第21話 注目の対戦!

 ――そして、ついに決闘当日となった。

 やはり舞台は学院内の円形闘技場である。


 クローディア・ウィンフィールド対サニー・フェアハートの対戦は大変な注目を集め、いつも以上に多くの観客で賑わっていた。


 観客席は奪い合いの地獄と化していたが、マリアには特等席が用意されていた。

 もちろん、最前列の司会者席の近くである。


 ただし首から『賞品♡』と書かた札をかけられていた。

 マリアの表情は険しいが、それはいつものことである。


 マルシアがアリーナに現れ、観客の注目を集める。

 すぅ~っ息を吸い込むと、魔術で強化した異常に大きな声で司会進行を始めるのだった。


「みなさ~ん、こんにちは~!! 王立魔術学院決闘管理委員会のマルシア・ポーターでございます! 本日は特にお客様が多いようですね。それも当然――ッ! 今回の一戦は極めて注目度が高いものとなっているからですッ! 戦うのは本学最高クラスの戦闘力を持つ二人ッ! ――それでは選手入場ッッ! まずはクローディア・ウィンフィールド選手ですッ!」


 名前を呼ばれてクローディアがアリーナに現れる。


「皆様~、ごきげんよ~♪ クローディア・ウィンフィールドでございますわ~♡」


 両手を大きく振り回して観客、特にマリアにアピールしながら中央に向かった。


「もはや説明不要ッッ! 入学後わずか1週間で決闘を申し込んだという愛すべき問題児です! おっと、説明してしまいましたね☆ 非常に高い戦闘力はすでにこの闘技場で証明済みッ! 特に魔力量で彼女に勝る魔術師は稀でしょう。――さ~て、続いてサニー・フェアハート選手の入場ですッ!」


 サニーもアリーナに現れる。

 ちらりと横目でマリアを見ただけで、特に観客にアピールすることもなく中央に進んだ。

 登場からしてすでに二人の違いがよく出ている。


「ウィンフィールド選手ほど目立ってはいませんが、その実力は匹敵するものと言われています。

 魔力量で劣る彼女の強みはその卓越した剣術です。力のウィンフィールド選手か、技のフェアハート選手か――答えはもうすぐ出るでしょう!」


 10メートルほど離れて対峙する二人。

 クローディアがニコニコしているのに対して、サニーは険しい表情をしている。


「ここで会ったが100年目――というやつですわね、サニーさん」

「いや、毎日会ってるし。今朝も会ってるし」

「いやですわ、決戦前のお決まりの台詞ですのに」

「そもそも決戦とかしたくないし。不戦勝最高だし」

「さてさて、続いては賭け品の紹介です。ウィンフィールド選手が賭けたのは……従者のマリア・ウェルトンさんです! 正確にはウェルトンさんに剣術を習う権利です! 彼女は魔術師ではありませんが、剣術に非常に秀でているとのことです。ではこのマリア・ウェルトンさん、どれくらい剣術が強いのでしょうか? この王都を震撼させていた魔術師連続殺害事件のことは記憶に新しいですね。知る人ぞ知ることではありますが、実はその実行犯たちの大半を彼女が倒しているのですッ!」


 観客席にどよめきが起きる。


(あまり目立ちたくはなかったのですが……)


 マリアはやや苦い顔をしている。


「その様子を見たフェアハート選手は彼女に剣術を習いたいと申し出ました。しかし、ウィンフィールド選手は条件を付けましたッ! そう、自分との決闘に勝つことです! 決闘大好きクローディア・ウィンフィールドなら当然のことッ! そもそも、二人は授業の模擬決闘で戦ったことがあります。ですが、フェアハート選手は早々に降参サレンダーしてしまい、真の決着には至りませんでした。決闘大好きなウィンフィールド選手としてはこれが我慢ならなかった! だからこんな条件を出したのです。そして、決闘ということは両者賭けるものが必要ッ! フェアハート選手が賭けたものは、なんとウィンフィールド選手が持っている剣です! 賞品をすでに手にしているとはどういうことでしょうか? これ実はアルバート・ロックウェルさんとの学内決闘で折られてしまった剣なのです。それをフェアハート選手が魔術で修復しました! ウィンフィールド選手が勝てば、その代金を支払わなくていいという約束になっています。ちょっとややこしいですが、事実をそのままをお伝えしました。――ということで両者、相違ありませんか?」

