第18話 事件が終わって
クローディアたちは王都の門の近くにいたマリアと合流すると4人揃って王都警備隊の詰め所を訪れた。
すぐに現場調査員が派遣される。
当然、翌朝より事情聴取が行われることになった。
事情聴取が終わると、クローディアたちには――いや、多くの王都の住人には日常が帰ってきた。
だが、裏では王都警備隊と魔術師ギルドによって必死に捜査が進められていた。
捜査が進むにつれて次々と関係者が逮捕され、それによってまた捜査が進んだ。
実行犯たちについて調査が進んだ結果、やはり彼らの多くは没落貴族であることがわかった。
それだけでなく、主犯であるファーレンハイトもまた同じような没落貴族だったのだ。
ジーク・ファーレンハイトというのが偽名かどうかはわからないが、少なくともアリスター人としての名はデレク・ラザフォードだった。
このラザフォードが魔術に目覚めたのは30歳を超えてからである。
生活には困らないだろうが、王立魔術学園に入学するにはあまりにも遅すぎた。
これでは魔術師として政府の要職に就くことができない。
そこにベリアの工作員である双子が接触、その誘いに乗ったということだろう。
ちなみに、双子――アルビーナとアーテルは『十三聖人』と呼ばれる、上位聖職者の2人であったらしい。
十三聖人はそれぞれ黄道十三星座に対応しており、『双子座』に当たるのが彼女たちだった。
つまり十三聖人は14人いる。
ただし、双子の魔術師――もとい聖人は非常に珍しいため、二人合わせても他の十二聖人に比べると実力は劣るらしい。
クローディアたちの行動は独断先行であるとして問題視されたが、総合的に賞罰なしということで落ち着いた。
そのことにクローディアたちはだれも不満を口にしなかった。
だが、気になるのは自分たちの代わりに敵を倒したのは誰かということである。
七魔貴族の誰かによるものらしいが、詳細は国防上の秘密らしい。
おそらく王都警備隊の誰も真実を知らないだろう。
自分たちで敵を倒せなかったことは残念であるが、それでも貴重な戦闘経験を得られた。
とりあえず事件は解決し、王都の雰囲気は圧倒的に改善したのであった。
*
ある程度事件のゴタゴタが落ち着いた後、クローディアたちは墓地を訪れた。
目的の墓石は一際立派だったのですぐに見つけることができた。
決闘伯爵ことアラン・ゲイルの墓標である。
「オジサマ……仇を討てたのかはわかりませんが、とりあえず事件は解決しましたわ」
捧げる花は持ってこなかった。
代わりにクローディアが魔術を使って辺り一面に美しい花々を咲かせたのだ。
「決闘卿は本当に亡くなったの? あの双子と戦っていた時のアンタは決闘卿だった。もしかして右腕を食べちゃったアンタの中で生きているんじゃないの?」
そして自分と戦ったことも覚えているのではないか――そう期待せずにはいられなかった。
「それは半分正しくて半分間違いですわ」
「どーいう意味よ?」
「あれはワタクシの技術です。これまでの会話、戦闘、そして身体の情報を元にワタクシなりに再現したオジサマなのですわ。だからサニーさんのおっしゃる通り、ワタクシの中では生きている――ともいえますわね」
「つまり、高度なモノマネってわけ?」
「そうなりますわね。あそこまで上手くできるにはかなり厳しい条件がありますが……」
「はぁ……」
サニーは呆れたような感心したような、どちらともいえない反応を返すしかなかった。
*
続いてクローディアたちは貴族御用達の高級な飲食店に来ていた。
生き残った祝賀会である。
「お゛し゛ょ゛う゛さ゛ま゛あ゛あ゛あ゛、い゛き゛て゛て゛よ゛か゛っ゛た゛あ゛あ゛あ゛!!」
マリアは泣き叫びながらクローディアに抱きつく。
「おーヨシヨシ、いいこでちゅわね~。ワタクシは死にませんわ~」
高価な
「どうなってるのよ、マリアさん」
「ものすごい変容っぷりだよね」
いつものクールな様子から想像できない状況にサニーとコリンは驚いている。
「実は……マリアはものすごく酒癖が悪いのですわ」
「……家でもこんなのなの?」
サニーが呆れたような表情で尋ねる。
「いえ、マリアは自覚していますのでいつもはお酒を飲まないのですわ」
「よっぽどキてたのね」
「……そうです……わね。さすがに今回はワガママが過ぎましたわ。それでも後悔はしていません」
「確かにかなりいい経験を得られたわ」
「そうですわね! やはり成長するためにはリスクを取らなくてはいけませんわ! おーほっほっほ♪」
「アンタのその変な笑い方、ナントカなんないの?」
どうにもならない。
「お゛し゛ょ゛う゛さ゛ま゛あ゛あ゛あ゛、せ゛ん゛せ゛ん゛わ゛か゛っ゛て゛な゛い゛!! し゛ん゛し゛ゃ゛っ゛た゛ら゛と゛う゛す゛る゛の゛て゛す゛か゛!?」
マリアが叫びながらクローディアの首根っこを掴み、一同が驚く。
