第8話
夜に喫茶店まで出向くのは、キッシュを作った日以来だろう。『CLOSED』の札が掛かった『波打ち際』の扉を開けた果澄を、翠子は温かく
「ありがとう、待ってたよ! お互いの家が近いと、集まりやすくていいよね」
閉店後の店内は、
「でも、最高のタイミングでゴーヤーをお
話しながら翠子は、早くもゴーヤーを五ミリほどの
手を洗った果澄が、指示通りに作業をこなしていくと、翠子が豆腐をフライパンに並べていった。ジュッと爽やかな音が
「ここで、豆腐とゴーヤーをフライパンに戻して……あっ果澄、作り置きの味噌汁を二階から持ってきてるから、温めてくれる? ごはんは、炊飯器に残ってるよ」
果澄に声を掛けた翠子は、具材に塩を振ってから、溶き卵を
果澄は、ごはんと味噌汁の準備をしながら、引き続き調理の様子を見守った。焼けた卵は、
「完成! 熱々のうちに食べよう!」
楽しげに笑った翠子は、出来立てのゴーヤーチャンプルーを、二枚の皿に取り分けた。モダンな花柄の
「喫茶店で和食を食べるのって、ちょっと不思議な感じがする」
「そう? まあ、和食のときは、二階で食べてたもんね」
他愛ない話をしながら、二人でカウンター席に座り、「いただきます」と
「翠子って、こういう料理も上手なんだ」
「まあね。両親に仕込まれましたから」
さらっと翠子が言ったから、果澄は首を
「
「うん……」
――八月が、もう終わる。果澄の人生が変わった七月初旬から、二か月がたとうとしているのだ。
「そんなに
「え?」
「苦いなぁ、って顔をしてたから。特別苦い部分に当たっちゃったのかな、と思って」
「……うん、そうみたい……」
――『あんたはいつもそうやって、
母との電話のやり取りが、
もうすぐ訪れる九月の間に、喫茶店の定休日のどこかで、故郷に帰ろう。そして、両親と向き合って、改めて婚約破棄の件と、果澄の新しい仕事の話をしよう。
そのためにも――先に、済ませたいことがある。カレンダーから視線を外した果澄は、「翠子」と呼んで、少し緊張しつつも、はっきりと言った。
「達也が、次に喫茶店に来るときに、お願いしたいことがあるんだけど――」
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