「ありませんわ」

「ないわ」


 ここでマルシアは超スピードでマリアの側に移動した。

 本来ならかなり驚きそうなものだが、マリアは顔色ひとつ変えなかった。


「ところでウェルトンさん、この決闘に対して何か一言お願いしま~す☆」

「死なない範囲で勝手にやっててください」


 マルシアの音量増幅魔術でマリアの声が会場中に響いた。


「なかなか辛辣なコメントですね☆」


 そしてまた瞬時にアリーナの中央に戻る。


「それでは、ルールを確認しま~す。まず、武器と魔術の使用は自由です。直接的に他人の手を借りてはいけません。相手を殺してはいけません。ちなみに殺してしまったら退学もありえます。ただし、相手の生殺与奪を握った時点で勝ちとみなします。降参しても負け、気絶しても負け。あと、我々が深い傷を負ったと判断した場合も負けです。怪我をしても死んでさえいなければ、回復魔術でだいたい治りますのでご安心ください。優秀な魔術師ほど死ににくいので、お二人は特に大丈夫でしょう。なお、観客席の皆様は決闘管理委員会が責任を持って結界魔術などでお守りします。――以上です」


 そしてマルシアは司会者席に移った。

 やはり訪れる嵐の前の静寂……。


「それでは、運命の時は来たあああああ! よ~い、始めッ!」


 開始の合図とともにクローディアとサニーは魔力を開放し、薄い炎のようなものに包まれる。


「行きますわよっ、サニーさんっ!」

「来なさいッ、クローディアッ!」


 ついに両者の剣が激しくぶつかる。


「やはりウィンフィールド選手の方が魔力は高いようです。この差をどうやって埋めるのか、フェアハート選手の技術に注目です!」


 やはり高い魔力に頼ったクローディアの斬撃は速く重い。

 対してサニーは最小の合理的な動きで対応する。

 隙のない動きで相手の隙を突く、それがサニーの戦い方だ。


 さらに今回の決闘において重要なのはクローディアの剣を破壊してはいけない――ということだ。


 強すぎる魔術師であるクローディア・ウィンフィールドにも弱点はある。

 それは剣の才能がないのに剣に拘ることである。


 サニーにとって鋼鉄の剣を破壊するのは造作もないことであるが、クローディアと戦う場合は絶対にやってはいけない。

 剣を失ったクローディアは解き放たれた猛獣そのものだ。

 できるだけ剣術比べでクローディアを消耗させなくてはならない。


 だが、そのような思惑は直接的でなくとも薄っすらと透けて見えてしまったりする。

 特にクローディアのような優れた魔術師には――!


「サニーさん、イマイチ殺気が足りませんわね……。そんなことでワタクシに勝てるとでも?」

「心配しなくても絶対勝ってあげるから安心して負けなさいッ! もっとも、すぐに降参してくれたら嬉しいんだけど?」

「まさか! ようやく巡って来た機会です。こんな楽しい時間を簡単に終わらせるわけがありませんわ♡」

「あ、そう……。よかったわ――ねッ!」


 時折、サニーの攻撃がクローディアに届くが、当然、すぐに回復される。


(これでいい……。できるだけこのまま引っ張る!)


 回復で魔力を使わせれば、枯渇が早くなる。

 だが、大人しく魔力切れに追い込まれるクローディアではなかった。


「う~ん、やはり剣術ではサニーさんには勝てないのでしょうか……。それでは、ようやくお見せする時がきましたわね」

「なんの話よ……?」

「これですわ!」


 クローディアは自分の頭部から蔓を一本引き抜いた。


「…………ッ!」


 振り回すと先端から強烈な空裂音を発した。

 それはまさに鞭――蔓の鞭である!


「おーっと! 突っ込みたくても突っ込めない雰囲気に満ちていたウィンフィールド選手の頭部の薔薇の正体がついに明らかになったあああああっ! それは鞭! つまりは武器だったのです!」

「正確にはオシャレ武器ですわ。普段差しているサーベルと同じです」

「まぁ、アンタらしいわ……」


 軽口に反してサニーの表情が一層険しくなった。

 ついにクローディアが剣以外の攻撃手段を使い始めたからである。


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