第17話 魔法侯爵
「あらあら、コリンくん大ピンチなのねん☆」
王立魔術学院の教師、アンナ・フェネリーである。
「フェネリー先生!?」
「さすがにこれ以上は見てるわけにはいかないわねん♡」
「どうしてここに?」
「散々教え子たちを殺されてさすがに見過ごせなかったのよん☆ だけど、あなたたちがやってくれそうだったから隠れて様子を見ていたのだけど……」
「だけど……?」
「さすがにコリンくんが危なそうだから出てきちゃった♡ も~、ダメよ、ダメダメ! 先生に手間を掛けさせちゃ☆」
「はぁ……」
突然のフェネリーの出現に一時的に驚いた双子だが、それは単に登場人物が増えたことによるものではないらしい。
「きょ……教皇帝陛下……?」
「なぜ……このような場所に……?」
アルビーナとアーテルは明らかに動揺し、奇妙なことを口走る。
「ど、どういうことだ?」
それを聞いたファーレンハイトも動揺する。
「うふふふふ……教皇帝陛下がこのような場所にいらっしゃるわけありません」
「あはははは……上手く変装したようですが、それだけでは騙せませんよ」
「と、とにかく、教皇帝陛下ではないのだな?」
「ええ」「もちろん」
敵は勝手に納得して落ち着いたようだ。
「騙すも何も、私はこういう顔よん☆ 変装とかじゃないわ。ベリアの教皇帝と似ているのもタマタマよ、タ・マ・タ・マ♡」
「うふふふふ……偉大なる教皇帝陛下に似ているというだけで不敬罪です」
「あはははは……即刻、処罰してさしあげます。もちろん死罪ですよ」
「よくわかんないけど、ものすご~く勝手なことを言ってるってことだけはわかるよ」
「そうよね☆」
「うふふふふ……それではファーレンファイトさん、敵の魔術を封じてください。私たちが剣で敵を倒します」
「あはははは……何も問題ありません。七魔貴族ですらこの手段の前には無力でしたから」
「その七魔貴族って~アランくんのこと?」
「うふふふふ……ええ、確か――」
「あはははは……そんな名前でしたね……」
「そう……」
次の瞬間、四人はフェネリーの表情から底しれぬ恐怖を感じた。
「アランくんは中々の問題児で結構手を焼いたんだけでど、それだけに思い出深い生徒だったわ。卒業した後、彼も七魔貴族になっていろいろあったわね」
フェネリーは懐かしむように語る。
「え? フェネリー先生って七魔貴族だったのですか? 七魔貴族の名簿の中に先生の名前はなかったはず……」
「コリンくんは七人――いえ、アランくんを除いた六人全員の名前を知っているの?」
「いえ、1人欠番ということでした」
「その欠番っていうの実は私なのよ」
「え?」
「私は七魔貴族の1人でアンナ・フェネリーよ。称号は『魔法侯爵』ね。最近じゃ『欠番侯爵』とも呼ばれているわ」
「ええっ! どういうことですか? 欠番っていないって意味じゃないの?」
「七魔貴族って知られるといろいろ面倒事が舞い込むのよ」
もちろん、今の話は敵も聞いている。
「うふふふふふ……おもしろいことを聞きました」
「あははははは……本当ならもう1人七魔貴族を殺せるということですから」
「どうしよう……先生?」
コリンの実力ではファーレンハイト1人と拮抗するのがやっとである。
だから、すがるような瞳でフェネリーを見る。
勝てるかどうかはフェネリーの実力に掛かっているのだ!
「まぁ見てなさい……」
狼狽えるコリンに対して、フェネリーは全くの余裕の表情で魔導書を開く。
アルビーナとアーテルは剣を抜いて構える。
「よし、反魔術で魔術を封じたぞ。これでやつらは魔術を使えない。そして我らも聖術を使えない」
「うふふふふふ……何も問題ありません。相手は剣すら持っていないのですから」
「あははははは……魔導書使いは何もできません」
アルビーナとアーテルがフェネリーに斬りかかってきた!
「それっ!」
フェネリーは右手の人差し指と中指からそれぞれ光線を発射した。
「「え?」」
意外すぎる攻撃に双子は反応できず、二人共が心臓を貫かれた。
アルビーナとアーテルは瞬く間に燃え尽きた。
コリンもファーレンハイトも驚きを隠せない。
「な、なぜだ!? 反魔術の中で魔術が使える?」
ファーレンハイトは驚愕しながらも反魔術を解除すると、すぐに双子の回復を行った。
双子はなんとか立ち上がるが、動揺は隠せない。
「回復魔術? 無駄よ無駄。――哀れな双子よ、死になさい」
そうフェネリーが言った直後、双子はその場に倒れて動かなくなった。
「どういうことだ……? 完全に死んでいる」
今度はファーレンハイトが狼狽える。
「まず、私には反魔術が効かないわ」
「なんだと!?」
「ちょっと手の内を見せすぎじゃないかしら? とはいっても、手の内が限られていればそうするしかないわよね?」
「くっ……」
「あとは『即死魔術』でオシマイよ」
「『即死魔術』だって!?」
「『即死魔術』だと!?」
コリンとファーレンハイトが驚くのも無理はない。
そもそもどうして魔術師は敵と戦う時、わざわざ身体強化や爆発などとまどろっこしいものを使わなくてならないのか?