「こんな状態でも意外とちゃんと聞いてますのね」
「意外といえば……アンタ、結構ゼリーメンタルだったのね」
「なんのことかしら? ワタクシは貴族ですから常に勇敢だったに決まっていますわ!」
「何よ! アタシなんか茫然自失になっているアンタを庇って腕を切られちゃったじゃない!」
「そうですわ! サニーさん、その腕を溶接みたい感じで繋ぎましたわね。まるで金属ですわ」
「実際にアタシは自分の骨を鉄に置き換えているからね」
「とりあえず、クローディアさんでも茫然自失になるんだね」
「なりませんわ」
「いや、僕は戦いの様子を魔術で見てたけど、明らかにおかしかったよ?」
「き……気のせいですわ」
「やめなさい、コリン。コイツはこうやって勇敢なフリをしていないと自分を保てないカワイソウなコなのよ」
「貴族は大変だね」
「アタシも貴族なんだけどね」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
変な声を上げたクローディアはそのまま口を半開きて天井を見つめるのだった。
「あ、クローディアさんも壊れた……」
「人間なんて脆いものよ……」
「逆にサニーさんは鋼のメンタルじゃないの?」
「う~ん……。戦闘力的な意味で強いって言われるのは嬉しいけどね。精神力が強いって言われるのは嫌だし、それを自称するなんてもってのほかよ」
「どうして?」
「だって精神力が発揮されるってことは追い込まれているってことじゃない?なんでも気楽に華麗に解決できるならそっちの方がいいわ」
「だけど、クローディアさんは勇敢な精神こそ、貴族らしさだと考えているみたいだよ?」
「弱いから勇気なんて必要なのよ!自分が十分に強ければ勇敢さなんてまったく不要だし、臆病と思われることもないわ」
意外な答えだったが、あまりに筋が通っていたので納得するしかない。
「まぁ、今回は気楽さや華麗さからはほど遠かったけど、生きて帰れたアタシたちの勝ちよ!」
「それはそういう扱いなんだ……」
「そうですわ! 結局、勝つのはワタクシなのですっ!」
「あ、復活した」
「
「いい根性している、って言ったほうが早いかもね」
「ところで話は変わるけど、七魔貴族の空位ってどうなるのよ? 子供が引き継ぐの?」
「よく勘違いされるけど、七魔貴族って正式な爵位じゃなくて魔術師ギルドの幹部のことだからね。だから子供に引き継がれたりしないんだよ」
「そうでしたの!?」
「もっとも、七魔貴族になるくらいの魔術師なら正式な爵位も得ているけど。決闘伯爵も本当に伯爵だったし、そっちは息子が継承したらしいよ」
「それで、次の決闘伯爵はやはり決闘で決めますの?」
クローディアの期待に満ちた眼差しに耐えきれなくなってコリンは視線を逸らす。
「あ、いや……なんか期待しちゃってるところ悪いんだけど、別に称号が決闘伯爵である必要はないんだよ。結局は残りの六人が決めることだからね。いや、五人だね……ん? 六人だったかな?」
「どうして迷うのです?」
「七魔貴族っていうけど、実は公開されている名簿には6人しか載っていないんだよ。決闘伯爵を含むとしてね。残りの1人は『欠番侯爵』と呼ばれている」
「“欠番”はともかく“侯爵”って何よ? 欠番なのに確定しているわけ?」
「わからないよ……」
「まぁ、いいでわ。よくないけど……」
「つまり、残りの方々に頼めばワタクシが成れるかもしれないということですの?」
「無理だよ。だって七魔貴族になるには王立魔術学院を卒業していないとなれないもん」
「学歴差別ですの?」
「このまま普通にしていればクローディアさんも卒業できるから心配しなくていいよ。普通にしていればね……」
「ですが、その時に空位があるかわかりませんわ」
「……まぁ、そうだよね」
「そうなったら決闘で勝ち取るしかありませんわね」
「それも無理だよ。だってギルドの規則で役職を賭けることを禁止しているもん」
「それではどうすれば成れますの?」
「魔術師として、国や人々に多くの貢献をした人が就くよ」
「貢献というのは、どういったものを指しますの?」
「わかりやすいのは戦争で活躍するとかかなぁ……」
「でしたら、まずは戦争を起こさないといけませんわね」
「冗談でもやめてよね」
食事を楽しんだ後、クローディアとマリアは城壁内の家へ、サニーとコリンは学院の寮へと帰っていった。
ちなみにマリアは自分では動けない状態だったため、クローディアが担いで持って帰ったのであった。
結局、クローディアたち自身で解決したといえるのか微妙なところではあるが、この事件によって大きく成長したのである。
そしてクローディアたちの成長はまだまだ留まるところを知らない!
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