第9話 人間だけど、スキルがあるよ。(前)
「こっちですぅ、この先にロンダンの村があるのですぅ」
ペルカが、先の方向を指差した。
下りだから早く着くかと思ったがあれから三時間以上掛かっている。
その道すがら、サテラが俺たちが神であることを他の人には知らせないようにと、ペルカに言い含めていた。
俺がペルカに対して自分が神であるということを打ち明けることは彼女が進めたんだけどね。
サテラの説明によると、地上には神に敵対する魔族というのがいるらしい。またこの世界では神の名前が強い力を持っていて、とくに直接名前を伝えるのはその相手と縁を結ぶことになるのだそうだ。だからなるべく神名は名乗らない方が良いらしい。
村に近づくにつれて、これから起こる事を想像しているのだろう、ペルカの表情が曇っていく。
それは分かってはいたがペルカのため、また村のためだ!
えっ、本当は自分のためだろって?
……うん、神殿欲しいよね。
ペルカと話して再認識したのだが、なんとペルカは成人なのだそうだ。狼人族は成長が早く肉体的には一二歳で成人を迎えるので、一二歳で結婚というのは珍しくないらしい。
なんということだ、ロリ・ショタ天国なのかこの種族は?!
いや、どちらも同じくらいの年齢だとそうでもないのか?
そういえば、日本だって昭和初期くらいまでは一五歳位での結婚が一般的だったって聞いたことあるもんな。
ペルカは見た感じでは、俺達の世界の一二歳から考えると育ちすぎている。まあ大人というには無理がある感じもする。いいところ高校生くらい?
……胸は確かに成人だと思うよ――うん。
俺の視線の先に気付いたサテラさんに睨まれました。ファイト! 大丈夫、俺は好きだよ。――あれ、ますます眼に
「あっ、見えてきたのですぅ!」
狼人族の村はロンダン村というそうなのだが、想像していたより普通の村だった。
森の中にある村だけあって、木造り家が何軒か見える。人口は一五〇人に満たないらしいが、村を囲む柵を見ると比較的立派に見えるから不思議だ。
森の中で柵に囲まれていて俺から見ると牧場のような感じだ。柵は外からの獣などの進入は困難なほどには立派なものだ。
いま歩いている道は獣道よりはましといった感じで、森を歩く事に慣れた者でなければ直ぐに道を見失ってしまうだろう。感覚的には隠れ里みたいだ。
「ヤマト、止まりなさい、囲まれています」
サテラが、俺の腕を掴んで歩みを止めた。
「ふぇ? うぇ?」
ペルカが意味不明な驚きの声をあげる。この子、食べ物に関して以外、野生が足りないんじゃないか? 俺は良いよね、数時間ほど前までは普通の人間だったんだし。あっ、今も一応人間だ。
「知らぬ者たちの匂いの中に、知った匂いがあると思えば。お前たちなぜ
村の入り口の側の森の中から、大柄の男たちが三人現われた。草を分けるガサリという音が後ろから聞こえた。後にも二人出てきたようだ。それ以外にも、森の中にあと三人が潜んでいる。何故俺にそんなことが判るかというと【サーチ】のおかげだ。
いや便利です【サーチ】。
能力値などは相手を目視しないと見えないみたいだけど、心の中で【サーチ】を唱えて隠れている者を意識したら、人数分の矢印が相手のいる方向をターゲットしてくれてる。ちなみに前にいる三人は能力値まで見えている。
いま目の前で話している
いわゆるガチムチって感じだ。でも、こいつらにもやっぱり有りましたよ狼耳。まあ狼人族だからね。警戒してピクピク動く耳は何か少し和む。
ペルカの能力値を見たときにも思ったけど敏捷性と耐久力が高いのは種族特性みたいだね。でも、一つ判った事がある。なんと、その二つの能力値以外は俺の方が高いのだ。能力の底上げは本当に有ったらしい。
ただ、スキルは戦闘系が充実いていて、
目の前では、ビクリと身体を震わせてペルカが縮こまっている。とんがり耳もペコリとたたまれている。
おおっそんな風に動くのか!?
