第43話 朝練

翌日も、俺はリレーの練習のため、朝早くから学校へ向かう。


もちろん、真昼とともに。


昨日と同じ時間につき、走る準備をしておく。


そして、数分経つと、昨日と同じく人が集まる。


しかし、今日は昨日より少ない。


安心してくれ。これは一ノ瀬の信頼がなくなったというわけではない。


今日はリレーの練習だけだから、他の人は来なくてもいいと言っていたのだ。


なので、リレーで走る20人しか集まっていない。


いや、普通に20人全員集まるのってすごくない?


この学校のグランドのトラックは、一周200メートルだ。


俺は、男子(18番目)なので、スタート位置の反対側に並ぶ。


そして、バトンを持った一番走者の小坂 穂波(こさか ほなみ)が走り出す。


見事な走りだ。


さすがはバスケ部。


このクラスの女子では間違いなく足の速い上位3名に入れるだろう。それに、男子の半分ぐらいには勝てるんじゃないのか?その中には俺もいるが。


華麗な走りで、第二走者の生徒にバトンが渡る。


このクラスははじめの方に速いやつをおくので、とても速い!


しかし、走者が変わるごとに、だんだん走る速度が低下している。


本当に大丈夫だろうか?


はじめに半周ぐらいリードしたとしても、最後で抜かれるような気もするのだが。


そんなことを考えている間に、もう真昼が走り始めてるんですけど?!


それにしても…、あの走り方…どこかで見たことがあるような…。


まぁ、気のせいだろう。


走り方が同じやつなんて世界中探したら、何万人といるだろうし。


真昼は、ものすごく走るのが遅い。


なるほど…、自然と17番目の走者に選ばれるわけだ。


ラノベの主人公だなんて、考えていた自分が恥ずかしい。


考えているうちに、真昼がだんだん近づいてくる。


俺はバトンを受け取るため、右手を後ろに出し、走る体制に入る。


これは、リレーの練習を始める前に、全員で決めたルール。その名も…


『バトンは右手でもらって、左手で渡す』


いや、知ってるし。


これって、小学生のリレーでも言われるような本当の基礎みたいなものじゃないの?


俺でも知ってるよ?


しかし、そんなことを言えるはずもない。


だって、なんかクラスのみんなが、それを楽しそうに話しているんだもん。


さすがに言っていいことと悪いことぐらいわかる。


今回は言ってはいけないことだ。


クラスの雰囲気が悪くなる。


それ以前に、言ったら殺されるかもしれないという恐怖である。


そのまま黙っていた。


というわけだ。


「リード!」


その真昼の掛け声とともに、俺は前を向き、足を動かす。


そして、きれいにバトンが俺の右手にあたる。


俺はそれをぎゅっと握りしめて、走る。


そう。ひたすら走る。


えっ?100メートルってこんなに長かったっけ?


想像以上に、100メートルという距離が長く感じる。


自慢ではないが言っておこう。


俺は50メートル走、8秒台後半なのである。


たしか全国の高校一年生の50メートル走の平均が7.5秒ぐらいだった気がするな…。


俺って、平均より1秒以上も遅いんだ…。


なんか悔しいな。


まぁ、だからといって「これから毎日走るぞー!」みたいな体育会系なセリフは言わないので、ご安心を。


それにしても長い…。


本当に俺も100メートルか?


俺だけいじめられて500メートルぐらい走らされてるんじゃないのか?


そんなことを考えながらも、一生懸命走る…走る。


そして、コーナーが終わり、最後は直線だ。


俺は残りの力を振り絞って、走る。


そして、一ノ瀬が右手を出しているのが見える。


終わりだー!


よっしゃー!


「り、リード!」


その掛け声とともに、一ノ瀬は軽く走り始める。


俺の足が遅いため、バトンをもらう前から全力で走ると、俺がバトンを渡せなくなると、考えてくれているのだろうか。


ありがたい。


そして、俺が一ノ瀬にバトンを渡す。


その時だ。


俺にしか聞こえない声で、一ノ瀬は囁いた。


「京くん…!これから毎日特訓だね!」


そう言ったので自然と一ノ瀬の方を見てしまう。


ズッキュン!


俺のハートは射抜かれた。


一ノ瀬は、左目を一瞬閉じて開ける。いわゆるウインクというやつである。


それに笑顔…。


可愛い…。


それだけして、一ノ瀬は走り出す。


俺たち、遅いやつらの走りを一瞬にして吹き飛ばす見事な走り。


すごーい!


一ノ瀬は、一瞬にして走り終え、最後はアンカーの大野が走りきる。


20人が走り終えた。


みんなは終わったので集まる。


その時である。一ノ瀬が俺の耳元で囁いてきた。


「ねぇ、これから毎日特訓ってやつドキッとした?」


「し、してねーよ」


嘘だよ。完全に射抜かれたよ。


「またまたー、まぁ、いいけど。でも、本当にこれから特訓だね。まずは今日から!」


「嘘だろ…」


ニヤリ…。


一ノ瀬がこんな風ににやけるときは、ろくなことがない。


まだ、出会って一ヶ月もたってないが、だんだんわかるようになってきた。


一ノ瀬は俺との会話をやめ、クラスのみんなに話しかける。


「それじゃあ、もう一回ぐらいやってから終わろっか?」


まだやるのかよ…。


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