京くんとの思い出を作りたい」


流石に告白されたのかと一瞬思ってしまった。


我ながら少し照れてしまった。


でも、真昼が昔俺のことを好きだったとはな……。全然気づかなかった。俺も小学生の頃は真昼に気がなかったといえば嘘になる。


まぁ、今は一ノ瀬だがな。


「まぁ、俺が他の誰かと交換する予定もないし、真昼がそれでいいなら全然いいぞ」


一ノ瀬との交換のためにハチマキを置いておこうか迷ったが、どうせ一ノ瀬と交換なんてできるわけないし、俺のハチマキでも欲しいと言ってくれる人がいるんだ。もちろん、そっちを優先にするに決まっている。


これで真昼が喜ぶなら交換を断る理由がない。


それにしても、昔好きだったのは俺らしいが、今真昼には好きな人とかいないのかな。真昼なら交換を頼んだら誰でも交換してくれそうだがな。


「ありがと」


こうして、俺と真昼はハチマキを交換する約束をした。


クラス一の美少女とハチマキ交換できるとか、こいつと幼馴染でよかったー!


なんかインキャ脱出した気分だわ。

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