とあるカップルのデート
もりくぼの小隊
とあるカップルのデート
「ごめんなさい。待たせちゃったかしら?」
デートの待ち合わせに遅れちゃったあたしはすでに待ち合わせ場所で待っている彼に謝りながら近づくと
「いやぁ、はっはっはっ。いま来たところなんだよ僕も」
彼は腰に手を当てて豪快に大きな身体を揺らし笑う。彼の横にはコーヒーの空き缶が三本見えた。
「もう、みっくん。嘘がヘタなんだから」
彼の名前は
「だって、まほちゃんは僕のためにオシャレして遅れちゃったんでしょ? いやぁ、幸せもんだよ僕は」
ちょっと照れくさそうに癖っ毛な髪を掻いて笑う彼はちょっと可愛いなっていつも思う。見た目はプロレスラーみたいで厳ついけど、もうなれちゃった。
「たまには怒ってくれてもいいのに」
「怒るなんて、はっはっはっ。理由は無いね」
暑苦しくも爽やかに笑うみっくん。最高の彼氏なんだけど、ちょっと不満もあるんだ。
「それじゃ、車はあっちに駐車してあるから、行こうか」
「車って、みっくん……もしかして」
あたしはちょっと嫌な予感を覚えながらみっくんの後を付いていって駐車場へと向かう。
「……やっぱりかぁ」
駐車場に停めてある彼の愛車は真っ白な「バン」だ。横に(株)なんたら工業とか書いてある現場作業に乗りつける車。通称「べんとうばこ」だ。これからデートをする二人が乗り込む車では断じて無い。普通は無い。
「もう、バイト先の車を借りて来ないでって、いつも言ってるでしょっ」
あたしがジト目で見ると、みっくんは苦笑いをしながら
「いやぁ、今日は遠出するでしょ。僕、まだ自分の車持って無いしさ。社長も気前よく貸してくれるからさあ。大丈夫。入念に洗車して中も綺麗にしたから」
なにが大丈夫なんだろうか。デートってものをわかって欲しい。せめてレンタカーくらい借りればいいのに。
彼、みっくんはどこか無頓着な所がある。せっかく、頑張ってオシャレをしてデートを楽しみにしてもガックリする事が多い。
「お腹空いたでしょう。美味しい所見つけたからそこに行こうよ」
と、言って今日連れてこられた場所は期待を裏切らない似たような「べんとうばこ」や「トラック」が停車する大衆食堂だった。しかも、食券タイプ。オシャレしてるあたしは場違いに浮いていて居心地悪いけど、彼はちっとも気にせずに大盛りの天ぷら定食を食べている。あたしは呆れる程に溜め息を吐いて、やけくそに普通盛りの天ぷら定食を食べた。
まぁ、実際みっくんがオススメするお店はどれも美味しいけどさ。今日も揚げたての天ぷら美味しかったし、特に玉子のやつ。ご飯の上で半熟を潰して醤油垂らしたらサクサク衣の玉子かけご飯になって本当に美味しい。けど、やっぱりデートでくる店じゃないよね。
「美味しかったねえ」
「うん……まぁねぇ」
あたしはテンション低く助手席に乗り、彼の横顔を見つめる。はぁ、カッコいいんだけどなぁ。なんでこうなんだろう。まず彼と結婚するビジョンが浮かばない。そのうち別れるだろうな……あたし。でも、みっくんのお母さんからは
ーーーー絶対別れんでね! あのバカ息子の嫁になってくれるのはまほちゃんしかいないのよっ!?ーーーー
なんて、言われてるけど。自信ありません。まぁ、別れたら喫茶店のバイトはやめないといけないかなぁ。みっくんのお母さん。うちの喫茶店の店長だもん。うわぁ、気まずいわぁ。
「あのさ、まほちゃん。今日のデートね、びっくりさせようと思って言ってなかったんだけど」
みっくんはどこかホクホク顔であたしになにかを伝えようとする。あたしは気の無い顔でそれを聞く。たぶん、またあたしの期待を裏切るだろう。
「今日はカープの二軍練習場に行こうよ。午後から何人か一軍が調整にくるらしいんだっ」
……みっくんさぁ。
「そういう事は早く言ってくれなくちゃっ!?」
マジで、チケット取れないから一軍の選手観れるの嬉しいんですけど。誰が来るのかなっ!
「いそごっ! 駐車場無くなっちゃうよ」
「はっはっはっ、了解!」
あたし達の車はかっ飛ばして、二軍練習場に向かう。もう、今日は楽しい1日になりそうっ。
とあるカップルのデート もりくぼの小隊 @rasu-toru
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