第四章 さらなる強さを求めて
第19話 弟子入り志願
――休日の昼、城壁外の牧場。
いつものようにクローディアがマリアに剣の稽古をつけてもらっていた。
「やはりお嬢様の動きは無駄が多いですね。どうせ魔力で補えばいいとか思っているのでしょう……?」
「別に思っていませんわ。やはり貴族としては優雅で美しい剣術をお見せしなくてはなりません」
「それではどうして上達しないのですか!?」
「もしや、マリアには剣術を教える才能がないのではありませんの?」
「確かに本格的に人に教えるのは私も初めてですので、その可能性は否定できません。……わかりました。もう剣を教えるのはやめます」
「え?」
クローディアは口を半開きにした状態で固まる。
「本来、私の仕事は身の回りのお世話のみですからね。無理して才能のないことをやる必要もありません」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい――」
「はて? 何か謝られるようなことがありましたか?」
「教える才能ないとか言ってごめんなさい」
「いえ、別に怒っているとかではなく、本当に才能ないのではと思いまして……。おや、どなたか来ます。サニー様ではありませんか」
マリアの言葉通り、サニー・フェアハートが近づいて来た。
「本当に才能がないかはアタシで試してみればいいわ」
開口一番、サニーはそんなことを言った。
「愛しのサニーさん! 休日にわざわざ会いに来てくださったの?」
と、クローディアは嬉しそうに言うが……。
「アンタじゃなくてマリアさんに用があるのよ」
「え?」
またしてもクローディアは口を半開きにした状態で固まる。
「私に……でございますか?」
マリアはマリアで意外そうだ。
「う~~~っ!! サニーさんはいつからそんな浮気者になりましたの?」
クローディアはわざとらしく頬を膨らませる。
そんな彼女を無視して、サニーは話を進める。
「アタシに剣を教えてくれないかしら? もちろん
「私の一存ではなんとも。お嬢様がよろしいのであれば……」
マリアはクローディアをちらりと横目で見つつ答えた。
サニーは渋い顔をしながらクローディアの顔を見る。
「もちろん――ダメに決まっていますわッ!」
クローディアは即答した。
「な・ん・で・よ!?」
「それは……」
「それは……何よ?」
クローディアとサニーが睨み合う。
「サニーさんがワタクシとの決闘を断り続けているからですわッ!」
まさかこの様な理由で断られるとは――。
だが、クローディア・ウィンフィールドという人物を考えれば十分にありえることだったはずなのだ。
「うぐ……。だって仕方ないじゃないっ! やる理由がないんだから……」
「理由なら今できましたわ! ワタクシとの決闘に勝利できれば、マリアへの弟子入りを認めましょう」
マリアは異論を挟まなかった。
クローディアが負けても大きなリスクが考えられなかったからだ。
ならばお嬢様の意向を尊重するまで――。
「アンタが勝った場合はどうなるの?」
「そうですわね~」
目を閉じてニヤニヤする。
「気持ち悪いわね」
「決めましたわ! ワタクシが勝った場合は剣をプレゼントしていただきますっ!」
「……クリスタリウムのは無理よ。あと純金製とかも」
「今から負けた場合のことを考えていますの?」
「決闘するんだから当たり前じゃない。喧嘩売ってんの?」
「まぁ、確かに売っているのですが……」
サニーはクローディアと違ってリスクに敏感なのだ。
つまりは小心者である。
鋼の精神にして小さな心臓――矛盾するようでそれは確かに成立しているのだ。
「ところでお嬢様、今回も剣を持たずに挑まれるのですか?」
「あ……そうですわ!? どうしましょう?」
頭を抱えるクローディア。
「それじゃあ、剣を先にプレゼントするわ。アンタが勝った場合はそのままアンタのものにすればいい。逆にアタシが勝ったら授業料から差っ引いてもらうわ」
「素晴らしい提案ですわ!」
「とりあえずさっさと買いに行くわよ」
ところがここでマリアが口を挟む。
「お待ち下さい、お嬢様。以前の決闘で折れてしまった剣のことをお忘れですか?」
踏み出したクローディアの足がピタリと止まった。
それを見たサニーも歩みを止める。
「サニーさん、確か笑顔が素敵な方々との戦いで折れた剣を簡単に繋げていましたわよね?」
ベリア教会十三聖人のアルビーナとアーテルのことだ。
「笑顔が素敵な方々って……。ちゃんとパーツが揃っているならそれでもいいわよ」
「ちゃんとありますわ。それでは家に戻りましょう」
*
「こちらです」
家に入るとすぐにマリアが折れた剣を持ってきた。
それをサニーは受け取り、左手に柄側を右手に剣先側を持つ。
「それじゃあ、繋げるわよ。ちちんぷいぷい、折れた剣よ繋がれ~」
サニーはよくわからい呪文を唱えながら折れた断面同士をくっつける。
断面の周囲が赤熱し、周囲の温度が一気に上る。
間もなくして赤熱が収まると、剣はすっかり繋がっていた。
「はい、どうぞ」
サニーは直した剣をクローディアに手渡した。
クローディアはじっくりと剣の具合を確かめる。
単に熱で溶かして繋げたのではない。まさに元通りなのである。
「素晴らしいですわ!」
「この技術で儲けられそうですね」
マリアはそう言うが、サニーは首を横に振る。
「そうかもしれないけど、アタシはあくまで貴族として働きたいからやらない。アンタだってそうでしょ?」
「確かに、ワタクシがサニーさんでしたら同じことを考えます」
確かに魔術を使う仕事は貴族が行っても恥ではないとされるが、その中でも貴賤があるとされる。
まぁ、貴族たちが勝手に決めていることだが――。
「あとは決闘の申請ね。明日の放課後に決闘管理委員会に申請するわ」
「わかりましたわ♪」
*
――次の日、放課後。
「どーも、クローディアさん、サニーさん」
クローディアたちのクラスにマルシアが現れた。
「はい?」「……なんですか?」
名前を呼ばれて二人が反応する。
「お迎えに上がりました~♪」
マルシアは上機嫌だ。
「どうしましたの?」
「またまた~。やるんですよね? け・つ・と・う♡ で・ゆ・え・る♡」
「どうしてマルシアさんがご存知ですの?」
「決闘の気配を感じ取るのは決闘管理員の重要な素質なのですよ」
「いや、アタシが昨日の夜、寮で話しただけだから……」
「さぁさぁ、詳しい話は委員会室へ」
マルシアは二人を委員会室へ連れて行った。
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