第39話 もしかして
今日の朝のHRで、担任の五条先生は体育祭について話し始めた。
「まぁ、これから体育祭の練習とかすると思うけど、基本的に放課後は部活とかでグランドを使うからできない。だから、練習とかしたかったら朝か、昼休みとかしかないから。一応言っとくわ」
なるほど、練習するから放課後残れとかは言われないのか。中学生の時は言われてたから、高校でもてっきり言われるのかと思ってた。
先生はそれだけを言って教室を出た。
6時間目が終わり、終礼のHRが始まる。
そして、HRも終わり、みんな帰る準備をした時だった。
一人の少女が立ち上がった。
その少女の名を一ノ瀬 来未という。
「あのさ、体育祭のことなんだけどさ、体育祭はあと二週間とちょっとだよね?それなら来週ぐらいから朝とかお昼を使って、練習しようと思うんだけど…どうかな?」
クラスのみんなは「いいんじゃない」などと賛成する。
さすがは学級委員長!反論するやつすら出てこない。
絶対にありえないことだが考えてみよう。もし、俺がこの一ノ瀬の言葉と一言一句同じ言葉で提案したとする。
そうすれば結果はどうだろうか。
おそらく、90%以上の反対を得ることができるだろう。
おそらくこのクラスの男子に、俺のことが嫌いではないというやつは、いないだろう。もしいたとしても、たかが2、3人だろう。
さらに恐ろしいことに、俺は一ノ瀬と真昼以外の女子に嫌われている。
おそらくその原因は、俺が一ノ瀬や真昼と話をしているからだ。
どうせ、「あんなみたいなゴミカスが、このクラスの天使様に話しかけるんじゃねーよ!」などと思われているんだろうな。
こうしてみると、一ノ瀬はものすごい権力の持ち主だ。
敵に回すと厄介なことになりそうだな。
俺もこんなクラスで反論したら、殺される自信しかないので、話が終わるまで静かに待つことにした。
そしてその結果、来週から毎日、朝練、昼休みの練習することが決まった。
正直かなり嫌だが、俺は顔色を変えない。
そして、話も終わり、続々と教室から出て行く。
俺たち3人もいつも通りスーパーに寄り、京の部屋に向かう。
そして、いつも通りに食事を楽しむ。
「いやー、体育祭の時期になりましたねー!これから頑張ろっかー!」
さすがは学級委員長!行事をしっかり楽しもうとしているのか。
「それはいいんだけどさ、なんで来週から朝練とかにするんだよー」
俺は駄々をこねるように言う。
「あ、明日からが良かった?」
一ノ瀬は少しニヤニヤしている。どうやら、俺が朝練をしたくないとわかっているようだ。しかし、あえてこの言葉を選ぶ。
これが一ノ瀬 来未という女だ。
「わかってんだろ?!俺は朝練とか嫌いなタイプなんだよ!」
「うん。わかってたー!」
「くっ、こ、このやろう…、最近俺のことをからかいすぎじゃないか?お前、わかってんのか?ここが男子の部屋だってことを…。も、もしかしたら…、エロいことだってさ、されるかもしれないんだぞ?!」
俺は言いながら立ち、一ノ瀬に近づく。
そうだ。少しは俺(男)の恐ろしさをわからせないといけないな。ここはこれぐらいの脅しで、「や、やめてください。全部謝りますから」ぐらいまではいくだろう。さぁ、一ノ瀬!どうする!
「あ、京くんもその気だったんだ。それなら…」
京くんも?どういうことだ。
そんなことを考えていると、一ノ瀬は机の下から足を出し、その足を俺の足に絡めてきた。
俺はそのまま床に倒れこむ。
そして一ノ瀬は…、はいはいをしながら俺に近づいてくる。
今の一ノ瀬はいつもとは違う。
その顔は、いつもの俺をからかう時のような顔ではなく、真剣な顔で俺を見つめる。
「やるんでしょ?」
えっ?もしかして一ノ瀬は俺のことを……?
こんなことってあり得るの?
で、でもそれなら、今これをやるべきではないと思う。こういうのは付き合ってからだよね?多分。
「い、いや、あの…エロいことっていうのは冗談で、こういうのはまだやるべきではないというか……、ご、ごめんなさい!」
「ふぅ、やっぱりね。京くんにはそんなことする勇気ないと思ってたよ。もし、京くんが、勇気を出してきたら私のはじめてだったよ」
「…………」
「あははははー、京くんめっちゃ顔あかーい!どうしたの?私に惚れちゃった?ごめんね、今のは演技なの…。京くんは99%襲わないと思ってたからからかってみたー!もし、本当にしたいなら、まずは私が京くんのことを好きだと思わせることだね。まぁ、無理だと思うけどー!頑張ってー!」
「そもそも、俺は来未のことなんて好きじゃねーし」
「またまたー」
「………」
今はもう悪魔モードになっている。
すごいな。役者でも進めたほうがいいのかな?
「それよりさ……」
一ノ瀬はある場所を指差す。
そこには気絶した真昼の姿が。
「あちゃー、どうしよっか?ひとまず、今あったことは私と京くんだけの秘密ね?それと、私はもう帰るよ。それで、もしまっひーが起きて、今あっこと聞いてきたら、そんなことなかった。夢じゃないの?って言って誤魔化しておいて」
「あぁ、わかった」
「それとまぁ、私が帰ってから1時間ぐらい経ったら、まっひーを起こしてあげて。さすがに自分の部屋に帰らないといけないし。あ、京くんが一緒に寝たいっていうなら、それはそれでいいけど…」
「しねーよ!絶対1時間経ったら起こしてやる!」
「あっそ、それじゃ私は帰るね?それじゃあ検討を祈る!」
そう言って一ノ瀬は右手をデコに当て、まるで軍隊のような格好をする。
それに同情して俺も同じ格好をする。
そのあと、一ノ瀬は手を振り部屋を出た。
俺は机に置いていた皿を洗う。
そして、1時間後、俺は時間ぴったりに真昼を起こした。
「おーい真昼ー?さすがにもう1時間以上寝てるぞー、寝るなら自分の部屋で寝れよー」
「あ…、うん…。あれ?私…寝てたの?って京くんさっきくるちゃんとなんかしてたような…」
「ん?そんなことしてねーぞ。ってか、もう来未も帰ったし、お前は1時間以上寝てる。しかもなんかへんな夢を見ている。寝るなら自分の部屋で寝ろよー」
「なんだ夢か…、あ、それじゃあ私も帰るよ」
「ああ、また明日」
やっぱこいつを騙すのは簡単だな。
改めて再確認した日であった。
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