第26話 悪魔

真昼がおつかいへ行った後、俺たちは本当に大掃除を開始した。


本人がいないので、捨てようと思ったものはすぐに捨てる。


30分ほど経つと、床に落ちているゴミとかはある程度拾った。


かなり順調だ。


しかし、もし真昼がここにいたらこんなにテンポよくはいかないだろう。


すぐに「それはまだ使えるかも…」とか「それは…いつか何かの役にたつかも…」とかとにかく理由をつけて掃除を進めなくさせるだろう。


そう考えると、真昼のおつかい大作戦は正解なのかもしれないな。


しかし、一つ心配なことがある。


無事に帰ってこれるだろうか?


ちゃんと言われたものを買ってこれるだろうか?


はじめてするおつかいなんて、幼稚園児ぐらいの5,6歳を想像する。さらにテレビなんかでは2歳児がはじめてのおつかいをなんて言われている。


しかしこいつは何歳だ?


少なくとも高校一年生なので15歳。そんな大人になっているのにと思うかもしれないが、宮下 真昼という存在を甘く見てはいけない。


高1になっても洗濯のやり方一つわからないんだぞ?


やはりおつかいはまだ早かったのか?と考えてしまう。


テレビでは笑いながら見ていた。


しかし、今この状況になるととても共感できるのだ。


子供の帰りを待つ親の気持ちが。


「大丈夫?どうかした?」


どうやら動きが止まっていたらしく、一ノ瀬が声をかけてくれた。


「あ、うん、大丈夫」


「どうしたの?宮下さんのことでも考えてた?」


「えっ!いや違うよ…」


なんだこいつ!テレパシー?テレパシーなのか?!

恐ろしい奴が二人目だ!


「嘘でしょ?わかりやすいよ」


おぉ………、またしてもテレパシー…。


こいつ何者だ?少なくともテレパシー…、なんか考えるだけで身震いが…。

これは極力近づいちゃいけないやつかも。


顔もよし、性格もよしだった一ノ瀬なのに…、唯一の欠点を見つけてしまった。


その名も、テレパシー。


「一ノ瀬さんって、何か特殊能力持ち?まさか…異世界からの転生者?」


「違うよー。森木くんが分かりやすいだけだよー。私が聞いた直後に「えっ!」って言ったじゃん?そんなの嘘ついてる反応じゃん」


(何が異世界からの転生者よ。突然オタクの言葉持ってこられても…。まぁ昔はよくラノベとか読んでたから分かるんだけどね。久々に「転生」とか言われてびっくりしちゃったじゃない!なんか思い出したら読みたくなってきちゃった)


「あ、そうか…、俺が単純すぎたからかー。てっきり一ノ瀬さんは、テレパシーを操るものかと…、すいません…」


「別にいいわよ。でも何か償いを…ねぇ?」


顔を見ると、断ることなんてできるの?できないよね?という言葉も付け加えられていらことがわかる。


こんなにも「ねぇ?」と言われてしまえば、断ることはできない。


「俺のできる範囲なら…」


「どうしてあなたが基準を決めるのよ?罰を決めるのは、このわ!た!し!分かる?」


いや、恐ろしい。


この顔は悪魔の顔だ!本当に関わっちゃいけない存在の方なのかも…。


俺はおそらく顔が引きつっていたのだろうか。


一ノ瀬は「ぷっ、」と笑う。


「冗談冗談!今のは冗談だから。面白そうだからちょっとからかってみましたー。てへっ!」


一ノ瀬は悪魔のような笑い方ではなくなり普通の笑顔だった。


やばい、可愛い…。


「それで罰は?」


もうからかわれるのも面倒なので、相手のペースに持ち込まれる前に話を切り出した。


「そうだな…特に何も考えてなかったんだよね…、あ!そうだ!森木くんって宮下さんのこと、真昼って呼んでるよね?」


俺はこくりと首を振る。


「それじゃあ私もく、る、みって呼んでよ!」


「えぇ………、」


(そんな?一ノ瀬のことを来未って呼ぶのはなんか仲良しになったみたいで結構嬉しいんだけど…もし俺が学校とかで来未って呼んだら、クラスのやつとかに殺されないかな?一応俺の中では、顔では真昼の次、性格も合わせればダントツの一位だろう。まぁ、俺の知る女はこの二人だけなんだけどな)


「それとも何かな?名前を下の名前で呼ぶのにはその人の全裸を見ないといけないのかな?それなら…」


何をするのかと思ったら、一ノ瀬は着ていた半ズボンのチャックを外そうとしていた。


一ノ瀬はまたしても悪魔の顔に戻っている。


しかし、この話題を持ち出されては反抗できない。


「だから…あれは本当に事故なんだよ…。本当に…。それと脱がなくていいから!」


「遠慮しなくていいのにー。それと、もし本当に事故だったとしても証拠はないわ。もしこの情報を学校中に広めたら…?最悪退学になるかもね?ね、京くん?」


一ノ瀬はケラケラ笑いながら、ズボンのチャックを閉める。


「…………」


「それじゃあ明日この情報を報告するから…。これから会えなくなるかもね?それじゃあね。楽しかったよ」


「あー、もうわかったよ、く、来未…」


「うん!ありがと!」


来未はニコッと笑顔を見せる。


くそっ、可愛い…。


可愛いから文句を言えねぇ。


ってか、こんなの数日前に見た気が…、真昼の時と似てるような。


も、もしや…、こいつ、あの時バレずに見てたんじゃないのか?!


「それじゃあ掃除でもしようかなー」


「誰が…?」


「よーし来未さーん?やりますよー」


「はーい」


くそっ、めんどくせーな!


こうして俺たちは掃除を再開した。


「それにしても宮下さんのこと考えてたんでしょ?何考えてたの?スリーサイズ?全裸見たら気になるよねー、それにしても宮下さんってめっちゃおっぱい大きいんじゃない?」


「違うって!おつかいのことだよ!あいつがちゃんと帰ってこれるのかなぁって!あ、それと…、でかかった。ま、真昼の…おっぱい」


「やっぱり変態だなー京くんは」


「だ!か!ら!違うんだって!考えてもないから。考えてたのはおつかいのことだって言ってるよね?!」


とにかくこいつはからかってくる。油断も隙もない。


「まぁ、たしかに心配じゃないと言ったら嘘になるよね…。宮下さんってところどころ抜けてるところあるし」


「いや、ほとんど抜けてると思うぞ。抜けてないところなんて顔ぐらいじゃね?」


「へー、宮下さんのこと可愛いと思うんだ?いいこと聞いちゃた」


「そんなこと言ってないし。まだ顔はましってだけだし」


「ふーん。私は?正直に言っちゃうと、私たちのクラスの中なら宮下さんの次ぐらいに可愛いと思うんだけど。どう?」


そう言って一ノ瀬はくるりと一回転した。


くそ、可愛い…。


「うっせー、可愛くなんかねーよ」


嘘だ。俺はクラスの中じゃお前が一番可愛いとも思っている。


「またまたー、遠慮せず正直に言ってごらん?来未ちゃんはとっても可愛いでーす。はい、せーの」


「言わねーよ!」


ほんと悪魔と化した一ノ瀬は恐ろしい。


「全く作業進んでないじゃねえかよ!」


「ははは…よーし、やるぞー!」


ようやく本当に作業が再開した。


それにしてもやはり気になる。


真昼…大丈夫か?


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