第20話 ギリギリの勝算

「どうぞおかけください♪」

「へぇ~ここが委員会室ねぇ……」

「ワタクシは二度目ですわ♪」


 クローディアとサニーはソファーに腰掛ける。


「なんで、隣に座るのよ!? フツー向かい合うように座るわよね!?」

「ワタクシとサニーさんの中でしょう?」


 クローディアは甘えた声出しながらサニーに頬擦りする。

 サニーの鼻孔が薔薇の香でくすぐられる。


「おやおや、こんな仲の良い決闘者たちは初めて見ましたよ」


 マルシアが目を丸くする。


「ええ、ワタクシたちとっても仲良しですの♪」


 クローディアはサニーに抱きつこうとするが、サニーは押し返す。


「そんなに友情を感じてくれてるなら普通にマリアさん貸してくれない?」

「嫌ですわ」

「もう決闘とかやってられるか! 今ここでぶっ殺してやるぅううう!」


 サニーがクローディアに掴みかかるが、マルシアたちがなんとか引き剥がす。

 両者、向かい合う形で座り直した。


「ぜぇぜぇ……今日のところは見逃してあげるわ……」


 サニーは捨て台詞っぽいものを吐く。


「ほらコリンくん、お茶とお菓子をお出ししてくださ~い」


 マルシアの指示に従い、コリンはどこからともなくティーポットを取り出す。


「どうしてコリンさんがいますの!?」

「何やってんのアンタ……?」

「何って、委員会活動だよ……」

「コリンくんを決闘管理委員会にスカウトしました。優秀な人材を発掘するのもまた我々の重要な使命なのです!」

「ふ~ん、そうですの……」


 クローディアの興味は薄いらしい。


「クリームティーだよ」


 そう言って、コリンはクローディアとサニーの前にそれぞれ紅茶を置き、中央にスコーンを盛った皿を置いた。

 クロテッドクリームとジャムが添えられている。

 やはりムシャムシャとすごい勢いでスコーンを胃袋に収めていくクローディア。


「おかわりをお願いしますわ♪」

「アンタ何しに来たのよ!?」

「スコーンを食べに……ではありませんでしたわね。サニーさんがどうしてもワタクシと決闘がしたいって……」

「事実と異なるわ。訂正を要求します」

「それでは、お二人が決闘する理由を再度お聞かせください」

「まぁ、昨日言った通りですよ。コイツの従者に剣を習いたいのですが、そのためにコイツが出した条件が決闘に勝つことなんです。戦いは避けたいのですが仕方ありません。ついでにアタシが教えるに値する人間であることを示します」

「なるほど、理解できました。クローディアさんも異論はありませんか?」

「ありませんわ」

「それでは決闘日を決めましょう」

 そして前回と同じく、最も近い休日が選ばれた。

 二人が誓約書に署名をしてことで、委員会は準備に動き出した。


「それにしてもフェアハートさんは戦うのは好きじゃないけど、強さには貪欲なんですね」

「程度の差は合ってもそれがフツーだと思いますけど……」

「でも、好きこそものの上手なれと言われていますよね?」

「マルシア先輩は何が言いたいのですか?」

「本当に戦いが好きなクローディアさんに勝てるのかなぁ……と思いまして」

「趣味嗜好は好きに変えられるものじゃありませんから」


 サニーはそう迷いのない瞳で言い切った。


「あと、そもそも因果関係が逆ですよ。クローディアは魔力が大きいから持て余しているだけです」

「なるほど、そういう考え方もありますね」

「こういう考えしかないはずです。どんなに戦いが好きでも魔術師じゃなければ弱いですから」

「なるほど! そういう考えしかないですね☆」


    *


 ――さて、決闘を申し込んだはいいが、相手はあのクローディア・ウィンフィールドである。

 圧倒的な魔力を持ち、戦闘センスもそこそこ優れている。

 その上、軽薄そうな言動に反してマジメであり、日々の鍛錬を欠かさない。


(考えただけで目眩がしそう)


 この難題を解決するためにサニーはタルコットにアドバイスを貰うことにした。


「コリンが突然強くなったのにはタルコット先生が関係しているのはわかっています」

「まぁ、関係しているといえば、関係していますが……」

「でしたら、単刀直入に訊きます。クローディアに勝つためにはどうすればいいですか?」

「クローディアさんと何かあったのですか?」


 サニーは成り行きを語った。


「う~ん……。普通に戦えばウィンフィールドさんが勝つ可能性の方がやや高いですね」

「やっぱりそうですか……」


 サニーは肩を落とす。


(決闘のタイミングを遅らせるべきだった……? それはどれくらい? 一ヶ月? 半年? でも、クローディアだって強くなるわ)


「まぁ、手がないわけではありませんよ」

「本当ですか!?」

「少しでもフェアハートさんが勝つ確率を上げたいのであれば……ウィンフィールドさんに剣をプレゼントしてください」

「それはもうやりました。正確にはアルバートとの決闘で折れた剣を修理したのですが……」

「それは素晴らしい」

「それでどうして勝てるのですか?」

「それは簡単ですよ。ウィンフィールドさんが剣術であなたに劣るからです。そして、あなたは決してウィンフィールドさんの剣を破壊してはいけません」


 ここまで聞いて、サニーはタルコットの意図を察した。


「……なるほど、その手がありますね」

「本当はこういうどちらかの肩を持つのは良くないのですが……。それでもここはあなたが勝った方がいいと思います」


 はたして、タルコットのアドバイスでサニーは勝利できるのか?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る