4.おわりに
すでにインタビュー分析においていくつかの知見を確認してきたが、ここであらためてポイントを整理しておきたい。
佐村の指摘するように、荒木さんにとってのHDSはi3Dというテクノロジーへの不適応の側面が強い。40歳であることを理由に技術革新についていこうとせず、旧来のコミュニケーションに固執してしまったため、周囲の人間関係に齟齬が生じていた。そこで柔軟に対応できればよかったものの、i3Dという悪玉のせいで「ロボットとおしゃべり」しているみたいな気持ちになり、大好きなゾンビゲームもできなくなったという責任転換をなしてしまったがために、荒木さんの孤立化が進んでいた。
もちろん荒木さんを責めるのは誤まりである。誰にとっても新しいことへの挑戦はストレスを伴うものであり、不安だって感じるものだからだ。荒木さんの不幸は誰にでも起きえたものである。ただ、一度こじれてしまった人間関係をi3Dなしに解きほぐすことは困難であったというだけなのだ。
そして、荒木さんのHDS治療過程への質問では、MSTについて3つの示唆が得られた。①現行のMSTが有効であること、②i3Dの着脱練習が効果的であること、③患者同士の相互扶助が欠かせないこと、である。いずれもHDSが器質的障害とみなされ、テクノロジーへの適応障害と考えられていない現状にあって、大きく欠落している観点である。
荒木さんが息子さんについて語った言葉は、今考えれば、HDSに苦しむ人たちを1人でも減らして欲しいという訴えであったのかもしれない。本研究が、新しいMSTの開発に資することを願わずにはいられない。
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