第四章 第十五話

高速に乗って15分くらいした、車内。

「四条様。今回はゾ―ディア財閥の事にご協力いただき誠にありがとうございます。なんとお礼申し上げたらよいのやら……」

「いえいえ、この件は俺が引き起こした事なので、むしろどう謝罪したらよいのか……」

 車はICを抜け、一般道へと出た。しかし、渋滞につかまってしまった。ここからヤマナニュービルディングまでは歩いて15分くらいだ。この渋滞を抜けるのには恐らく30分は要すだろう。

「メアリーさんここでおります!ここからは歩いていきますね!送って頂きありがとうございました!」

「いえいえ、どうかお気をつけて行ってらっしゃいませ」

 笑顔で手を振ってくれるメアリーさん。いかにも、大人って感じで、美しいなぁ~


 夏の日差しに煽られて歩くこと5分

シュパンッッッッ

 なにか細い棒状のものが顔の真横を突っ切った。

「チッ。外したか」

「だ、誰だ!」

「誰だとは冷たいね、柊人」

「その声は!四条八一!」

 四条八一。過去に四条家の財産を持ち逃げして本家から出家した四条分家の息子だ。7年前くらいに和平会議で顔を合わせたのが最後だ。(瑞穂情報)

「よく覚えててくれたね~。久しぶりだねえ」

 感動の再会にナイフが付属するとは……危うく、逝っちまうところだったぜ。

「なんだよ八一!今更和解しようなんて無駄だぞ?」

「和解?何をいってるんだい。僕はねぇ、君を暗殺しに来たの。でもかわされちゃったから暗殺は失敗か……」

 俺を暗殺しに来た?!いくら本家と分家で仲が悪いからって命のやり取りまでしなくても!!なにしろ、殺人を犯してしまったら、財産がどうこうという話では済まなくなる!

「君はシルフとかいう団体にいるそうだね。シルフにはうちの社長に借りがあるからねぇ。それを今かえさせてもらうよ~?」

「借り?シルフ?なんのことだ!」

 何故八一がシルフの事を知っている。理解が追い付かない。

「とぼけないでよ。柊人クン。君が、組織の一員だという事はもうわかっているんだ」

 突如としたクン付けの呼び方。悪寒が走る。

「うちの波間カンパニーの現社長 波間真仁はシルフに何度か、やられちゃってるんだよねぇ~まぁ、調子乗って喧嘩吹っ掛けて負けてる社長も社長だけど……だから、ここで死んでくんない?」

 意味が分からない。シルフが喧嘩?何を言ってるんだコイツは……

「理解できてないようだね。じゃ~教えてあげるよ。今、厨二病研究にはシルフ・波間カンパニー・ゼラリアという3つの団体が参入している。すなわち、この3つの団体が均衡を保って、世界を支配しているんだ。でも、一昨年くらいから波間カンパニーは研究が一歩遅れてしまってね……社長は武力で均衡を破って優位に立とうとしたんだ」

「武力でって……」

「言葉の通りさ、秘密裏に戦争さ……君が平和に学園生活を送っている裏の社会では銃刀法違反なんて、おかまいなしに実銃で殺し合いさ。でも、政府は黙認。なぜか分かるかい?それは、この3つの団体を敵に回すと、世界が崩れてしまうからね。黙認せざるを得ないんだ」

 俺が世界を歪める前からシナリオは進んでいたのか?つまり、これはすべて仕組まれたことなのか?あぁぁぁあ!もうますます分からん!

「だから、って!そんなことをしていては、いつまでたってもこの世界はよくならないじゃないか!第一に、どんな理由であれ、人を殺していいわけがない!」

 八一が不気味に微笑んだ。

「君は、まだ、そんなことをいっているのかい?これだから本家の人間は。平和ボケも大概にしろよ?この世界はなぁ。お前が思ってるように都合よくできちゃいねぇんだよ!人を殺していい理由にならない?冗談じゃねぇ!テメェのせいで、何人が死んだと思っている!自分だけ棚に上げるな!愚か者が!!」

 八一の一言が胸に刺さる。どんな鋭い刃をも凌駕する切れ味で心をズタボロにされる。真白の光景が、体育館での光景が頭をよぎる。

「やめろ!やめろ、やめてくれぇえ!俺は人なんて殺していない!俺は悪くない!俺は……俺は!!!」

 脳が真っ白になる。息が荒くなる。心臓が破裂しそうだ。自分の脈を打つ音が、耳鳴りのように聞こえる。

「さぁ!足掻け!他人の苦しんだ分、今痛みを味わぇええええ!アッハッハッハ!」

 不気味に笑いながら。こちらを面白がってみてくる。視線がさらに痛い。なんの変哲もない、いつもの道がまるで、閉鎖空間のように迫ってくる。ヤメテヤメテヤメテ。

「そうだ。柊人。久しぶりに会ったから、その記念にいいことを教えてやろう。この戦いが終わったら、世界は一つになれる!もう誰も死ななくていいそんな素晴らしい世界だ!犯罪も起きない。暴動も起きない。みんなが望んだ理想の世界だ!どうだ?どうだ?なぁ!!どうだ!!そんな素晴らしい世界だぞ?今なら、こっちにこれる。そうだ、柊人。波間カンパニーに付かないか?一緒に世界を創らないか?俺たちが創造主だ?どうだ!アッハッハ!」

 低い声ながらも、胸に突き刺さる嫌な声だ。胸が痛む。目が滲む。素晴らしい世界』に脳が反応してしまう。スバラシイセカイスバラシイセカイスバラシイセカイ……誰も死なない世界。それなら、俺が誰にも迷惑をかけずに済む。そんな素晴らしい世界。

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