直接殺害したり、気絶させたりすればいいのではないのか?
世界の
だが、介入しやすいポイントとそうでないポイントがあるのだ。
そして特定の人間を直接殺すというのは難しい。
まるで魂を抜き取られたがごとく“死因のない死体”が残ってしまうからだ。
「今調べてみたが、“死因”がわからなった。確かに即死魔術を使われた可能性は否定できない」
「可能性も何もそうなのだけどね」
「だが、私は反魔術を使っていた。魔術に対して抵抗できない状態だったからできたのではないか? もしかしたら魔力のある者に対しては使えないのではないか?」
ファーレンハイトはこの状況になんとか希望を見出そうとする。
「じゃあ、あなたは試してみる? 私の力を――! 抵抗してみる? この『王者の書』の力に――!」
「待て! 情報を聞き出そうとは思わないのか?」
ファーレンハイトは咄嗟に時間稼ぎを試みる。
だが、
「いえ、もう話は十分に聞かせてもらったわ」
「何っ!?」
「――だから、死になさい」
フェネリーに命じられてファーレンハイトはそのまま倒れて動かなくなった。
そしてフェネリーは魔導書をフォルダーに戻すと彼女自身も元に戻った。
コリンはフェネリーからあの恐怖を感じなくなった。
「あ~終わった終わった。あ、まだあの樹が残ってるわねん☆」
「先生、十分な話ってどこの誰から聞いたのですか?」
「そこで死んでる三人からよん☆ 私にかかればヒミツは筒抜け丸見え♡」
「……そ、そうですか。とりあえず助かりました」
「気を緩めるのはまだ早いわよん☆ クローディアちゃんたちを助けないと♡」
「……そうだ、みんなのところに行かなくちゃ!」
「まぁ、これはコリンくんだけで大丈夫ね♡」
コリンは急いでクローディアたちの所に向かう。
*
到着したコリンを待っていったのは、不自然な速度で成長する巨大な樹だった。
「おう、ボウズ! おまえもこれを破壊するのを手伝え!」
何やらクローディアの様子がおかしいが、理性があるらしいのでヨシとした。
「とりあえず、この樹を破壊すればいいんだね?」
「そうだ!」
「わかった!」
そう言ってコリンは『愚者の書』を手に取った。
「――
コリンが反魔術を発動させると、みるみる内に破滅の大樹は朽ちていった。
「……すごいですわね」
気がつくと、クローディアは元に戻っていた。
反魔術によって
「その反魔術ってチートじゃない? アタシらの苦労はなんだったのよ……」
サニーがげっそりと疲れ切った表情で言った。
「でもサニーさんたちが頑張ってくれたおかげで被害を最小限に食い止めることができたのは確かだよ」
とりあえずコリンはフォローしてみる。
「まぁ、そーよね」
「それでこの後、どうしますの?」
「とりあえず王都警備隊に連絡するしかないよね」
「ところで、二人とも服がボロボロだけど、直してあげようか?」
「不要ですわ。ボロボロの方ががんばった感が出てよろしいのではありませんの?」
「そーよね。どうせ
「いや、僕はあまりダメージを受けていなんだ」
「戦っていませんの?」
「そうじゃないんだけど、敵が『賢者の書』の持ち主だから、膠着状態になっちゃって」
「それで勝てましたの?」
「いや、誰かが助けてくれたんだ」
「誰か……って誰よ?」
「そうだ! 七魔貴族の1人、“欠番侯爵”だよ!」
「聞いたことがありませんわね……。それになんですの? そのフザケタ称号は……」
「どんな人だった? 名前は?」
「なぜか思い出せないんだ……。あの人がどんな人で、どうやってあいつらを倒したのかを……」
「それは奇妙ですわね……」
「もしかしたらコリンの言ってることは正しいのかもよ? その人は物凄い実力があって、かつ慎重なのかもしないわ」
「なるほど、それでコリンさんの記憶を操作したと」
「う~ん、だとしたらやっぱり凄腕だわ」
サニーは腕を組んで唸る。
「不気味ですがどうしようもありませんわ」
「そうだよね……」
「それはそうと、コリンさん。見栄えを整えるために、ワタクシがちょっとボコって差し上げましょうか?」
「いらないよッ!」
「
「クローディアさんの貴族観がかなり心配だよ。本当に“あの本”を読んだの?」
「もちろんですわ♪ 本をそのまま真に受けるのではなく、あくまで1つの参考にする。それが知性というものではなくて?」
「正しいけど間違っているよ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます