第29話 ルール

俺はこれまで生きていて初めてご飯を食べたいと思ったのかもしれない。


一ノ瀬が今、オムライスを作ってくれている。


久しぶりに嗅ぐ美味しそうな匂い。


ここ最近はずっとスーパーの弁当とかだったから、できたてのご飯を食べるなんて久しぶりだなぁ…。


やばい、考えるだけでよだれが今にも垂れそうだ。


「ジュゥ!」


こんな音が鳴る。


もしかして、一ノ瀬ってシェフ?と思ってしまう。


隣を見ると…、真昼も俺と同じようなことを考えてるであろう顔をしていた。


まぁこいつも俺と同じ料理できない人間だから仕方ないか。


俺と真昼は静かに一ノ瀬の料理を待つ。


「京くん?ちょっとキッチンまで来てくれない?手伝って欲しいことがあるの」


「お、おう」


俺は立ち上がり、キッチンへと向かう。


「何をしたらいいんだ?」


俺が一ノ瀬に聞くと、一ノ瀬は指で下を指す。


下を向けと言われたので、俺は下を向く。


「っ!」


そこにはできたオムライスがおいてあった。


そのオムライスはとても美味そうだ。


しかし、問題なのは別のことだ。


そのオムライスにはケッチャップである文字が書かれていた。


その文字は真ん中に「京くん」という文字があり、その文字の周りにハートの形が。


そして一ノ瀬の方を見ると、一ノ瀬は必死に笑いをこらえているのがわかる。


このー、またやられた。今日だけでも何回目だ?!今日のからかう回数が明らかおかしいと思うのは俺だけだろうか?


「あぁ、そうそう、これを運んで欲しいんだけど…」


はいまたでたよ。こんな文字の書いたやつをむこうに持っていけるわけねーだろ!


どうしようかと必死に考えた。そしてある方法を思いつく。


「わかった持っていくよ。スプーンも一緒に持っていくよ」


そうだ、こうやってスプーンさえゲットすればこっちのものだ。ケチャップの文字を読まないように広げたらいいんだ。


「あぁ、まだスプーン出してないから先にそれだけ持って行っといて」


なんという悪魔なんだ?こちらにニヤニヤしながら言ってくる。俺の読みまで編み通りらしい。でも、ここで諦めるわけにはいかない。


「いやいやー、俺が出すよ」


そう言って俺はスプーンを取り、文字を消す。


そして、一ノ瀬にドヤ!という顔をする。


一ノ瀬は少し悔しそうな顔をした。


よっしゃ!一ノ瀬に勝ったぞー!


何故だか一ノ瀬に勝つと嬉しいものだ。


そして、俺がオムライスと、ケチャップのついたスプーンを持って行こうとした時、


「京くん、ちょっと…」


なんだ?一ノ瀬が俺を呼ぶということは何かからかうのだろう。少し警戒しながら一ノ瀬に近づく。


「さっき文字見た時、だいぶ顔赤くなってたよ。もしかして私に惚れちゃった?」


一ノ瀬は俺の耳元で小声で囁いた。


「っなわけねーだろ」


またしても一ノ瀬は俺のことを見て笑っている。


悔しいけど、なんか嬉しい自分もいる。


だってだよ?こんなに可愛い子が…。惚れるに決まってるだろ!


真昼の部屋には小さいが机がある。


俺はオムライスの入った皿とスプーンをそこに持っていく。


その後ろから一ノ瀬も、オムライスの入った皿2つを持ってくる。


「おー、美味しそうだね。これをくるちゃんが作ったんでしょ?すっごいなー。私も料理とかできたらいいのになぁ…」


「そうだ!これからはこの3人で夕飯一緒に食べようよ?それで私がまっひーと京くんに料理を教えるよ!」


「俺もかよ!」


「それはいいかも!」


「いや、それは真昼がいいかもしれないけど、来未はどうなんだ?親とか心配するんじゃないのか?」


たしかに一ノ瀬が毎日来て、料理を教えてくれたら俺たちは助かる。でも、それをどう親に説明するんだ?友達とご飯を毎日食べる?しかも男が含まれている?絶対に止められるに決まってる。しかも、それがきっかけで親と揉めたりするかもしれない。それなら初めからなかったことにした方がいいだろう。


「あ、それは大丈夫なんだよね…」


少し一ノ瀬の顔が引きつったように見えたが、一ノ瀬が話し続けそうだったので聞くことにした。


「私、今は実質一人暮らしだから。実はね、私がこの高校受かって、これから入学って時に、親の出張が決まって…。しかも、その出張先がドイツで…。私はこの学校に入学するために必死に勉強したのに、入学できずに外国へっていう考えにはならなくて…。それで両親はドイツに行っちゃって。帰ってくるのも最低でも2年はかかるらしくて、お金は一応生活できるほどには置いておいてくれたんだけどね。それで今は一軒家に一人暮らしなんだよね」


俺たちは衝撃の事実に何も言葉が出なかった。


「もー、だからこんな話はしたくなかったんだよね。みんなこんな話したらかわいそうって思うでしょ?」


「ま、まぁ」


「はーい食べるよー!いただきまーす!」


「そうだなまずは食べよう!いただきます」


俺たちはひとまず食べることにした。


それにしてもこのオムライス美味すぎるだろ!


「うっまー!こんなにうまいもの久しぶりに食べたわー」


「そこは今まで食べた中で一番うまかったでしょ?女心わかってないなー、それだからモテないんだよ」


「うっせーよ」


そうか、なるほどな、学習したぜ。


俺たちはあっという間にオムライス食べ終えた。


「うまかったー!」


「それはどうも!」


「これを食ったら、スーパーの弁当がバカらしく見えてきたわ!」


「それじゃあ本当に毎日一緒に食べない?私も一人で食べるより楽しいし」


「まぁ、来未がいいなら俺たちに断る理由なんてねーけど」


「そうだよ、一緒に食べようよ!」


「うん」


こうして俺たちはこれから夕食を共にすることが決まった。


「それじゃあこれからは一緒に帰ろうね?夕食の場所は京くんの部屋でいいでしょ?」


「なんで毎日俺の部屋なんだよ?!」


「なるほど…、京くんは女子!の部屋でご飯を食べたいと…?」


「なんでもねーよ!」


こうして毎日の夕食の会場が俺の部屋だと決まった。


「それじゃあ掃除ラストスパートでいきますか?」


「「おーーーー!」」


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