第52話 告白

昼食を食べ終えた俺たちは昼の部の最初の競技の二人三脚の準備をした。


最初は男子同士、女子同士がする二人三脚。


そして、その後に行われるのが男女混合の二人三脚だ。


なので一ノ瀬だけが入場門に向かう。


そして、その競技が始まったら俺たち混合組も向かうのだ。


「緊張するね」


「そうだな。でも、俺は結構お前と息が合ってると思うけどな。逆に負ける気がしねぇ」


「そ、そうだね……」


返事の声が小さかったので真昼の方を向いたが、真昼は俺に背を向けていた。


そんなことをしていると、一ノ瀬の二人三脚が始まった。


アナウンスで次の男女混合二人三脚が招集されたので俺と真昼は入場門へ向かった。


二人三脚は各クラス2組出場し、200メートルあるトラックを100メートルずつ走るというリレーのような形式だ。


俺たちのクラスのもう一組は大野と小坂の最強コンビだ。


大野と小坂ペアが先に走り、俺たちがその次に走るという感じだ。


俺と真昼は入場門で一ノ瀬たちの二人三脚を見ていた。


なんと見事な走りをして、一位を取っていた。


「すごいな。一ノ瀬たち一位だぞ」


俺は隣にいる真昼に話しかけた。


しかし、返事はなかった。向くと、真昼はぼーっと下を向いていた。


「どうした大丈夫か?」


真昼はようやく俺の言葉に気づいたようで返事を返した。


「あ、ごめん。ちょっと考え事してて」


「大丈夫か?俺でよければ相談とかなら聞くけど……」


こんな何も考えてなさそうな真昼が悩んでいる。そんなの簡単に解決できるはずがない。それなら相談ぐらいなら聞いてやろうと思った。


決して女の子とお近づきになりたいとかそう言うわけではない。


いえば、親心的な。


「ううん。大丈夫。これは自分で解決しなくちゃダメなことなんだよね。でも、もしダメだったら相談するよ」


「おう」


提案はしたが、断られた。


これはちゃんと自分で解決したいという意思があるからなのか、単に俺に相談しても意味がないと判断されたのか。


後者なら少し悲しいな。


そうして俺たちの二人三脚が始まった。


この競技も50メートル走と同じように1組から5組、6組から10組に分かれて行われる。


なので、いつも通り最初のレースだ。


俺と真昼はひもで足を結ぶ。


やはり女子と触れるというのは何回やっても慣れないな。めっちゃ緊張する。


俺がこの試合の準備をしている時だった。


「ねぇ、京くん。やっぱり相談してもいいかな?」


さっき断ったばかりだというのに、今度はそっちから相談してくるとは予想もしていなかった。


「おう。いいぞ。まぁ、俺がその悩みを解決できるかは分からないけどな」


”パンッ!”


タイミングが悪い……。


せっかく真昼が相談してきたというのに、試合がスタートしてしまうとは。


しかし、真昼は試合が始まったことに気づいていないのか話を続けていた。


「あのね、もし、もしなんだけど……ある場面で3年ぐらいあってなかった子と再会したらどうするべきかな?相手は私のことに気づいてないと思うんだけど」


試合は始まってしまったが、あいつらがここにくるまでまだ時間はある。ここはしっかり相談に乗ってあげよう。


「そりゃあ、話しかけたらいいんじゃないか。もしかしたら、そいつも真昼とずっと会いたいって思ってるんじゃないか」


そう。俺にもその経験はある。見事に真昼と同姓同名だが、そいつは小学校の卒業後突然姿を消した。


そいつは、俺が友達と認めることができるやつだった。


俺は小学生の頃からインキャだった俺にはもちろん友達なんていなかった。


しかし、そいつだけは違った。


そいつは俺と幼馴染だったということもあるが、アニメなど趣味が合い、小学生の頃は一番仲が良かったといってもいいだろう。


でも、いなくなった。


それからというものは、とても辛い日々が続いた。


中学に入ると、はじめはみんな話しかけてくれたが、俺と話が合わないと分かればすぐに違うやつに話しかける。


その結果、ぼっちになった。


俺は1人が嫌いではないのでそこまで気にはしなかったが、真昼がいないのは少し寂しかった。


今でも俺は真昼と会いたいと思っている。


だから、おそらくこの隣にいる真昼の相手もそれを望んでいるはずだ。


「そうかな……。もしかしたら怒ってるのかもしれないし……」


どうしたら真昼に合わせることができるんだろう。


人に話すのは嫌だが、仕方ない。俺の体験でも話すか。


「実は、俺にもお前と同じようなやつがいてな。まぁ、俺はその相手みたいな立場なんだけど、俺は小学生の頃に幼馴染がいてだな、それが、って、やばい!大野たちがくるし準備するぞ!足は外側からな。まぁ、簡単に言うと、俺はお前の相手みたいな立場だけど、ずっとそいつに会いたいと思ってる。だから、お前もちょっとは勇気出して頑張ってみ。きっとそいつは待ってるはずだから。せーの!」


このエピソードはできればしっかりと話してやりたかったが、大野たちが走ってきたため簡単に説明した。それにしても、大野と小坂ペア早すぎだろ!


まぁ、これで伝わってくれればいいんだが……。


真昼がバトンを受け取り、走り始めた。


大野たちが5メートル以上のリード作ってくれたおかげだいぶ楽に試合は進む。


俺たちもかなり速いのでリードは縮まるどころか広げていく。残り20メートルの時にはニ位と10メートル以上離していた。


「京くん」


突然真昼が俺の名前を呼んできた。


足を止めることはなく話を聞く。


「ん?」


残り10メートル……。


真昼はなぜか深く深呼吸をしてから言った。


「私……私ね、京くんの幼馴染なんだよ」


「えっ、うわぁ!」


俺の動揺によって2人は残り3メートルと言うところでバランスを崩し、こけてしまった。


俺たちの目の前にはゴールテープがある……。


今はひとまずゴールすることだ。


俺と真昼は立つことはなく、赤ちゃんのようにはいはいしながらゴールを目指す。


10メートルとかなりのリードがあったおかげでギリギリのところではあるが先にゴールすることができた。


ゴールテープの下をくぐった形になったが。


「危なかったねー」


「ほんとだな。って、それより俺の幼馴染って……」


「うん。ほんとだよ。私は小学生の時までずっと一緒に話しとかして、卒業後に黙って別れちゃったの。ほんとにごめんね」


「え、ちょっと整理がつかないって言うか……。なんて言えばいいんだろう」


俺の頭が混乱している……というのに真昼は話し始めた。


「私、ずっとずっと後悔してたんだ。別れるのがいやすぎて……引っ越すって伝えるのが嫌すぎて……それで黙ってしまって……」


真昼の目からは涙が垂れてきていた。


こんな時俺はどうすればいいのだろうか。


真昼は泣くほど辛かったのだろう。それは俺も同じだ。どちらも辛かった。


真昼も話すの辛いはずなのに、その口を止めることはなかった。


「わ、わだしね、けいぐんどおばなじするの、とってもだのじかっだの。わだしね、ずっどずっどけいぐんのことが好きだったよ」


真昼は号泣しながらも話した。


号泣しているが、とても笑顔だ。おそらく高校生の真昼を見てから一番な笑顔だった。


「とにかく、今は落ち着こう。ひとまずひもを解いて待機場所に移動しよう」


「ゔん」


俺は、ひもを解き、真昼の背中を支えて待機場所まで歩いた。

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