「聞いているのか! キサマ!!」
しまった! 目の前の男たちの能力値と、ペルカの耳に気を取られていたら、余計に怒らせてしまった。
「聞いてくださいお父さん!!」
俺は、ドゥランに叫んだ。
「
おおっ、何てノリのいい奴だ。
ズバシッ!! という音が俺の後頭部から響いた。
「ごぉ、うぉおぉぉぉぉぉぉ!」
物凄い衝撃が走り抜け、一瞬意識が飛んだ。
「何をやっているんですか、バカですか。真面目にやりなさい」
「……いや、なんだか――物々しい雰囲気になったから、場を和まそうと……。それに年齢的にそれっぽかったから、つい……」
言い訳をしながら後ろにいるサテラさんに振り返ると、彼女の手に物凄く見たことがある蛇腹状の大きな扇形をしたモノが目に入った。
思わず心の中で【サーチ】と唱えてみる。――なにぃっ!?
【
神器:打たれた者は物凄い衝撃を受け、一瞬意識を失うが、ダメージは全く受けない。
だと! どこの昭和アニメ・ヒーローだよ! あっ? あれは
「なッ、何でこんな無駄なモノが!? サテラなんでそんなモン持ってるんだ? そもそも、
「初めから持っていましたが、何か?」
「いやっ、何でもないよ」
相いも変らず冷たいです。サテラさん。ペルカもあまりの展開にあんぐり口を開けたまま固まっている。サテラさん、ソレって俺達の世界のテレビの影響だよね! ねッ!
よく見ると
「おい、お前たち!! 話をする気が有るのか!!」
ドゥランが、
「いや済まない。俺はヤマトという。考古学者でね
俺は直前までの出来事はなかったことにして、しれっと此処に来た状況を説明した。
俺とサテラが神だということは、いまのところは内緒にしておくことにしてある。
今回それでもヤマトと神名を名乗ったのは、サテラの提案で、彼ら狼人族は、うまくいけば俺がはじめて手に入れる巫女の眷族になるのだから、後々のことを考えて信頼の証をたてておいたほうがいいだろうという理由だった。
「考古学者? そんなもので飯が食えるのか? それよりも、不可思議とは何だ。我らはあの山に住む神と契約をした。その結果、いままで神に守られてこの森で生活して来れたのだ」
男、ドゥランは、胡散臭そうに言い捨てる。外見年齢的に三十五歳前後くらい見えるからもしかすると、四十年前の事に詳しくないのかもしれない。でも寿命二百年位の種族なんだよね? 狼人族。
「それおかしいだろ。彼女に聞いた話だと、君たちがこの森を育ててやっと飢えることがなくなったときに、その神とやらが後からやってきて、森に毒を振りまいたんだろ? そして、それを止めて欲しければ巫女を生け贄に出せと言ってきた。客観的に見て、森を捨てるのが惜しくなったところで、妨害して生け贄を要求なんて、
俺は、男だけでなく村中に響くように大声で話した。
「ぬぅっ、我らを守る神を愚弄するか!」
聞く耳持たずですかこいつら。ドゥランだけでなく、周りの奴らの怒気まで上がってしまった。
森の中からも、殺気がビシビシ飛んでくる。
サテラさんの能力が飛び抜けてるから何とかなりそうな気もするけど人数が人数だしな、戦闘になったらどうしよう。
神になった自分が言うのも何だが、なんかこう神様を盲目的に信じる奴ってどうも性に合わないんだよな。もっと自分で考えろよ。
「いや、君ら神に守護されてないだろ。これまで、問題無く暮らしてこれたのはここが元々平和な場所だからだよ」
俺には、【サーチ】で彼らの能力値が見えているからハッキリ言える。だって、【守護神】の欄が〈無し〉になってるからね。
「キサマ! 許せん!!」
男達が武器に手を掛け抜き放った。
サテラさんがいつの間にか鞘に戻していた剣に手を掛けている。
「ドゥラン! 待て!!」
「族長!?」
いまにも襲い掛かってこようとした男たちが、村の中らやってきた壮年の男の一声で、周りを囲む男たちの動きが止まった。
族長と呼ばれた男がドゥランに端によるように身振りでうながした。ドゥランが大槌のような雰囲気だとしたら、族長は切れ味の良さそうな大斧みたいだ。何気に見た基本の能力値も、ほとんど俺より上だし。差は少しだけどね。ただスキルが色々有るし、戦闘系が半端ない。爪牙闘士レベル18だって。生命力がサテラさん並みだ。名前が、フォルムってあれ? 聞いたことがあるような。
「長老がお前の話を聞くそうだ。だが、……ペルカ。お前を村に入れる訳にはいかない。此処で、待つように……」
「
ペルカは辛そうに呟いた。
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