第40話 一ノ瀬強い

今日は土曜日。


普段の俺なら、基本的に休日は部屋の外には出ない。


これがインキャというものだ。


なのに…、なのに俺は今、どこにいるかというと…、


俺は近所の公園でいるんだが。


なぜこうなったのか、それは昨日にある。


昨日もいつもどおりに俺の部屋で夕食をとる。


そんな時だった。


「明日さ、一緒に体育祭の練習しない?」


一ノ瀬が意味のわからないことを言った。


「ん?なんて?耳にゴミでも入ってたのか聞こえなかったわ。もう一回言ってくれないか?それと明日って平日じゃなくて休日だよな?」


俺はしっかり休日だぞと伝えた。


もしかしたら、明日を平日だと勘違いしているんじゃないか?俺からしてみれば、休日に部屋の外から出るなんて、映画か本屋に行くときぐらいだからな。わざわざ体育祭の練習?意味がわからん。


頼む…、聞き間違いであってくれ…。


「うん!明日は土曜だよね!だからめっちゃ練習できるね」


聞き間違いじゃなかった…。


「いや、休日なんだし、部屋でゴロゴロ過ごさないか?」


死んでも、休日に部屋から出て、運動するなんて嫌だ!そう簡単に諦めてたまるか!


「ちょっとトイレ行ってくる」


一ノ瀬はスマホを手にとり、俺をじーっと見つめた後、トイレに向かった。


そんなに見つめられちゃうと…照れちゃう…。


いやいやそうじゃない!


何か嫌な予感がするのは俺だけだろうか?


俺の予感は見事に的中する。


「ピコン!」


俺の携帯から音が鳴った。


俺の携帯が鳴るということは、俺にラインが来たということだ。


何度か言ったことがあると思うが、俺のラインには、家族と一ノ瀬、真昼だけだ。


俺の親は俺にラインを送ったことがない。


そして真昼は今ここにいる。


消去法で考えたとしてもこのラインを送ってきたのは、一ノ瀬だろう。


なるほど。さっき見つめていたのは、「今からライン送るから見れよ」という意味があったのか…。


俺はスマホを手に取り、ラインを確認する。


やはり相手は一ノ瀬だった。


『始めに言っとくけど、このラインの内容をまっひーに知られたら、あなたを殺すわ。それで、いいから明日の練習の件、承諾しなさい』


どんなラインが来るのかと思えば、一文目から『殺す』と脅してきた。


『嫌だ。俺は部屋で過ごしたい』


『これ以上行かないと言ったら、グループラインに、『京くんに襲われた。いやらしいことされた』って言うわよ』


『いや、俺してねーし』


『もししてなかったとしても、みんなはどっちを信じるでしょうか?学級委員長の私と、ぼっちの京くんのどっちを?』


そう。これが恐れていたことだ。


インキャという存在はこういう形で脅されると対処できないのだ。


やはり、こいつを敵に回しては勝ち目がない。


『でも、どうしてそこまでする必要があるんだ?練習ならこれからめっちゃできるじゃねーか』


一応、行きたくないと直接は送らなかった。


もしものことがあったら怖い。


それより、まだ二週間あるんだぞ。なぜするんだ?


『何言ってんの?平日は京くんとまっひーの二人三脚はできないでしょ?』


『何でだよ?できるじゃねーか』


『あんた殺されるわよ。ただでさえ、このペアをよく思わない生徒しかいないのに、その前で練習なんてしたらどうなるのか、わかるでしょ?』


何ほど、そういうことだったのか。


一ノ瀬は、ただ俺を部屋から引きずり出したかったわけじゃなくて、ちゃんと俺のことを考えていてくれたのか…。


やっぱりいい子だ。


『わかった。そういうことなら、承諾するよ』


そのラインを送った瞬間、一ノ瀬はトイレから出てきた。


そして、いきなり話を切り出す。


「ねぇ、京くん?さっきのことだけど、明日練習しない?ちゃんと日頃から身体とか動かした方がいいし」


さすがは一ノ瀬。真昼に怪しまれないように、いきなり話を出すわけではなく、俺にある提案をする。

そうしてくれると、俺はその提案に賛成と言えば、怪しまれることなく話は終わる。


「そうだな、やっぱ身体動かした方がいいよな…。わかった。明日練習するか」


「まっひーは予定とか大丈夫?」


「うん。私は大丈夫だよ」


「それじゃあ決定ね」


こうして、俺が今公園にいるのだ。


俺は公園へ行く時、一応真昼を誘ってから来た。


これも一ノ瀬の命令なのだが。


俺たちが公園に着いた時には、すでに一ノ瀬は公園にいた。


「おはよー!くるちゃん」


「おはよ、まっひー、京くん」


「おう、おはよ」


「それじゃあ始めよっかー」


俺たちは練習を開始した。


今思ったけど、今の俺って、休日に美少女二人に囲まれて…、なんかラノベっぽいな。

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